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2021ファジアーノ岡山にフォーカス26 J2:第22節:ツエーゲン金沢vsファジアーノ岡山(Away) 「中位のサッカーと上位のサッカー」

1、 前置き

前半戦が終わった事で、後半戦に突入したファジアーノ岡山。チームとしてのサッカーが、発展途上という言い訳は通用しない。様々なチーム状況などがあるが、チームの成長曲線を右肩上がりに維持できたチームだけが、上位に残っていく。曲線が、下がっていくと、一気に順位も落ちる。J2リーグは、降格もあり、上だけを意識できない難しいリーグである。

 降格のないJ3チームであれば、昇格に向けて、厳しい環境ではあるが、しっかりとしたサッカーの強化期間を置いて、独自のサッカーを構築していくことができる。ただ、そういったチームが多く、メディア露出を含め、環境面でも厳しいことを考えると、そう簡単に、J2に昇格できるリーグではない。

 J3からJ2に昇格できたチームが、J2でも旋風を起こすチームも少なくない。今季であれば、秋田が、独自のサッカーで、圧倒的な存在感を放っている。琉球もJ3から昇格してきたシーズンから、J2では安定した強さを発揮している。前半戦でこそ、秋田や琉球に勝利することが出来たが、後半戦では、厳しい試合となるだろう。

 J2自体が差の小さいリーグで、簡単に勝てるチームはなく、その中で、自分達のサッカーを確立できたチームが勝ち点を積み重ねて行く。具体的にというよりは、シンプルに、「得点パターンが確立できているチーム」と、「守備の形が整理できているチーム」。これを双方でリーグトップレベルに到達できたチームが、昇格というJ1リーグで戦う権利を手にすることができる。

 上位との連戦のあと、チームの課題と収穫が見えた中で、同じ勝ち点で、かつ3連敗中(岡山は2連敗中)での対戦という事で、後半戦のJ2での岡山の戦いを占うにはもってこいの対戦チーム。という事で、後半戦でのスタートが、どういったスタートであったのかにフォーカスを当てて、この試合を振り返っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

2、 重心を後ろに置いた金沢

メンバー:2021ファジアーノ岡山「第22節vs金沢(Away)」

「ファジアーノ岡山」
・バランスで対応するいつもの4-4-2。
・18齊藤がCFで、16河野が右SHでスタメンに変更。
・20川本と10宮崎はリザーブ回り、33阿部に代わり24下口がリザーブ。
・5井上と7白井は、フル出場を継続。
「ツエーゲン金沢」
・金沢の代名詞4-4-2。
・前節と同じスタメン。
・18窪田に代わり14金子リザーブ入り。
・5松田と8藤村が全試合スタメン継続。

 両チームとも守備を意識した入り、一巡目終わって分かった事であるが、攻撃的なチームというのは、J2では絶滅危惧種になりつつある。安定した守備を構築した上で、いかに得点を奪いに行くか。そういったスタイルが定着しつつある。上位を見ても、同点や逆転といった派手なゲームも少なくなってきており、先制点を決めて、逃げ切って勝つというチームが多い。

 そういった意味でも、J2の中位よりやや下ににつける金沢と岡山もJ2のサッカーらしく、リスクの少ない組み立てで、ゴールに迫った。金沢は、スペースを埋めた上で、2段型の守備ブロックを構築。この金沢の守備スタイルは、J2昇格してから監督が代わっても一貫して、スペースを消して、受けてカウンターを狙うスタイル。

 この日の金沢もそこは変わらなかった。また、金沢は奪ってから素早く縦に付ける攻撃と、29ホドルフォが、ドリブルでボールを運ぶという攻撃と7嶋田 慎太郎の右サイドの崩しの3パターンに大きく分かれた。この内、29ホドルフォの方は、回数が限られたので、対応できたが、7嶋田慎太郎の方からは、連動した崩しで、DFラインのエアーポケットを使われてしまった。

 縦に付けるシンプルな攻撃もコースを防ぐ、予測でのカットで未然に防ぐことこそ出来なかったが、しっかり近くの選手が対応した。ただ、一度受けるアクションを起こされているので、そこで、潰せる4濱田 水輝のようなCBがいなかった事で、そこから展開で、裏に抜け出せる決定機を作られる事もあった。

