山人業 writing works of Sanjin
note_by 山人ラボをお訪ね頂きどうもありがとうございます。
調香師:::アロマテラピーでもなく、ファッションフレグランスでもなく、ひとが抱くイメージの揺らぎを描き出す調香を学んでいます。昨年、調香師資格取得をしましたが、Ph.D同様に資格取得自体に意味は無く、プロ資格取得後から様々な事例を経験しながら本当の学びが始まったと言えます。
直接香りを感じることができないwebを使って、香りについて触れようとする時、たとえばトップ、ミドル、ラストとかシネオールとかラスティング効果、といったような調香の用語を並べて「説明」を試みることは、とてもつまりませんでした。
東京山人が伝えたい、香りの魅力や感動はそんな「説明」と対極にある、「個人が如何に感じるか」ということの中に在ります。
文字でショートストーリーを書くのは、香りから受ける印象、心の動き、イメージを、物語の中の時間の流れ、喜怒哀楽や切なさや闇、光、に落とし込んで、逆にその物語を読まれた方の印象では、どんな香りが想起されるのか?という、実験でもあります。物語の元となった私がインスパイアされた香りと、読まれた方が想起される香りがどれくらい近いのか、遠いのか、それは検証が難しいのですが、近くても遠くても、まったく違う香りを想像されても楽しいものです。
一つの出来事からひとが抱くイメージはひとそれぞれ。香りも同じです。その印象はひとそれぞれ。
感覚が捉える香りと想起されるイメージを突き詰めて向かい合うのが個人調香になります。
たとえば自分が、意識してはいなかったものの、実際にはとても強く影響を受けていた物事を、一旦きちんと具体的に意識できると、捉えどころのない不快さやもやもやが晴れるということはあります。
精神分析医が行っていることはまさに、本人が気付けていない重要な物事を読み解き、本人に認識させる、といったそのようなことかと思います。
同じことを、椎名林檎作品に感じました。本人が何かのインタビューで答えていたように、「”今この時代”を描きだす」「生き難さを生きている、救われない女性にとっての救い」が狙いであれば、見事、林檎作品は狙いの通りに精度よく「今」を描いている。誤魔化しのない、鋭い目で捉えた「今」「女性」を音楽という誰もが受け取れる形にして晒している。意識しづらい、東京特有の特殊な面から受ける苦しみは、音や歌、詞に具現化され、意識し向き合うことで楽になれる人は少なくないはず。
同じように、小説、絵画、音楽、なんであれ、何か、特に今の病理をきちんと描き出した作品は、病理に祟られた誰かの救いになりうる。鍛錬を経た魂が作り出す作品は、心に届き、人の抱くイメージを変え得る。
調香もそうありたいと考えています。
一方、見てくれや体裁を整えただけの、小手先のものは鋭い目を持つ人たちに見抜かれている、そのことに気付けていないことが痛ましい。
精進あるのみなのです。
東京山人
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