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スコウスの!オリジナル超長編連載小説『THE・新聞配達員』

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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。
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#パルプ小説

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その98

98. 京都のお侍様 「のぞみちゃんやん!ってことはここやな!」 「すごーい!真田くんやん!久しぶり!って言うか、よくここが分かったね?」 「うん。おばちゃんに住所聞いてんけど、まさか一発で当てるとは・・・」 「えっ?一発?」 「うん。203を一発で引き当てた。」 「あー。やっぱ分かりにくかった?ここに書いたんやけど、分からんよね、ぜったい。」 のぞみちゃんがドアの外に出て 木のドアの上の方を手で優しく摩った。 うっすらと鉛筆で書いた汚い字が見える。 たし

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その94

94. 最後のハイタッチ ちょこちょこと後ろから付いてくる 由紀ちゃんが可愛い。 おかげでいつも通りに新聞を配れない私。 ぎこちない体の動きが自分でもよくわかる。 カクカクとまるでロボットのようなしなやかさ。 各関節にはうっすらとネジの跡が見え隠れする。 隠しきれない心の古傷が私をロボット化する。 自転車すら上手く止められない。 サイドスタンドがうまく出せずに倒れそうになる。 いまさら由紀ちゃんに緊張する気の弱い私。 いつも通りに配れないから余計に疲れる。 でも後

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その92

92. 絶望の快感 3月の第2日曜日の夜。 佐久間さんの家に来た。 手ぶらだ。泊まりに来た。 明日が人生で最後の新聞休刊日だからだ。 明日というのは世間一般的な今晩の事だ。 泊まるといっても ご飯をごちそうになって ワインをごちそうになって ピアノを聴いたり弾いたりして 檜で出来たお風呂に入って 一番上の3階の大広間で寝るだけだ。 殿様の気分で。 いや、 アトリエの穴蔵で寝るのがいいかもしれない。 芸術的パワーを頂けるかもしれない! よし!そうしよう! それが本当

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その90

90. 存在の耐えられるだけの軽さ 今思い出した。 存在が軽すぎてすっかり忘れていた。 私と優さんで達成感を共有していたその時の事、 竹内が勢いよくお店に入ってきた。 おや? いつになく、めかしこんでるではないか。 ちょっと小綺麗にしている竹内。 私は目を細めてから聞いた。 「竹内。どうしてん、その格好?デートか?」 「いや、お店にお金払いに来たんだよ。」 「貰いに、じゃなくて、払いにか?なんのお金や?」 「え、いや、学費が足りなくなるから不足分払えってさ。真

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その87

87. 『 特別 』と『 変 』は同じだった件 2月のような風が吹いたので 風に今何月かと聞いたら12月だと言われた。 どうやら12月に生まれた風が今私の耳元を 吹いているようだ。 そんな誰にも話せない変な独り言を頭の中で 言いながら私は由紀ちゃんの目の前に居た。 「チョコレートだとさ、すぐに無くなっちゃうと思ったからさ、だからさ・・・これにしたんだぁ。」 「わー。ありがとー。」 由紀ちゃんが何回も髪をかきあげながら 照れて手元だけを見つめながら言う。 ハンカチ

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その86

86. コンビニに佐久間さんが来たけど私だって気付かなかった話 コンビニのアルバイトはもう 寝坊ばかりするようになった。 でもクビにはならなかった。 週5日シフトに入る予定が週3日になった。 蓄積した疲労が抜けない。 朝刊が終わってお腹いっぱいご飯を食べたら なぜか寝てしまう。ビールを飲んでないのにだ。 ダメな私。 酒を飲まずして眠れるものなのかと 自分の体を不思議がった。 疲労はやはりアルコールで取るのが一番だと 幼い頃父親から教わっていたからだ。 晩酌する父の膝

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その85

85. ギターリストが魂ではなくギターそのものを売った日 クリスマスはみんなでカラオケに行った。 私がみんなのリクエストに応える形で盛り上がった。 由紀ちゃんがJUDY AND MARYの そばかすを歌ったときは声がそっくりすぎて みんなびっくりしていた。 由紀ちゃんにあげたクリスマスのプレゼントも 由紀ちゃんからもらったクリスマスのプレゼントも 両方マグカップだったので、ふたりで笑った。 お正月もみんなで神社に初詣に行った。 念願の浅草だ。おみくじは末吉。 全てが

