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野球選手の上腕骨後捻を現場で予測するアルゴリズム

▼ 文献情報 と 抄録和訳

プロ野球投手における上腕骨の捻転予測モデルの開発と内部検証

Bullock GS, Shanley E, Collins GS, Arden NK, Noonan TK, Kissenberth MJ, Wyland DJ, Arnold A, Bailey LB, Thigpen CA. Development and internal validation of a humeral torsion prediction model in professional baseball pitchers. J Shoulder Elbow Surg. 2021 Dec;30(12):2832-2838.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景] 上腕骨のねじれ(HT)は、肩関節の可動域を考慮した上で、投球時の腕の損傷リスクと関連があるとされている。現在、上腕骨のねじれを測定するには高価な装置が必要であり、臨床評価の妨げとなっている。HTの予測モデルを開発することは、臨床的な野球の腕の傷害リスクの検査を助けることができる。そこで、本研究では、プロ野球の投手を対象に、標準的な臨床検査や測定法を用いてHT予測モデルを開発し、内部検証を行うことを目的とした。

[方法] 本研究では、11年間(2009~2019年)のプロ野球コホートを使用した。参加者は、すべての練習や大会に参加でき、マイナーリーグの契約下にある者を対象とした。シーズン前の肩関節可動域(外旋[ER]、内旋[IR]、水平内転[HA])とHTを毎シーズン収集した。また、選手の年齢、腕の利き手、腕の負傷歴、出身大陸についても調べた。審査員は腕の利き手については盲検であった。先験的なパワー分析の結果、正確な予測モデルには244名の選手が必要であることが判明した。欠損データは少なく(3%未満)、完全な症例分析を行った。モデル開発は、個人の予後や診断に対する多変量予測モデルの透明な報告(TRIPOD)の推奨に従った。制限付き三次スプラインによる回帰モデルを実施した。一次モデルの開発に続いて、2000回の反復によるブートストラップを行い、オーバーフィッティングを減らし、楽観的な収縮を評価した。予測モデルの性能は,二乗平均平方根誤差(RMSE),R2,校正勾配(95%信頼区間)で評価した.感度解析では、優勢なHTと非優勢なHTを対象とした。

[結果] 407名のプロ野球投手(年齢:23.2歳(標準偏差2.4)、左利き。年齢:23.2[標準偏差2.4]歳、左利き:17%、アームヒストリー有病率:21%)が参加した。モデル内で最も影響力の高い予測因子は、IR(0.4, 95% CI 0.3, 0.5; P < 0.001)、ER(-0.3, 95% CI -0.4, -0.2; P < 0.001)、HA(0.3, 95% CI 0.2, 0.4; P < 0.001)、腕の利き手(右利き: -1.9, 95% CI -3.6, -0.1; P = 0.034)であった。最終的なモデルのRMSEは12,R2は0.41,キャリブレーションは1.00(95%CI 0.94,1.06)であった.感度分析でも同様の結果が得られた。

[結論] IRの3°ごとにHTの1°が説明された。ERの3°ごとにHTが1°少なくなり、HAの7°ごとにHTが1°多くなった。右利きの人はHTが2°少なかった。モデルは良好な予測性能を示した。この予測モデルは、臨床家が標準的な臨床検査や測定を用いてHTを推測するのに使用できる。これらのデータは、プロ野球の腕の怪我の検査を強化するために使用することができる。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

野球選手は、ボールを投げる際に投球方向とは逆の反力を常に受け続けている。
この反作用の力は、上腕骨に対して「捻れの力」を頻繁に加える。
幼少期からこの力が加わり続けると、何が起きるか。
骨の構造自体が捻れる。「上腕骨の後捻」である。
最近抄読した、スポーツ専門化によって引き起こされる問題の1つでもある。

「上腕骨の後捻」は、肩関節の内旋可動域を減少、外旋可動域が増大させる。
投球動作に当てはめると、ボールリリースまでの加速の滑走路が長く、リリース後の着陸路が短い、という状況になる。
このような極端な状態になると、起こってくるのが「傷害リスクの増大」である。

「上腕骨の後捻」が大きいと、投球障害肘を引き起こしやすいことが複数報告されている。これらより、「上腕骨の後捻」は投球障害のリスク因子として考えられている。

✅ Related study
Noonan, Thomas J., et al. AJSM 44.9 (2016): 2214-2219. >>> doi

しかしながら、スポーツ現場レベルで肩関節の可動域の左右差があった場合に、それがどの程度「上腕骨の後捻」に起因する制限なのかは分からない。骨の捻転状況を知るのは、容易なことではないからだ。
今回の研究は、肩関節の関節可動域から、おおよその上腕骨後捻角度を推測できる式を明らかにした。

今回の研究のように、ラボのデータを現場で生かせるような「武器」を授けてくれる研究は尊い。今後、スポーツ現場で肩関節内旋可動域の左右差に出会った際には、ぜひ参考にしたい研究だ。

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