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私のための香水 

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#個人調香

Short story_芳醇

Short story_芳醇

*実験*****香りからイメージへ、イメージから現れる香り*****

perfume「2019秋天」_ Composed by Tokyo Sanjin

夏も終わりの夕方。目黒通りに傾く日差しは強い。

路線バスはのんびりとバス停に止まった。
そのサイドミラーの端に映ったのは、駆けつけてバスに乗り込んだ女性とその手の先に握られた小さな子供の手。
セーラーカラーの制服に身を包んだ園児の小さな手が

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玉手箱

玉手箱

Pleasures ESTEE LAUDER by Annie Buzantian and Alberto Morllias, in Firmenich

この香りを纏うようになって、四半世紀が経った。

そんな事実が、まるで他人事のように思える。だって私はまだあの頃と変わらず同じ電車に乗り、ファッションやメイクに興味を持ち、次の冬の旅行の計画や、美容院の予約、週末には友達と新しいビストロに行く約

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Marguerite

Marguerite

生花:マーガレット

マーガレットはあの夏ずっと、白い花を絶やさなかった。
伸びるままに任せた苗は瞬く間に木質化し、
茂みとなって庭の一角を塞いだ。
花の可憐さとは程遠い野生。
触れればキク科に特有の、苦みを含む青臭さが手に残る。
あの頃のメタファーとして繰り返し蘇る白い花弁、深い緑の葉、青い匂い。

手に入れたいものはたくさんあった。

何一つ叶えられる当ても無いのに、絶えなかった望みの数々。

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fifteen

fifteen

特別な懐かしさのある音楽の心地の良さに酔っているうちに、過去の奈落に引きずり込まれている。これまでに創り散らかしてきた幾つもの世界の断片。完成を見なかったそれらを無理に押し込んだ闇の底。時折、好きだった世界の記憶を拾い上げては口に含み、その感覚をこっそり味わっている分には問題無かった。戻り方を忘れて、意識が闇に混ざれば戻れなくなる。噴き出す悲しみや不安、不満。それらはもはや過去のもの、過ぎ去ったも

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Short story_亡姿実在

Short story_亡姿実在

ミルラ_調香原料

「お父様はね、姿は無くなってしまったけれど、魂は雄太の近くにいつもついていてくださっているのだからね。」

その日初めて会った、チリチリパーマ頭のおばさんは、僕の手をぎゅっと握ってそう言った。お母さんは今まで見たことがないほど泣いていた。僕はずっと泣いているままのお母さんの腕を掴んで揺すって、なんとか顔を上げさせようとしてみたが、知らないおばさんにそれを止められた。その黒いワン

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Column_フローラル/グリーン

Column_フローラル/グリーン

イリスとポプリ

対照的なふたつの香り。
両方ともにボトルの中が残り僅かになった。
現在販売されている同品はボトルがモデルチェンジした。
同じサンタマリアノヴェッラの特別な香りの抽出液、トリプルエキス、が製造中止になったのは、老舗の瓶製造工房がクローズしボトルが供給されなくなったためだと本店で聞いた。
ブランドを問わず、香水もボトルもともに良いものがに失われている。
一方、かつて在る特別な店でしか

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Short story_「夏の月」香りのサンプル

Short story_「夏の月」香りのサンプル

Sanjinの拙いShort story(不定期)にお目通し頂き、どうもありがとうございます。

香りからインスパイアされた物語。

物語からインスパイアされて調香された香り。

香りと物語はひと組でありながら、残念ながら香りはインターネットではお届けができません。

2019/07/27配信の「夏の月」について、試験的なことではございますが、ご希望の方に香りのサンプルをお送りすることに致します。

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東京残香 VIII 新木場

東京残香 VIII 新木場

FUEGUIA1833: Malabrigo composed by Julian Bedel

水面は見えないが、そのビルや倉庫群の向こうには太平洋へと続く湾が広がる。
そこは、もはや人が近づくことを許さない、物流運輸のための海。水路にならない場所はとうに埋め立てられた。
淡いグレーの空の下、只々だだっ広く、水平線の丸さを見て、この惑星がさして広くはないことを知る。
耐えられる程度に衛生

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山人業  writing works of Sanjin

山人業  writing works of Sanjin

note_by 山人ラボをお訪ね頂きどうもありがとうございます。

調香師:::アロマテラピーでもなく、ファッションフレグランスでもなく、ひとが抱くイメージの揺らぎを描き出す調香を学んでいます。昨年、調香師資格取得をしましたが、Ph.D同様に資格取得自体に意味は無く、プロ資格取得後から様々な事例を経験しながら本当の学びが始まったと言えます。

直接香りを感じることができないwebを使って、香りにつ

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秘境

秘境

香水:スニャータ(空) composed by Tokyo-Sanjin 東京山人

肌触りがよく手放せない服の幾つか。
履きなれたスニーカー。
革細工の小さなポシェット。
鮮やかな花が描かれたスカーフ。それは小学6年生の頃、雑誌に投稿した短編の原稿が掲載された時の景品。テーマは「夏の思い出」だったような。いつもお茶を淹れいる道具。この手で持ち運べるトランクのサイズはそれほど大くない。自分で運べな

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XXII.

XXII.

思考狭窄にならぬ様に
恐れることは何もないのだから

この世に溢れる未知 未知 未知
毎日のルーティンが感覚を鈍らせる
全て識った気になって 識った風に喋る 
そんなのはもう僕にはたくさんなんだ

空ひとつが刹那
二度と繰り返されない 

瞬きの後はすべてが新しい

宇宙が存在し得た過程の延長だよ 僕が馨しい花に鼻を近づけるのは
この惑星の息吹 荒ぶる大地 
物質がこの全ての意識を生むまで
僕の中

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XXI. ストレス 感覚 調香

XXI. ストレス 感覚 調香

容易に解らないこと、秘密、謎めいたこと、不確かなこと
それらを簡単な言葉に丸め込んで、難解な正確さよりも解しやすい嘘や、安易な結論を選ぶ傾向と、スニャータ調香はまったく相容れない。
正直なところ、調香は分からないことだらけだ。

調香に関する技術や知識を身に付けたければ、勉強し経験を積めば済む。
その先の、香りの謎や秘密こそが調香の魅力に違いない。
分からないことに真摯に向き合い続けることを止めれ

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XX.【受付】調香室 Śūnyatāスニャータ         2019年 個人調香・調香体験

XX.【受付】調香室 Śūnyatāスニャータ         2019年 個人調香・調香体験

個人調香・調香体験の2019年の受付を開始しました。

内容:

個人調香:約90分、10種類程度のその季節の天然香料に対する印象を伺いながらカウンセリングをします。それをもとに調香師の東京山人が貴方だけの感覚に向けた香水を調合します。混合香料の安定を待ち、一か月以内に5ccボトル入り香水をお渡しします。

調香体験:約90分、季節の天然香料をお試しいただき、ご自身の感覚を確かめていただきます。そ

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