マガジンのカバー画像

スコウスの!オリジナル超長編連載小説『THE・新聞配達員』

100
真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。
このマガジンは購読しなくても全文無料で読めちゃうようにする予定です。 (まだ読めない話があったら何… もっと詳しく
¥1,540
運営しているクリエイター

#新聞配達員

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その94

94. 最後のハイタッチ ちょこちょこと後ろから付いてくる 由紀ちゃんが可愛い。 おかげでいつも通りに新聞を配れない私。 ぎこちない体の動きが自分でもよくわかる。 カクカクとまるでロボットのようなしなやかさ。 各関節にはうっすらとネジの跡が見え隠れする。 隠しきれない心の古傷が私をロボット化する。 自転車すら上手く止められない。 サイドスタンドがうまく出せずに倒れそうになる。 いまさら由紀ちゃんに緊張する気の弱い私。 いつも通りに配れないから余計に疲れる。 でも後

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その93

93. 佐久間さんの人生 朝が訪れた。 私は目が覚めてすぐ 自分の体に異常がないか確認した。

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その92

92. 絶望の快感 3月の第2日曜日の夜。 佐久間さんの家に来た。 手ぶらだ。泊まりに来た。 明日が人生で最後の新聞休刊日だからだ。 明日というのは世間一般的な今晩の事だ。 泊まるといっても ご飯をごちそうになって ワインをごちそうになって ピアノを聴いたり弾いたりして 檜で出来たお風呂に入って 一番上の3階の大広間で寝るだけだ。 殿様の気分で。 いや、 アトリエの穴蔵で寝るのがいいかもしれない。 芸術的パワーを頂けるかもしれない! よし!そうしよう! それが本当

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その91

91. 新聞配達員の後輩は新聞配達員 3月6日。 新入りがやって来た。2名だ。 1人は大野が居たお店の食堂の真上の部屋に入り、 もう1人は竹内が居た部屋に入った。 私にとうとう後輩が出来たのだ。 早いものだ。もう東京に来て1年が経とうとしていた。 そういえば部屋の目の前にある木は桜だ。 お寺の横で見事に咲いていた桜を思い出した。 今はつぼみがちらほら見え始めていた。 咲く頃にはもうここには居ないだろう。 さて見事に散る予定の私と 2年生の花を咲かせる予定の坂井で、

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その90

90. 存在の耐えられるだけの軽さ 今思い出した。 存在が軽すぎてすっかり忘れていた。 私と優さんで達成感を共有していたその時の事、 竹内が勢いよくお店に入ってきた。 おや? いつになく、めかしこんでるではないか。 ちょっと小綺麗にしている竹内。 私は目を細めてから聞いた。 「竹内。どうしてん、その格好?デートか?」 「いや、お店にお金払いに来たんだよ。」 「貰いに、じゃなくて、払いにか?なんのお金や?」 「え、いや、学費が足りなくなるから不足分払えってさ。真

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その89

89. 靴箱は宝箱 ついにやって来た3月5日。 決戦の日だ。 満額もらえる最後のお給料日。 このお給料と今までの幾ばくかの雀の涙貯金で 足りなくなる学費の支払い【12万6400円】を払う時が ついに来たのだ! 憎っくき【12万6400円】との戦いの最終決戦の今日。 たっぷりと札束が入ってるはずのカバンを覗きながら 独り言のようにぶつぶつとつぶやいている私がお店に居た。 「あれ13万円はあったはずなのにな。おかしいな。」 私は何回も札束を数えた。 もう何回数えたか忘

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その88

88. バイトだとLv7のままだけど社員に採用されたら一気にLv30からのスタートになる話ィ! 佐久間さんの家の集金が終わって お店に戻った。 「ただいまですー!戻りましたー!真田ですー!」 興奮気味に言った自分に自分自身が驚いているが、 あまり驚いてもいられない。 この自分は特別だという気持ちが このままずっと続いてくれれば、 もう何でも出来るような気がしているからだ。 早く! 早く何かしなければ! 曲作りだ!いや相棒のギターが居ない。 詞を書こう! 絵も描こう

