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補助より抵抗が脳卒中者の歩行を変える

▼ 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中後の慢性期において、体重移動の運動学習を促進し、歩行時の麻痺脚の使用を増加させる誤差の拡大

Park, Seoung Hoon, et al. "Enhanced error facilitates motor learning in weight shift and increases use of the paretic leg during walking at chronic stage after stroke." Experimental Brain Research 239.11 (2021): 3327-3341.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 本研究の目的は,脳卒中生存者において,立脚期に非麻痺側へ骨盤側面牽引力を加えることで,麻痺側脚の強制使用が促進され,麻痺側への体重移動が増加するかどうかを明らかにすることであった.

[方法] 11名の脳卒中慢性期患者が、(1)「骨盤抵抗」または「骨盤補助」を適用したトレッドミル歩行と(2)地上歩行からなる2つの実験セッションに参加した。トレッドミル歩行では、麻痺脚の立脚期に、「骨盤抵抗」条件では非麻痺側へ、「骨盤補助」条件では麻痺側へ、横方向に引く力をかけた。

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✅ 図. 参加者は、ケーブル駆動のロボットシステムにより、非麻痺側(赤矢印、骨盤抵抗条件)または麻痺側(青矢印、骨盤補助条件)に横方向の力をかけながらトレッドミル上を歩行した。トレッドミル歩行中、麻痺側脚の筋活動および位置信号を記録した。

[結果] 力解放後、「骨盤抵抗」条件では、「骨盤補助」条件の効果に比べ、股関節ABD、ADD、SOLの筋活動の増強と、麻痺側への横方向の体重移動の改善が見られた(P < 0.03)。この横方向の体重移動の改善は、股関節ABDとADDの筋力活性化の増強と関連していた(R2 = 0.67, P = 0.01)。また、トレッドミル歩行から10分後に測定したところ、骨盤の抵抗条件は、地上歩行速度と立脚相の対称性を改善した(P = 0.004)。

[結論] エラー信号を増加させるために骨盤抵抗力を加えることは、慢性脳卒中生存者において、麻痺側への体重移動の運動学習を促進し、麻痺脚の使用を強化する可能性がある。本研究の結果は、脳卒中生存者の歩行を改善するための介入アプローチの開発に活用されるかもしれない。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

心理学用語に、「ブーメラン効果」というものがある。

✅ ブーメラン効果 >>> site
・ブーメラン効果は、説得による「態度硬化」「強い反発」を生み出すこと
人を説得するつもりが、かえって相手の強い抵抗や反発を招いたり、逆効果に働いてしまう現象のこと
. そろそろ宿題しようと思っていた矢先に親から「勉強しなさい!」と注意されると、かえってやる気がうせてしまう

今回の研究は、ブーメラン効果が運動制御の改変、運動学習においても当てはまることを証明した。
つまり、行って欲しい動作や運動方向に向けた「補助」をするのではなく、逆方向に「抵抗」をかけることでそれに反発するように力を発揮し、運動制御を獲得できるというわけだ。
これは、運動制御の改変を図る上で、大変重要な考え方だと思う。

1個人においても、そうじゃないか!
前に進むことができるのは、僕たちが前向きの力を発しているからではない。
僕たちが、「地面に対して逆方向の力」を加えているからだ。
そうすることで、地面から反力(床反力)を得て、前に進んでいる。
鳥だって、蚊だって、下に力を加えることで飛翔しているじゃないか。
すべて、地球上の現象はこの原理から逃れていない。

セラピストが押し込むのではなく、「押してきてもらう」のだ。
補助ではなく、抵抗を与えよ!

太初に背理ありき、背理は神とともにあり!
ニーチェ

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