なぜ地方の工務店は「まちづくり」に失敗してしまうのか?
「まちづくりをしよう」
工務店さんがそう考えたとき、まず思いつくのは「ハコモノ作り」ではないでしょうか?
カフェを作る。商業施設を作る。コミュニティプラザを作る。そうやって「ハコモノ」を作って人が集まってくれば、収益化できて、「まちづくり」はうまくいくーー。
ただ、それは失敗に終わることがほとんどです。
今回のnoteでは、ある工務店さんのプロジェクトの経緯を追いながら、なぜ「まちづくり」が失敗してしまうのか? そして、僕がまちづくりに本当に必要だと考えていることをお伝えできればと思います。
「風の森」プロジェクト
長崎県の浜松建設という工務店の社長が、まちづくりのために始めたのが「風の森」プロジェクトです。
森の中に、カフェや雑貨店、洋服店、ギャラリーなどを点在させて、人が集まってくるエリアを作りました。
「風の森」は評判もよく、年間数万人が訪れるようになっていました。
ただ、問題は「収益化できていないこと」でした。
人は集まってはいたけれど、それ自体で収益化はできていなかった。これは、まちづくりに取り組む工務店さんの多くが抱える問題です。
そこで2015年に僕らが支援に入らせていただきました。
まちづくりというのは、工務店さんにとっては「新規事業」にあたります。なので「既存の事業で収益化しているから、まちづくりで儲けなくてもいいよね」と考えがちになります。
ただ、この考え方が「罠」なのです。
「いちばんいい場所」が死んでしまう
たとえば、ウェブ制作会社がオフィスの1階でカフェをやったりするケースを見かけます。
「カフェで儲けなくても、自分たちが打ち合わせスペースとして使えるからいいよね」みたいな感じで始める。でも、そういう意識だとカフェはうまくいきません。結果的にせっかくのいい場所が死んでしまうのです。
同じミスを工務店もやってしまいがちです。
つまり、森にオフィスを構えて「ついでに集客もできたらいいよね」と考えてカフェをやったりする。でも、それでは結局カフェに人が集まらない。
するとどうなるかというと、本来いちばん集客ができるはずの一等地を自分たちが使ってしまうことになるわけです。
「人を集めればいい」という誤解
なぜ「収益化」に本腰を入れようとしないのか?
理由はいろいろあるのですが、いちばん大きいのは、住宅業界で流行っていた「ビレッジ戦略」が影響していると思っています。
「ビレッジ戦略」というのは、集客村(=ビレッジ)を作って人を呼ぶことさえできれば家が売れるはずである、という理論。
家の需要率はだいたい人口の1%と言われています。1万人いれば100戸の商圏があるということ。まちづくり単体で「収益化」できなくても、人が集まって家が売れれば、住宅の事業で回収できる。だから、まちづくりで収益化しなくても大丈夫だろう……。
人を集めるだけで家が売れるのであれば、観光地で住宅屋をやれば売れるということになってしまいます。現実はそんなに甘くありません。
その発想が、まちづくりの失敗を招くのです。
「集客さえできればいい」と思っているので、テナントに入るカフェや雑貨屋の賃料なども、ものすごく安くしてしまう。集客しか考えていないと賃料を度外視することにつながり、それがひいてはまちの価値全体を下げることにつながってしまいます。
お金を落としてもらうには?
