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入院関連機能不全:メタアナリシスにより10のリスク因子が明らかに。

📖 文献情報 と 抄録和訳

高齢者における院内機能低下の患者関連リスクファクター。システマティックレビューとメタアナリシス

Geyskens, Lisa, et al. "Patient-related risk factors for in-hospital functional decline in older adults: A systematic review and meta-analysis." Age and Ageing 51.2 (2022): afac007.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 機能低下(FD ≒ 入院関連機能不全)は、入院中の高齢者によく見られる深刻な問題である。目的この系統的レビューとメタアナリシスの目的は、高齢者における院内FDの患者関連リスク因子を特定することである。

[方法] このテーマに関する過去のレビュー(1970~2007年)およびPubMed,Embase,CINAHLの各データベース(2007年1月~2020年12月)を検索した。含まれる論文の参考文献リストをスクリーニングした。急性期老人病棟または内科病棟に入院した高齢者の(入院前から)退院までのFDの患者関連リスク因子を調査した研究を対象とした。研究の質は、修正Newcastle-Ottawa Scaleを用いて評価された。プールされたオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)は、ランダム効果モデルを用いて推定された。エビデンスの質は、GRADEを用いて評価した。

[結果] 29の研究が組み入れ基準を満たした。以下に統計的に有意な危険因子をオッズ比の高い順に列挙する。なお、ナラティブシンセシスでは、病院前のFD、歩行補助の必要性、低体重指数などがさらなる危険因子として示唆された。

✅ 入院関連機能不全を引き起こす10のリスク因子
1. 褥瘡の存在(OR, 3.33; 95% CI, 1.82-6.09 )
2. ナーシングホームでの生活(OR、2.42;95%CI、1.29-4.52)
3. せん妄(OR, 2.34; 95% CI, 1.88-2.93 )
4. 手段的日常生活動作の障害(OR、2.08;95%CI、1.51-2.86)
5. 認知機能障害(OR、1.83;95%CI、1.56-2. 14)
6. 低アルブミン血症(OR, 1.79; 95% CI, 1.36-2.36)
7. 栄養不良(OR, 1.76; 95% CI, 1.03-3.14 )
8. 転倒歴(OR、1.71;95%CI、1.00-2.92)
9. 認知症(OR, 1.71; 95% CI, 1.23-2.38)
10. 併存疾患・合併症(OR, 1.09; 95% CI, 1.03-1.16)

[結論] 入院時にFDのリスクのある高齢患者を特定するために使用できる、いくつかの患者関連の院内FDの危険因子が特定された。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「専門化」&「チーム医療」、近年の医療体制のキーワード。
各科が専門化して、より深く、より狭く。
そして、各専門科が協働して、理想のチーム医療を!
確かに、聞こえはいい。
だが、その実、総合的人間としてのあなたの担当医は誰なのか?、という問題が出てきていないか?
たとえば、「私はあなたの主治医です」ではなく、「私はあなたの胃がんの主治医です」になってきているということ。
その外科医に「あの・・・、なんだか足が弱くなってきている気がするのですが・・・」と言っても、「胃がんはきれいに切除しましたよ。足のことは・・・、私は専門外なので分かりませんね」とあしらわれる。
わかりやすくするために、デフォルメした、ひどい医師を登場させたが、それに近い会話も多くなされているのではないだろうか。

その中で、「入院関連機能不全」、この弊害は年々明らかにされつつある。
そして、いまのところ「入院関連機能不全科」や「入院関連機能不全医」は存在しない。それが、何を意味するか?「私は門外漢なのでね」と軽視され、極端な場合、黙殺される。近年の医療において、専門科がない・専門医がいない領域は、着手されない可能性が高まってきているから。
胃がんの手術後、ずっとベッドの上で寝ていても何も言われない。それでは機能も低下するであろう。
『入院関連機能不全』とは、近年の高度な専門化が引き起こした、新たな問題の1つかもしれない。そう思っている。

ただ、嘆いていてもはじまらない。現在の医療体制の中で考えうる、入院関連機能不全を防ぐ方法とは何だろうか。

✅ 入院関連機能不全を防ぐ方法案
1. ジェネラリストを置く:全人間としての患者を担当し、生じたすべての異変に対して各専門科と連携するハブとしての役割を果たす。この場合、このジェネラリストはその仕事に専心することになるので大きなコストが発生する。
2. 全員が入院関連機能不全を知り、対応可能とする:入院関連機能不全は、入院した全患者が陥る可能性を有する。すなわち、職員全員が知識をもち、適切な専門科にアウトソーシングできる体制を整えることが望ましい。この場合、教育資源や教育体制の構築などに大きなリソースを割くことになる。
3. 予防チームを置く:これはかなり現実的だと思っている。「転倒予防ワーキンググループ」や「低栄養撲滅グループ(名前適当)」など、対応が手薄になりやすいけれどすごく重要なテーマに関して、ワーキンググループ・特設チームを作る方法。
4. そもそも対応をデフォルトにしておく:全患者に対してリハビリが入ること、ポリファーマシーの危険をスクリーニングするなど、入院関連機能不全を防ぐ手立てをデフォルトとしてしまうことで、対応を不可避とする。思い切った方法だが、効力が大きそうだ。

そして、今回の研究によって明らかになった10のリスク因子は、危険の大きい患者の特定を可能にするツールの作成に役立つ。
たとえば、今回の10のリスク因子からチェックリストを作成し、入院時に担当看護師がチェックをつける。そのチェックリストが3つ以上当てはまった場合、①リハ介入マスト、②入院関連機能不全ラウンドマスト・・・、といった具合に対応とリンクさせておく。

現代医療における「ミイラ取りがミイラになる」現象、入院関連機能不全。
「病気を治しにいったら、違った病気になる」、それでいいのだろうか。
いいわけがない!
なにせ、その大きな構成因子の1つは「不活動による廃用」。
思いっきり、理学療法士の守備位置ではないか。
総合病院に勤務している僕には、常日頃から肌に感じている切実な問題だ。
目を逸らすな。真正面から、問題に取り組め。

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