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2021ファジアーノ岡山にフォーカス20 J2:第17節:岡山vs東京V(Home) 「東京Vをリスペクトした岡山、嵌った両チームの狙い、問われる方向性」

1、 前置き

緊急事態宣言が出た中ではあるものの、クラブとして生き残るためには、背に腹は代えられない。十分な対策を行った上で、安全な開催を目指して行われたホーム戦。アウェーのサポーターが不在であるのは、寂しいですが、スタジアムに足を運べるというのは、嬉しいサポーターも多い。その中でも、足を運ぶのを避けたサポーターも多いと思われるが、致し方ない。

さて、そういった難しい状況下で、ホームに迎えるのは東京V。東京Vと聞くと、今でこそJ2が長いクラブだが、個人的には、名門クラブというイメージと、基礎技術がしっかりしたJリーグ屈指の下部組織を持った育成大国というイメージが強い。ただ、近年の状況を見ていると、チームが増えた事で、下部組織の優秀な指導者の有無や、恵まれた設備などの環境に関わらず、有望な選手が出てくるとチームも増えている中で、その地位もかすみつつある。

その中でも、ユース出身の選手を軸に、しっかりとしたチーム作りを変わらずできている東京Vは、カテゴリーこそJ2ではあるものの、見習うべき処の多いチームであることは間違いない。もちろん、各チーム良い所と悪い所があるが、東京Vの良い所は、基礎技術を大事にすること。そういった技術の高さを持った東京Vユース出身の選手は、J2を問わず、海外の場でも活躍するなど、多くの選手を輩出してきた。

ただ、資金力の面で、親会社が撤退してしまったことで、ユース出身者以外の目玉選手の獲得が難しく、J1の壁が厚く、超えることが難しいシーズンが続いている。とはいえ、ブランド力や都心部のクラブという事を考えれば、スポンサーの協力を得る事も可能かもしれない。親会社を持たない地方クラブの1つである岡山が、着実な前進が、周りの進歩についていけず、後退していくなかで、安定したチーム作りを進める東京V。

ユース出身者や岡山県出身者のJリーガーの少なさを考えれば、東京Vは、目標にしたい特徴を持ったチームであり、チーム力と地盤(環境)の強化を目指す岡山としても、追いつきたいチームでもある。そういった基礎技術を大事にする東京Vの色に対して、献身的なプレーでハードワークする色を持つ岡山が、どう戦ったのか振り返っていきたい。

メンバー:2021:J2:第17節vs東京V(Home)

2、 東京Vをリスペクトした岡山

まずは、両チームのメンバーについて、主なポイントをまとめていきたい。

「ファジアーノ岡山」
・スタメン及びシステムは、快勝した松本戦から継続。
・徳島から加入した22安部の初のリザーブ入り。
・左右のSBができる24下口が、メンバー外に。
・フル出場を続ける3選手もスタメン維持。
「東京ヴェルディ」
・システムは、ピッチを広く使える4-1-2-3継続。
・25端戸から4梶川にスタメン変更。
・2若狭は、全試合出場を継続。
・前節と違いFW登録の選手もリザーブ入り。

この試合の岡山は、勝利した前節と同じスタメンで試合に臨んだ。リザーブには、手薄で、スクランブル状態であったが、徳島より加入した22安部 崇士が加わった。試合後に行われたエリートリーグのグルーブBでは、4濱田 水輝が途中から出場ではあるが、これは嬉しい情報である。33阿部 海人が伸びている中で、22安部 崇士も加わった事で、競争が期待できそうだ。

さて、この試合の岡山は、前からプレスにいこうという意識こそ感じられたが、それ以上に東京Vの技術と整備された組み立ての前に思うようにプレスをかけにいくことができなかった。それもその筈、岡山のプレスは、かけ続けるというよりは、状況を見て行うプレスである。GOサインを出せる隙を東京Vが、なかなか見せてくれるチームではない。

具体的には、組み立て時には17加藤 弘堅が、最終ラインに加わって、技術がある繋ぎに加えて、数的な余裕を作って来るのが東京V。流石に前2枚では、なかなかいい形を作るのは難しい。ただ、それでも状況を窺がっている時に、岡山は6喜山 康平を中心に、距離感のバランスのとれた守備組織を構築している。

その結果、東京Vが前に入れた時には、巧くボール奪取するという形を何度か作る事ができた。そこから奪って、20川本 梨誉に預けて、近く14上門 知樹や10宮崎 幾笑を絡めた攻撃の形を何度か作った。しかし、前から奪いにいけず、中盤で奪う事が多かった岡山の攻撃は、ある程度運ぶ必要があり、ゴールが遠い前半となってしまった。