とにかく「まちづくり単体で収益化すること」が大切です。
ただ人が集まるだけではダメで、ちゃんとお客さんにお金を落としてもらわないといけない。そこで、なぜ人は集まっているのにお金を落としてもらえていないのかを分析してみました。
すると「滞在時間が圧倒的に短くて、みんなお昼だけ来て帰っているから」だということがわかったのです。
風の森の役割は「集客」だったので、当時のKPIは「人が来ること」でした。そのため「滞在時間」のデータはとっていませんでした。そんな状況を変えるため、僕らが支援に入ってからは「滞在時間を意識しよう」という方針に変えたのです。
10アクティビティの法則
さらに、滞在時間を上げるために何かいい方法はないか? あらゆる本や資料を読んで必死に答えを探しました。
そうして辿り着いたのが「Power of 10」という海外の手法でした。アクティビティを10個つなげると滞在時間は延びるというものです。
アクティビティというのは、たとえば「食べる」や「語らう」「景色を楽しむ」「ベンチを置く」といったこと。それらのアクティビティを10個つなげれば、多くの人がお金を落としてくれる、という法則です。
僕は浜松建設の社長に「10アクティビティのとおりにやってみましょう」と提案しました。
アクティビティのなかでも僕らは「泊まる」というコンセプトに注目しました。僕らは「社長、いま風の森にモデルハウスが3棟建ってますよね。その1戸をつぶしましょう。代わりに民泊用のめっちゃかっこいい体験型の宿泊施設を作るんです」と提案したのです。
当時モデルハウスは、まだ3000万円ぐらいの残債がありました。それでも、解体してもらった社長からは「小林くんのせいで3000万が消えたわ」と言われましたが、僕は「大丈夫です!」と言って、新たに5000万弱の投資を依頼しました。
そうして森のなかに月300万円稼ぐ宿泊施設が誕生しました。
年間にすると3000万円ちょっと。10年で見ると3億円。つまり1戸で3億円もの価値がある宿泊施設を作ることができたのです。
結果的に1年でペイする見込みが立ちました。
エリアマネジメントの大切さ
10アクティビティによっていろんな人にお金を落としてもらえても、「また来たい」と思ってもらえなければ収益は安定しません。
リピーターを増やすことも大切です。
そこで大切になってくるのが「エリアマネジメント」という概念です。エリアマネジメントというのは、ようするに「まちとして飽きられない工夫をする」ということ。
たとえば、東京には「恵比寿横丁」や「渋谷横丁」などの屋台村がありますが、ああいう場所は「3年に1回、テナントを入れ替える」といったルールがあります。テナント料を調整し、新しい人が入りやすくしたり、3年経ったら「次の人に譲って、独立してください」と促すわけです。
「風の森」を運営する浜松建設の広報担当の村上さんは、この「エリアマネジメント」の大切さに気づいていました。
僕らが支援に入った時点で、プロジェクト開始からすでに10年以上が経っていましたが、それにもかかわらずお客さんが来続けていたのは飽きられないような「エリアマネジメント」を丁寧に進めていたからだと思います。
まちづくりのゴールは何か?
ところで「まちづくりのゴール」とは何なのでしょうか?
僕は「土地の値段が上がること」じゃないかと思っています。
「PL(損益計算書)」と「BS(賃借対照表)」で言えば、カフェや雑貨屋といった事業で儲けることも大切ですが(=PL)、人が集まって土地そのものの値段が上がること(=BS)が重要だということです。
いいまちを作っていれば、投資してもらえます。つまりお金が入ってくる。すると土地の値段は上がっていきます。
「風の森」の土地は、もともとミカン畑でした。
そこに浜松建設の社長がこっそりユンボを持ってきて、木をたくさん植えて、森を作ったのです。自分の土地の畑を家にしたり商業施設にしたりする分には「固定資産税もかからないだろう」と思っていたそうです。
でも途中で森のなかに建物を作っていることがバレたので、建物としての税金がかかるようになりました。
ようするに「資産」として税金の対象になったのです。土地としての価値がほぼゼロだったミカン畑が、森になってお客さんが来るようになったことで価値がついたわけです。
僕はそれを知ったとき「これは何かあるんじゃないか」と思いました。
たしかに当時はまだ事業が儲かっていなかったので、PLで見ると赤字でした。風の森を単独事業としてPLで分析すると赤字だった。
だけど土地の値段が上がることによって、BSで見たら儲かっているんじゃないか?
