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私のための香水 

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#調香

東京残香 VIII 新木場

東京残香 VIII 新木場

FUEGUIA1833: Malabrigo composed by Julian Bedel

水面は見えないが、そのビルや倉庫群の向こうには太平洋へと続く湾が広がる。
そこは、もはや人が近づくことを許さない、物流運輸のための海。水路にならない場所はとうに埋め立てられた。
淡いグレーの空の下、只々だだっ広く、水平線の丸さを見て、この惑星がさして広くはないことを知る。
耐えられる程度に衛生

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山人業  writing works of Sanjin

山人業  writing works of Sanjin

note_by 山人ラボをお訪ね頂きどうもありがとうございます。

調香師:::アロマテラピーでもなく、ファッションフレグランスでもなく、ひとが抱くイメージの揺らぎを描き出す調香を学んでいます。昨年、調香師資格取得をしましたが、Ph.D同様に資格取得自体に意味は無く、プロ資格取得後から様々な事例を経験しながら本当の学びが始まったと言えます。

直接香りを感じることができないwebを使って、香りにつ

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秘境

秘境

香水:スニャータ(空) composed by Tokyo-Sanjin 東京山人

肌触りがよく手放せない服の幾つか。
履きなれたスニーカー。
革細工の小さなポシェット。
鮮やかな花が描かれたスカーフ。それは小学6年生の頃、雑誌に投稿した短編の原稿が掲載された時の景品。テーマは「夏の思い出」だったような。いつもお茶を淹れいる道具。この手で持ち運べるトランクのサイズはそれほど大くない。自分で運べな

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XXII.

XXII.

思考狭窄にならぬ様に
恐れることは何もないのだから

この世に溢れる未知 未知 未知
毎日のルーティンが感覚を鈍らせる
全て識った気になって 識った風に喋る 
そんなのはもう僕にはたくさんなんだ

空ひとつが刹那
二度と繰り返されない 

瞬きの後はすべてが新しい

宇宙が存在し得た過程の延長だよ 僕が馨しい花に鼻を近づけるのは
この惑星の息吹 荒ぶる大地 
物質がこの全ての意識を生むまで
僕の中

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XXI. ストレス 感覚 調香

XXI. ストレス 感覚 調香

容易に解らないこと、秘密、謎めいたこと、不確かなこと
それらを簡単な言葉に丸め込んで、難解な正確さよりも解しやすい嘘や、安易な結論を選ぶ傾向と、スニャータ調香はまったく相容れない。
正直なところ、調香は分からないことだらけだ。

調香に関する技術や知識を身に付けたければ、勉強し経験を積めば済む。
その先の、香りの謎や秘密こそが調香の魅力に違いない。
分からないことに真摯に向き合い続けることを止めれ

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XX.【受付】調香室 Śūnyatāスニャータ         2019年 個人調香・調香体験

XX.【受付】調香室 Śūnyatāスニャータ         2019年 個人調香・調香体験

個人調香・調香体験の2019年の受付を開始しました。

内容:

個人調香:約90分、10種類程度のその季節の天然香料に対する印象を伺いながらカウンセリングをします。それをもとに調香師の東京山人が貴方だけの感覚に向けた香水を調合します。混合香料の安定を待ち、一か月以内に5ccボトル入り香水をお渡しします。

調香体験:約90分、季節の天然香料をお試しいただき、ご自身の感覚を確かめていただきます。そ

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XVIII. Iris_保留剤

XVIII. Iris_保留剤

アイリス(ニオイアヤメ, Iris pallida)の根を6年以上かけ乾燥熟成させる。ゆっくりとした酸化反応により香気成分主体(alpha/beta)-イロン(irones; C14H22O MW206)が生成する。香料分子のなかでも比較的分子量が大きく”重い”=揮発が比較的遅い。

原料となる白く乾燥した根の塊はその見た目の地味さからも、到底香料原料になりそうもない物体で、褐色の点々も不気味。水

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XIII. 変わる市場

XIII. 変わる市場

写真は24年前、1994年12月フィガロジャポンの特集記事[「人気の香水」。当時、1994年9月末、CK oneがNYでリリース。人気香水としてDiorオーソバージュEAU SAUVAGE、ブルガリ オ・パフメEAU PERUFUMÉEなどが挙がっている。シトラス系、ユニセックス、フレッシュネスを謳うものが強い。香水が使い易く変化し、若年層、また男性にも広く浸透し始めた。つまり香りがカジュアルファ

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X. 感覚を守る

X. 感覚を守る

調香師になるまでの勉強は、生活の中で歪められていた本来の感覚を取り戻す修行だった。技術や知識はある程度独学で手に入れられるが、いくら技術と知識が増えようとも、自分の感覚に乱れがあればスニャータの調香はできない。調香師になった後も感覚が歪むことはあって、その歪みは面白いほど香りに現れ、ひどいことになる。調香ができるようになるまでの修行の過程は企業調香師のそれとは全く異なる。

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VIV. 香りを伝える表現

VIV. 香りを伝える表現

個人調香した香水をお渡しする際には、調香に使用した全ての天然香料名とその比率のメモを一緒にお渡ししている。再現材料にもならないので調香師にとってもクライアントにとってもさして意味はなく、調香した季節に沿った香料原料の備忘録に過ぎない。同様に、調香ノートのトップ、ミドル、ラストの香料成分記載は、香りのコンセプトを理解する手助けにはなるものの、必ずしもそれらの成分が香るわけではないため参考以上のもので

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VIII. sozo力

VIII. sozo力

“力のある香り”/“香りの力“

一見明快に見えても概念以上のものではない言葉。それぞれが好きなように解釈できるし、理解を諦めることにも都合がいいほど曖昧だ。
スニャータは実験の場でもあるので、誤りを恐れずに香りの力とは何のことであるのか、試みに話してみたい。

これまでに無かったものが、出来上がる。
それは物語の形であったり、道具であったり、人と何かの関係性であったり、音楽のようなものかもしれな

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I. 始点

I. 始点

その日撮った写真の日付から、2011年10月29日のことだったことが分かる。年に幾日もない、青く澄んだ色をした空。水面に移ったその青を写真に残していた。

設えが好きで、時々訪ねていたパフューマリーがあった。
20年も前には、お世話になった方の退職の記念とお礼に、そのメゾンで調達したアンブルボールを贈ったところ、とても喜ばれた。香りのあるものを贈ることには不安があったが、そのアンブルボールの形と香

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III. 力をもつ香水

III. 力をもつ香水

2013年12月、後にレッスン生として勉強会に加えて頂くことになる辻大介先生の個人調香を初めて受けた。そこに行きつくまでには、独学に加え、一般向けに開催されている植物療法や芳香療法の講習を受講してみたこともある。しかし、容易に手に取ることができるありふれた書籍に記載されている以上の情報は得られず、受講料を支払って知り得たことは、未だ香りは謎に満ちた世界であるにも拘らず、香りを使って何かをしようとし

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