 相手に決定力の高いストライカーが存在すれば、数少なかった決定機の内1本でも決められても不思議ではなかった。ただ、体を張った守備と、31梅田 透吾のファインセーブを含め、集中して無失点に抑えた。ただ、やはり岡山としては、早い段階で先制して、3バックで、守備を固めておきたかったが、それを許さなかった金沢。

「金沢のサッカー」
・2ブロックを構築し、守備の隙を作らない守備。
・ボール奪取直後にFWに付けるパスを狙う。
・ボール奪取して隙があれば、ドリブルで運んで行く攻撃を狙う。
・右サイドからパスでの崩しで、スペースを作って使う攻撃を展開。

3、 中央を避けた岡山

2ブロックを作った金沢の守備組織に対して岡山は、中央を避ける組み立てを選択。両SBが高くポジションを取り、両SHとFWが絡みサイドを3人で突破するシーンが多かった。サイドを破って、裏のスペースやクロスをあげる状況こそ作れたが、肝心のクロスやそこから仕掛けの工夫という部分が甘く、そこから得点はできなかった。

 そういった状況で、違いを見せていたのが、11宮崎 智彦。左足から繰り出されるクロスやかなり後方からのアーリークロスで、精度の高いボールを配給し、それが通らなくてもCKを獲得に繋がるなど、違いを見せていた。複雑な組み立てや、カウンターのリスクが高い攻撃を避ける時に、両SBが高い位置をとる上で、ここは、今後の武器に成り得る点である。

 ただ、サイドからのクロスからの得点の少なさは、チームとしての課題の1つであるので、サイドからの攻撃を狙う上で、中の人数を増やしていく事と、サイドでボールを運んだ時に、攻撃が止まるシーンがこの試合でも多く、ボールを保持者が素早く仕掛けまで行き、良い状況で、クロスを入れるという事を中で待つ選手と連動することで、守備側の隙が大きい内にサイド攻撃を完結する必要がある。

 幸い岡山には、左SBに11宮崎 智彦と41徳元 悠平、右SBに16河野 諒祐、24下口 稚葉と、精度に期待できる選手が揃っているので、伸び代はある。2廣木 雄磨は、1対1からの発展性や出場機会を掴んでいた時からアシストは少なかったので、あくまで攻守のバランスや運動量の方に期待したい選手である。実際にこの試合でもサイドで運動量が活かし攻守での関与が光った。

 この試合では、直接の流れからの決定機こそなかったが、そういった攻撃から生まれたセットプレーから惜しいシーンを作る事ができた。ただ、岡山得意のDFラインを裏への抜け出しやスペースを突かれる攻撃への守備への対応力で防いできた壁を突破されるシーンもあったが、その攻撃に対して、体を張って防いだ。

 後半は、27木村 太哉や20川本 梨誉を投入し、18斎藤 和樹を右SHに回して、サイドからドリブルを仕掛けにシフトして攻勢に出た事で深い位置も使えるようになった。10宮崎 幾笑が投入される頃には、金沢の中盤も間延びしてきたことで、逆サイドへの展開を含め、前に運んで行く攻撃も加速したが、最後まで得点は遠かった。

「岡山のサッカー」
・中央の密集を避けてサイドから仕掛けを試みる。
・クロス主体も、セットプレー獲得に留まる精度と連動性。
・交代カードにより、ドリブルやキープにシフトで、後半勝負。
・辛抱強く繋いで、隙やセットプレーで得点を狙う攻め。

4、 上位との差

岡山の堅守をより強化するというのは難しい段階に入っている。上位に追いつくには、得点力の強化である。一巡目が終わった事で、上位との差がより明確に出た。この試合では、金沢が、ボール奪取後に、FWまでボール運ぶ、もしくは、パスを付ける攻撃を許すシーンが、岡山の守備の対応ではあった。

 しかし、京都戦の様に抑えられないような個の力がない分、人数をかけて、体を張る事で、失点を防ぐことができた。岡山も、セットプレーで、決定機を作ったが、GKの攻守に阻まれた。惜しいシーンに見えるが、高い個を持つ選手は、そのヘディングシュートをより厳しいコースに打てるとか、または、フリーでの合わせ方が巧いという武器を持っている。