実際に調べてみると、まわりの土地の値段は上がっていました。ということは「風の森」の土地の値段も上がっているはずです。つまりBSで見ると儲かっていたわけです。
そのとき、まちづくりのゴールは「土地の値段を上げること」なんじゃないかと思ったのです。
「風の森」は僕らの支援前にも、もともと人が集まっていて、実は土地の値段は上がっていた。さらに10アクティビティやリピーターの獲得などによって収益化を進めることで、さらに価値は上がっていきました。
結果、工務店の仕事にもつながった
風の森は「まちづくり」としてうまくいき始め、浜松建設のブランドをさらに高めることにもつながりました。
浜松建設の社長はもともと地元のテレビやラジオに出ていましたが、さらにメディアから声がかかるようになりました。その結果、浜松建設の知名度も上がり、実際に住宅も売れるようになりました。
大分の行政からは「風の森のようなまちづくりを、うちでもやってほしい」という依頼がありました。そこでいま、大分と福岡の県境にコワーキングスペースやカフェを作っています。もともとその土地には何もありませんでしたが、少しずつまちづくりを進めているところです。
毎年1000万円の利益を30年出し続けられるか
ただここからは、少しシビアな話をさせてください。
僕らのもとにも「風の森みたいに、まちづくりがしたい」というご相談が舞い込むことがありますが、そのたびに僕らは「まちづくりの事業単体でちゃんと稼ぐ覚悟はありますか?」と聞いています。
というのも「風の森みたいにしたい」と言ってまちづくりに手を出したけど大失敗している事例が全国にたくさんあるからです。
「風の森みたいに3億円かけて森をつくれば成功するんだ」「とにかく集客すればいいんだ」と勘違いしてしまう。そうやって、大赤字になって死にそうになっているケースが多いのです。
ハコモノに3億円投資すれば、当たり前ですが3億円のキャッシュが出ていきます。決算上でいうと、毎年1000万円を30年かけて償却していかなければいけません。
ようするに毎年の収支が「マイナス1000万円」の状態からスタートすることになってしまいます。逆にいうと、毎年1000万円以上の利益を30年出し続ける必要があるということです。
それができなかった時点で、すでに「赤字確定」です。
お客さんは来ないし、ぜんぜん儲からないし、赤字だし……。どれだけ従業員ががんばっても、決算書にその成果は出ません。賞与も出なくてみんなやる気を失っていく。それが、まちづくりの失敗パターンです。
「夢」だけでは30年も続けられないのです。
僕らがまちづくりの支援をさせていただく場合は「まずその姿勢から変えましょう」と言っています。
テナントとは「10年契約」を結べ
まちづくりを始めるときは「投資した分は10年で回収する」という意識が重要です。
そこで僕らは「テナントとは最初に10年契約を結びましょう」と伝えています。いわゆる「テナントの先付け」をしなさいということです。
たとえば2億円かけて建物を作って、10年で回収しようと思ったら年間2000万円稼がないといけません。2000万円をテナント料で稼ごうとする場合、10テナント入るなら1テナント200万円です。
年間200万円を払うテナントというのは、東京だったらいるかもしれません。だけど、人が来ない田舎のテナントに200万円の家賃を払う人なんて、なかなかいないでしょう。
だから僕は工務店さんに対して、最初に「それでもまちづくりをやりたいですか?」と確認するのです。そこの覚悟を確認しておかないと、絶対に失敗します。もしやるなら「200万円を払いたくなるコンセプト」を作ってそれに共感してくれるテナントを口説かないといけない。
その覚悟がないと失敗してしまいます。
まちづくりは難しい。だから、面白い!