加えて、守備時には、17加藤 弘堅は、守備時に9佐藤 優平と4梶川 諒太と中盤で挟み込む守備を敢行してきたために、背後からボールを奪われるなど、挟み込まれる守備に苦しんだ。その結果、岡山が、東京Vの陣地深くに侵入する機会は、限定的なものとなってしまった。その中でも20川本 梨誉の懐の深さと14上門 知樹の飛び道具で、得点を狙う姿勢は示せた。

また、両チームとも、中盤に入った時の守備の良さが光った。攻撃が繋がってチャンスになるというよりは、毀れ球が、良い所に繋がって良い形になるという事が両チーム多くなっていた。ただ、これは、中盤を整備しつつ、前から行きたいけどいけない岡山と、前からの意識はそこまで高くない東京Vという観点で考えれば、東京Vのサッカーの形と言えるかもしれない。

そういった意味では、岡山は、東京Vのサッカーをリスペクトする中で、粘り強くバランスを取りながら戦っていた事が良く分かる中盤での攻防であった。そして、東京Vの繋ぎは、後から細かいパスを繋いで前まで運ぶサッカーではなく、長短のパスの織り交ぜたものとなっていた事で、中盤を省略することもあり、前線まで運ぶことができていた。また、GKは、高い位置をとらず、後でのリスクを最小限していた。

一方で、岡山は、前から東京Vの選手がこないので、GKの13金山 隼樹が、組み立てに関与し、前線に蹴るという形も見せていたが、基本的には、東京Vよりは、繋いで運ぶ意識は高く感じた。そういった意味では、全体的に高い位置をとって、距離感を大事にしようという岡山と、ある程度受けて、バランスを取ろうという東京Vの方針が、巧く攻守のバランスが取れてしまった事で、試合が均衡したものとなってしまった。

「岡山のサッカー」
・後ろのバランス(距離感)を意識して、状況を見てプレス。
・GKも組み立てに関与し、ロングパスも積極的に使う。
・ボール奪取後は、20川本 梨誉に預けて、攻撃の形を作る。
・いつもよりボールを奪う位置が下がって事で、ミドルシュートが多くなった。
「東京Vのサッカー」
・前からのプレスというよりは、後のバランスを意識した守備。
・DHの17加藤が、最終ラインの組み立てに関与し、一定の位置まで運ぶ。
・ある程度まで運んだ後は、前線の選手にロングパスを入れる事を意識した攻撃。
・中盤からの長短のパスでピッチを広く使いサイドから攻撃の形を作った。

3、 嵌った両チームの狙い

後半に入ってから岡山の守備が嵌っていた。両SBが高いポジションを取り、CB2枚とDHが一枚落ちてくる形、更にCH2枚もあまり降りてこない。パスコースが限定し易く、中央を14上門 知樹と20川本 梨誉で塞ぐことで、サイドへパスを誘導する。そこに出た時にSHか、SBの選手が寄せていき、ボール奪取でショートカウンター。特に後半の頭は、これが非常に嵌った。

この守備の形により、決定機を作ったが決めきれなかった岡山。東京Vとしても、この形は、最後まで苦しんでいたが、毎回ボール奪取されるわけではないので、そこから展開した時には、降りてこないCHの2枚が、バイタルエリアにポジションを取る事で、攻撃の経由点に矢倉のように効き、DFラインを崩す形を構築でき、完全に崩すシュートの形を作れたという点では、東京の狙いも嵌っていた

また、両WGをシンプルに使うサイドチェンジや縦へのロングパスの成功率が高く、そこからクロスに、岡山は対応出来てなかった。東京Vのシュートパターンは、この形が多く、決勝点もまさしくそういった形であった。5井上 黎生人と33阿部 海人の組み合わせになってからは、サイドからの失点が増えており、単純な高さもそうだが、予測や連携という観点からまだ甘さが目立つ

とはいえ、33阿部 海大と5井上 黎生人が組み始めた時と比べて、極めて良くなった。しかし、6喜山 康平が、中盤で危険な所を消すスペースのケアによる安定による部分も大きいので、手放しには喜べない。実際に、失点したシーンで空いていたスペースも、6喜山 康平がケアしていた所であり、交代して入った26パウリーニョの意識が前に合った事で、そこが空いたしまった。もちろん、26パウリーニョは、動く事で、ボール奪取を狙う守備で、それはそれで効果的なので、悪いわけではないことは断っておきたい。