 惜しいシュートが多い選手というのは、シュートが読まれ易い打ち方、もしくは、厳しい所に打つ技術が得点を重ねる選手より劣っている可能性が高い。もちろん、チームスタイルに合わないという問題や、チームの役割的に、得点が難しいという可能性があるが、惜しいシュートが続くという事は、やはりシュートが上手とは言えない事も事実であるだろう。

 野球で言うところで言うと、投手のフォームや投げ方によって、タイミングが合わしにくい投手がいるように、サッカーでもシュートフォームや打ち方によって、GKの対応が難しい打ち方ができる選手もいる。得点を奪える選手は、コースが分かっていても止めることができないシュートが打てる選手か、シュートのタイミングが掴めない選手のどちらかが多い。

 岡山が、より守備を安定するには、得点力を高める事が現状で、一番のチームの特効薬と成り得るだろう。前述の通り、金沢は、主に3パターンでゴールに迫るが、誰が得点するのか。誰が違いを魅せるのか。岡山の場合は、14上門 知樹や20川本 梨誉のミドルシュート以外の得点をどう増やしていくのか。

 得点パターンの確立により、相手のサッカーを制限していくことができるかどうか。そこができなければ、この試合のようにセットプレーで、人数をかけて、色々とチームで工夫していくような展開の試合が多くなってしまう。中央経由して、繋いで来るチームに対して、中央を固めて、サイドで嵌めて、もしくは、いつもの中央の攻撃をさせない事で、岡山のセンターで活躍できるストライカーを活かせる展開に持っていける。

 現状は、金沢のように中央を無理に経由しない攻め方であれば、守備時のボール奪取の狙い所を見つけられず、ある程度バイタルエリアに素早く入れられる、もしくは、放り込まれて、裏を狙われるというシーンは、どうしても出てくる。京都にせよ、甲府にせよ、この金沢にせよ、そういったスタイルのチームであり、上位の2チームには、違いを魅せれるストライカーの前に敗れたのに対して、不在の金沢にはスコアレスドローだった。

 金沢戦に関しては、決めていれば勝てたという内容に出来たが、今のままでは、連勝も難しく、勝ち点は安定的に掴めても、上位に進出して、そこを維持できる力はない。そういった意味で、38ブレネー・マルロスの出場が見込まれる五輪後、そして、9李 勇載の復帰が叶えば、こうした状況を打破する事も十分可能である堅守を持っている。

「J2上位とのJ2中位」
・堅守は、上位とも遜色なし。
・4バックの熟成度は、金沢とも遜色なし。
・勝負を分けるストライカーの存在の有無。
・現状は、連勝が難しい得点力。

5、 総括(チームアップグレードに向けて)

本来であれば、天皇杯の内容と結果を受けて、中断前の集大成を魅せる試合になる筈であった次節のホームでの群馬戦。この試合を見て、五輪後もみたいと思わせたい。そういった試合にするための準備をしてきた一瞬間であったと思われるが、中日の天皇杯の名古屋戦が、雷雨で中止で延期となり、消化不良とも言える形で、次節を迎えることとなった。アウェーで参加された方は、特に残念であったと思うが、名古屋にとっても、消化しておきたかった所ではあるだろう。

 アウェーの金沢戦では、天皇杯を意識したメンバー選考や戦い方であったと思うが、進展がなく、また、そういった調整をしないといけないと考えると、ネガティブな要素だが、そういったチームと、また試合ができると考えると、プラスになる。ハーフタイム後からなのか、それとも最初からなのかは、不明だが、個人的には、最初からを希望する。

 その場合は、J1の名古屋のメンバーがどうなるかは分からないが、J1のクラブとの対戦は、選手にとっては、大きな経験となる。途中からの再開であれば、負担も減り、45分間で、全力で戦うという貴重な経験もできる。ある意味、フルに戦うよりは、J1を肌で感じる事ができるかもしれない。

 ただ、そう考えたいが、恐らく平日になると思われるアウェー戦は、参戦するのは、難しい事を考えると、やはり残念であったが、安全第一であるので、中止という判断も致し方ない。参戦された方は、お疲れ様でした。そういった方に、岡山にはホームでの勝利をクラブには見せてもらいたい。金沢戦でみてとれた上位との差を、どう縮めているのか。そういった戦い方を見ることができる試合にして欲しい。

文章・図版=杉野 雅昭
text・plate=Masaaki Sugino

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