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その84

84. 舞台の下で名芝居を打った大根役者さなだまる 早稲田から神楽坂まではたったの一駅だ。 これはもう覚えた。 前に佐久間さんのピアノ発表会で来た場所だ。 あの時はかなりの弱虫で 景気付けにビールをたらふく飲んでから来たので あまり覚えていない。 今こうして、 ゆっくりと街並みを眺めながら散策すると 神楽坂は京都に似ている気がする。 路地がやたらと多く、石畳が敷かれている。 車のあまり通らない道。 閑静で小さなお店がいっぱい並んでいる。 そんな風情豊かな事を考えな

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その83

83. ビッグスターはみな四畳半からスタートするものだ もう朝刊の時間か。 私はコタツの中にいる。 中に潜ってはいない。 ひとりだから潜らない。 もし向かいに女の子が座って居たら 潜らなければならない。 私は腰から下をコタツに入れ お尻から上は座椅子にもたれている。 そして両腕にはめずらしくギターがある。 気持ちが弱くなるとギターを 弾かずにはいられなくなる。 わずかなレパートリーを弾き終えると 適当なコードを弾く。 「おや?今のはなんだ?ふんふんふ〜ん♪」

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その82

82. さよならメデューサ 「元に戻してください。」 私は恵比寿に居た。 咳き込みながら美容師さんが言う。 「元がどんなだったかゴホッゴホッ、忘れましたけど、ゴホッ、とにかく縮毛矯正しましょおゴホッゴホッ、ぅか?」 きっと臭いから咳き込んでるのかもしれない。 最初は風邪でしんどいような感じではなかった。 「しゅくもう、きょうせい?」 「はい。ゴホッ。ストレートパーマの強力なゴホッやつです。ゴッホ。オエッ。」 やっぱり臭いようだ。 それかゴッホのファンか。

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その2

2. 時給7カナダドル 何もしていないわけではない。 『なにをしてるの?』と訊かれたら みんなのそれはきっと【職業】のことだろう。 『くそったれのあなたの、くそったれた仕事は、いったいどんなくそ?』 これを略して 『なにをしてるの?』だ。 みんな略すのが好きなのだ。 だからこう答えるしかない。 『全く何もしてません』と。 属性がないという属性の人生。 でも友人たちに 『今日は何をしていたの?』と訊かれたら 何もしていない時間なんて全く無いはずである。 屁理屈でもなん

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その3

3. 名曲の作り方 カナダ行きは一年後に先送りになってしまった。 『一年後でもいいからカナダに来たいという気持ちがあるのなら いつでも連絡してくださいね。』と言われて。 呆然となる私。 一緒に行こうと言ってくれていた友人常盤木氏は 普通に大学と彼女の部屋に通う毎日に戻った。 いや失礼。 まだ行ってもいないのだから 戻ったのでもなかった。 私はと言えば、その友人の大学にコッソリと入り込んで 大学生のフリをして図書館で本を読んだり 食堂でご飯を食べたり飲んだりして過ご

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その6

6. 相棒はゴム さっそく仕事を伝授し始めようとする細野先輩。 木の作業台の上やら下やらをキョロキョロと何かを 探している模様。 作業台の位置は、ちょうど洗濯機の横。 「ここが6区の人の作業場所。この机1列で3人が作業するから ちょうど新聞3枚分が1人分の作業スペース。やたら狭いから工夫しないと すぐ散らかるから気をつけて。まぁ実際にやる時にやり方は見せるよ。あれー?無いなぁ。」 何かを探しながら、とりあえず教え始めてくれた。 先輩は下を向きながら話していたので、

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その7

7. 今日と明日の境目 いきなり始まった先輩とのコラボ。 もちろん奏でたのは『折込チラシ』。 ギターはまだまだ先になりそうだ。 180部の折込チラシをわずか10分間もかからずに 綺麗に整えて作業台にセット完了。 これでいつ明日の朝刊が来ても大丈夫だ。 先輩は汗ひとつかく事なく、 まるで何もしてなかったかのように 爽やかにクールに私に聞いてきた。 「これで明日の準備は終わりだけど。ご飯食べた?」 「あ、はい、食べました。」 「そう。ご飯食べてチラシの準備が出来た