別のある事例では、4億円かけて建物を作ったのに年間で稼げている家賃収入が200万円しかありませんでした。1テナントからの収入じゃなくて、全テナントを足して200万円です。
「めっちゃ赤字」では言い表せないぐらいの大赤字です。
本来なら1年間で最低でも4000万円を稼がないといけません。それが200万円というのは、もう終わってます。1年で3800万円の赤字だし、それが毎年積み重なっていく……。
三井などの大手デベロッパーが田舎でまちづくりをしないのは、標準化されたコンテンツだと戦えないからです。ふつうにやったら無理なので、大手は参入しない。
大手が手を出さないくらい、田舎のまちづくりは難しいのです。
でも僕は「難しいからこそ、面白いんじゃん!」と思うのです。
まちづくりは、ありとあらゆる工夫が求められる、めちゃくちゃクリエティブな仕事です。難しいからこそ、大手のデベロッパーは来ない。でも裏返せば、競合はいないということです。
それに気づいている優秀な人たちは、田舎でのまちづくりはチャンスしかないと考え、既に行動に移しています。
ハードには投資するのに、人に投資しない不思議
まちづくりをするうえで、本当に大切なのは「人」です。
具体的には「コミュニティリーダー」になれるような人材です。コミュニティリーダーというのは、あらゆるコミュニティに入っていって、いろんな人をつなげていく存在こそが必要だと考えています。
しかし、コミュニティリーダーへの理解はまだまだ小さいのが現実です。
みんなハコモノ、つまり「ハード」には平気で4億円くらい投資します。だけどコミュニティリーダーなどのお給料といった「ソフト」に500万円を払うとなると、なぜかすごく嫌がるのです。
ただ、ハコモノ自体が土地の値段を上げているわけではありません。まちづくりにおいて、コミュニティを構築し、真にまちの価値を上げているのは、「人」なのです。
高度経済成長期であれば「ハコモノさえ作ればうまくいく」という図式が成り立っていたのかもしれません。しかし時代は変わり、ハコモノだけを作っても、人は来てくれません。今こそ「ソフト」への投資が必要なのです。
まちづくりの課題は「コミュニティリーダーの育成ができていないこと」です。そこで僕らは2025年までにコミュティリーダーができる優秀な人を増やそうというプロジェクトを現在準備中です。
今後もコミュニティリーダーの育成に力を入れていきますし「コミュニティリーダーをやりたい」という人にはぜひうちに来てほしいとも思っています。
「人」というソフトへの投資は、ものすごく大切です。そこを認識してもらえるようになれば、まちづくりはもっとうまくいくはずだと思っています。
なぜ田舎でまちづくりをやるのか?
最後に、少し話は大きくなりますが「なぜ僕らが田舎でまちづくりをやっているのか?」についてお話します。
それは、これから人口が減っていくことと深く関係しています。
日本は30年で3千万人減るという推計が出ています。これはオーストラリア1ヶ国分が減るほどのインパクト。新社会人は20歳から定年退職するまで、ここと向き合わなきゃいけないわけです。人口が減っていくと、さらに田舎は取り残されていくことになります。
また、僕はまちづくりというものは民間資本で行なうべきだと思っています。行政はあてにならない。シンプルにお金がないからです。
そして、そのまちにずっといる人たちとまちづくりをすべきだという思いもあります。田舎の再生というと、これまでは「企業誘致」という話になりがちでした。でも企業誘致には問題があります。誘致でやってくる人は、状況が変わるとすぐに出て行ってしまうからです。
たとえば、シリコンバレーのように最先端の技術を持った会社を集めてくるとします。でも、時代とともに状況は変わります。技術が変わると企業も去っていき、まちも衰退してしまう。マツダやホンダの工場がなくなると一気にまちが廃れてしまうのと同じです。
だから、そのまちにずっといる人たちと再生すべきなのです。きちんと覚悟がある人、そこに根を張る人、「やり遂げるぞ」という思いを持った人と一緒にまちづくりをやっていきたいと思っています。
僕には夢があります。
それは工務店を主役にした「地域再生シナリオ」を作るということです。これができれば、グローバルに展開していける「日本発の経営ノウハウ」になるはずです。日本は世界でもっとも早く人口が減少する国。だから、ある種「先駆ける」ことができるのです。
僕らのノウハウは、10年後にグローバルで展開できるものになると思っています。田舎のまちづくり、田舎の再生は、今すぐは儲からないかもしれない。でも10年後の大きなトレンドになると思うのです。
うちの理念は「設計しよう、未だ見ぬ風景を。」というものです。これからの日本はどうなるかわかりません。ネガティブな予測も多くあります。それでも、僕は少しでも未来の風景が良くなるように全力を尽くしたい。
「どうなるんだろう?」という受け身ではなく、自ら未来を「設計」していきたいと思っています。
*
ツイッターでもいろいろ発信しております。
よろしければフォローしてもらえるとありがたいです。
この記事が参加している募集
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます!もしよろしければ「スキ」ボタンも押していただけるとうれしいです。ふだんはTwitterでも仕事での気づきを発信しているので、こちらもぜひご覧ください! https://twitter.com/DKobaya