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脊髄損傷者:水面下の筋活動を知るためのウェアラブルセンサー

▼ 文献情報 と 抄録和訳

スリーブアレイを用いた四肢麻痺者の動作試行時の麻痺筋への神経駆動のセンシングとデコード

Ting JE, Del Vecchio A, Sarma D, Verma N, Colachis SC 4th, Annetta NV, Collinger JL, Farina D, Weber DJ. Sensing and decoding the neural drive to paralyzed muscles during attempted movements of a person with tetraplegia using a sleeve array. J Neurophysiol. 2021 Dec 1;126(6):2104-2118. 

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ ハイライト_図はアブストフィギュア
- ウェアラブル電極アレイと機械学習法を用いて、運動完全四肢麻痺者の麻痺した筋肉における筋電信号と運動単位の発火を記録・解読した。筋電活動や運動単位の発火率は、目に見える動きがない場合でもタスクに特異的であり、1桁の動作の試行を正確に分類することが可能であった。
- このウェアラブルシステムは、四肢麻痺者が動作の意図を通じて支援機器を制御できるようにする可能性を持っている。

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[背景・目的] 運動神経細胞は運動の意図に関する情報を伝達し、それを抽出・解釈して支援機器を制御することができる。しかし、単一ニューロンの発火活動を測定するほとんどの方法は、埋め込み式の微小電極に依存している。皮質内ブレインコンピュータインターフェース(BCI)は安全で効果的であることが示されているが、手術が必要なため、非侵襲的なインターフェースの代わりに使用すれば、普及の妨げになることがある。本研究の目的は、慢性頸髄損傷後の麻痺した筋肉に残存する運動単位の活動を検出できるウェアラブルセンサーから運動制御信号を取り出すことの実現可能性を評価することである。

[方法・結果] 観察可能な手の動きがないにもかかわらず、個々の指の動きの試みや、手首や肘の表出動作において、損傷レベル以下の運動単位の随意的な勧誘が観察された。また、課題の屈曲相と伸展相において、運動単位のサブグループが共働していた。筋電図(EMG)パワー(二乗平均平方根)または運動単位の発火率から、一指の運動意図をオフラインで分類したところ、いずれの場合も分類精度の中央値は75%以上であった。また、バイナリ分類器を用いて仮想ハンドのオンライン制御を模擬的に行い、運動単位のリアルタイム抽出とデコーディングの実現可能性を検証した。その結果、1.2msで運動単位を抽出し、その発火率から88±24%の確率で正しい手の動きを予測することができた。

[結論] 本研究は、運動器完全麻痺者の損傷レベル以下の運動単位の発火率を記録し、デコードするためのウェアラブルインターフェースの最初のデモンストレーションを提供するものである。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

麻痺患者の「関節運動が可能か」はとても重要視されていると思う。
たとえば、入院時に足関節の随意的な背屈が可能なら、「あ、結構向上が見込めそうかな」と思ったりする。
もう一段降りると、関節運動が生じない中にも、筋活動・筋収縮の違いはある。
これを「水面下の筋活動」(図. A, Bは温存されていてDがない中で、Cがどうか)と呼ぶ。
「水面下の筋活動」の下に、「筋活動下の脳・脊髄興奮性・活動」(Aは温存されていてCがない中で、Bがどうか)という水面下もあるのだが、今回の技術では、そこは拾えないことに注意が必要だ。

2【Journal of neurophysiology】Ting, 2021:スリーブアレイを用いた四肢麻痺者の動作試行時の麻痺筋への神経駆動のセンシングとデコード_サムネイル

今回の研究においては、水面下の筋活動が「ウェアラブルセンサー」を用いて種類を識別できる程度にしっかりと検出できた。
これができると、何がよいか?
最新技術と組み合わせて、アンプ機能により意図した関節運動を引き起こせるかもしれないのだ。
アンプ機能とは、「水面下の筋活動」の小さな声を最新テクノロジーにより最大化することだ。

✅ アンプとは? >>> site
● アンプという言葉は、「増幅する」という意味のアンプリファイア(amplifier)から来ています。つまり音を増幅するという意味。
● CDプレーヤーやレコードプレーヤーが、CDやレコードから読み取る音楽の信号は非常に小さいため、そのままではスピーカーから大きな音を出すほどの力がない。そこでアンプによって信号を増幅してスピーカーへと送り、スピーカーを鳴らす仕事をしている。

このアンプ機能を脳-機械間で行うことを「ブレイン - マシンインターフェース(Brain-Machine Interface: BMI) 技術」といったりする。
BMIは、すでにいくつもの実績をあげている。
脳信号が麻痺患者に代わって「発言」した [Servick, 2021; Science]
脚が麻痺した猿を6日で歩かせた [Capogrosso, 2016; Nature]

これを、前腕からの水面下筋活動をトリガー・インプットとしてやろうというわけだ。
このように、出力量の不足により意図の表出・表現が困難になった方の自由を取り戻すための技術は、本当に素晴らしいと思う。
人類の叡智、その勝利の一形態である。

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