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その87

87. 『 特別 』と『 変 』は同じだった件 2月のような風が吹いたので 風に今何月かと聞いたら12月だと言われた。 どうやら12月に生まれた風が今私の耳元を 吹いているようだ。 そんな誰にも話せない変な独り言を頭の中で 言いながら私は由紀ちゃんの目の前に居た。 「チョコレートだとさ、すぐに無くなっちゃうと思ったからさ、だからさ・・・これにしたんだぁ。」 「わー。ありがとー。」 由紀ちゃんが何回も髪をかきあげながら 照れて手元だけを見つめながら言う。 ハンカチ

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その86

86. コンビニに佐久間さんが来たけど私だって気付かなかった話 コンビニのアルバイトはもう 寝坊ばかりするようになった。 でもクビにはならなかった。 週5日シフトに入る予定が週3日になった。 蓄積した疲労が抜けない。 朝刊が終わってお腹いっぱいご飯を食べたら なぜか寝てしまう。ビールを飲んでないのにだ。 ダメな私。 酒を飲まずして眠れるものなのかと 自分の体を不思議がった。 疲労はやはりアルコールで取るのが一番だと 幼い頃父親から教わっていたからだ。 晩酌する父の膝

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その85

85. ギターリストが魂ではなくギターそのものを売った日 クリスマスはみんなでカラオケに行った。 私がみんなのリクエストに応える形で盛り上がった。 由紀ちゃんがJUDY AND MARYの そばかすを歌ったときは声がそっくりすぎて みんなびっくりしていた。 由紀ちゃんにあげたクリスマスのプレゼントも 由紀ちゃんからもらったクリスマスのプレゼントも 両方マグカップだったので、ふたりで笑った。 お正月もみんなで神社に初詣に行った。 念願の浅草だ。おみくじは末吉。 全てが

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その83

83. ビッグスターはみな四畳半からスタートするものだ もう朝刊の時間か。 私はコタツの中にいる。 中に潜ってはいない。 ひとりだから潜らない。 もし向かいに女の子が座って居たら 潜らなければならない。 私は腰から下をコタツに入れ お尻から上は座椅子にもたれている。 そして両腕にはめずらしくギターがある。 気持ちが弱くなるとギターを 弾かずにはいられなくなる。 わずかなレパートリーを弾き終えると 適当なコードを弾く。 「おや?今のはなんだ?ふんふんふ〜ん♪」

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その13

13. ロックだましぃ〜 一週間が過ぎた。 もう先輩は側にいない。 私はひとり立ちした。 隣人の坂井みたいに青白い顔になることもなく 両手で両膝を掴んで倒れないように 上半身を支えるようなポーズをひたすらすることも しなくて済んだ。 そしてビールを飲む量が増えた。運動しているからだろうか。 元の自分の調子に戻ってきたようだった。 絶好調である。 向いてるのかも知れない。 いや、向いている。 完全にこの【新聞配達員】という仕事は。 私は一人で暗い夜道を相手に仕事を

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その14

14. みんなの出身地 夕刊の時間に珍しく所長がお店にいた。 「今週の土曜日に新人のみんなに説明会を開くから 昼の13時にお店に来るように。」と言う。 そしてその土曜日。 今年の新人7名が 昼下がりの電気の消えた薄暗いお店に集まった。 男子が4名。女子が3名。 所長が姿を現した。 ちゃんとしたシャツとベストを来ている。 「みんな集まったか。では中に入って。 えー、今日は玄関から入ろうか。」 そう言うと、普段はお店の中から入るのに その扉は閉めて、みんなで自転車

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その15

15. 何もない部屋 仕事が終わり、 自分の部屋に戻った。 まだ何もない畳の四畳半の部屋。 来た時に持ってきたカバンとギターと 大阪から宅急便で送った布団が敷いてあるだけ。 壁にはお店からもらったレインコートを掛けてある。 テレビがない静寂は好きだが 何故か寂しさを感じてしまう。 その寂しさを紛らわせるために 読んでいた漫画はもう擦り切れてしまった。 たぶん アパートの壁が薄すぎて隣のクソッタレ部屋から テレビの音が聞こえてくるからかも知れない。 テレビの音だ