チームとして、攻撃の組み立てをサイドに誘導させて、SBに入っていく所を狙って行く守備の狙いが嵌っていて、ショートカウンターで得点を狙うというプランは、成功であったと言えるが、結果がついてこなかった。シュートも17本という数字も多く、東京Vの倍近く打てている事を考えても岡山のしたいことはできたが、勝てなかった。というか、今季の負けパターンで、またかという敗戦となってしまった。

岡山が、得点できない理由として考えられるのが、シュートが正面になる事が多い点である。シュートが巧い選手が多い事で、遠目からのシュートに頼りがちで、最後の崩しのアイデアに欠けている面は否定できない。ミドルシュートを打つにしてもシュートコースは、広くする工夫や、チームとしても崩す工夫が、今の岡山に一番求められている点と言える。

「勝負を分けたポイント」
・岡山は、東京Vの組み立てをポジショニングとプレスで、サイドへ誘導し、そこで奪う事自体は成功していた。
・東京Vとしては、サイドの難所を突破し、前掛かりの選手を活かす事で、攻撃の形を作った。
・良い形のシュートを作る工夫が足りず、得点が遠かった岡山。
・得点を奪うという攻撃意識が高く、崩す事に拘った東京Vが失点のリスクに打ち勝った。

4、 問われる方向性

もはや、シュートを多く打ちながら得点を奪えない。これが、岡山の引き分けや敗戦のパターンとなってしまっている。これは、少し触れたが、シュートを打つ際の工夫が足りない点にある。ミドルシュートという力技であることを考えると、枠に変化または、速いシュートを打つだけかもしれないが、シュートコースを広げる工夫やタイミングをずらすなど、改善の余地はある

そもそも10宮崎 幾笑が、輝かない理由は、ここにある。岡山の得点源が、セットプレーの2次攻撃や、ミドルシュートが多い通り、シュートに特筆がある選手が多い事で、最後の工夫が足りない傾向にある。10宮崎 幾笑のプレーを見ていると、バックパスや横パスで、捌いて、前に飛び出す動き、パス&ゴーを繰り返している。しかし、そこへの動きに対して、パスの連続での崩しや、動き出しへのパスが配給さることは、限定的なものとなっている。

ここ数試合は、そこに対して、改善の兆しがみえつつある。20川本 梨誉が、ストライカーとして、中央でポストプレーをしてくれることで、受ける機会が増えてきている事も大きい。そして、ペナルティボックスに侵入する回数も増えてきている。10宮崎 幾笑は、そこでプレーする事が一番活きる選手として、認識しており、この試合でもコースこそなかったが、シュート機会もあった。

シュート数が少ないシーズンだと、ミドルシュートなど、積極的に狙って欲しいと主張してきた事に加えて、惜しいシュートを多く放っている中で、十分過ぎるほど、ミドルシュートも決まっているが、チームとしての得点が伸びないのであれば、横パスを出して、リターンするという流れを1つ挟むなど、もう一工夫していけば、違って来るかもしれない。

現状は、20川本 梨誉を中心に、その周りの選手が活かされて、前線が活性化しており、得点できそうな形が出来ている。中盤も6喜山 康平を軸としたことで、攻守のバランスがとれて、持続的な攻撃ができている。しかし、得点がとれない。守りきれない。ということは、なんらかの問題が抱えているのもまた事実である。そもそもミドルシュートは、20川本 梨誉の強烈なシュートが決まらなかった通り、得点の確率は低いプレーであり、そこを軸に据えてしまっていると、得点力不足に陥るというのは、必然であると言える。

また、岡山の失点がクロスから多い事も、クロスからの攻撃こそ得点が決まり易いプレーの1つでもあるからである。中にターゲットとなる高さがある選手の不在である事を考えると、必然的に優先度を低くなるかもしれないが、41徳元 優平、16河野 諒祐、11宮崎 智彦、24下口 稚葉といった攻撃的なSBを揃っている事を考えると、攻撃の優先度を上げても面白いかもしれない。

しかし、ミドルシュートというプレーの選択の割合が多い事は、チームとして、消極的にならず、狙えるなら狙って行こうという積極的なメンタルティである事を考えられるので、下を向かずに、続けっていって欲しい。そして、東京Vが、ゴール前まで運ぶスタイルから、ロングパスをある程度活用して、速さのある攻撃とサイドから崩しにも力を入れて、得点力に磨きがかかって、サッカーが、しっかりアップデートされている通り、岡山でも何かしらのアップデートが行われて、得点数を伸び、勝利数も増える事を信じて、これからも見守っていきたい。

「岡山の収穫(良かった所)」
・東京Vの組み立てを分析し、サイドで嵌めた守備。
・シュート数から感じる得点を狙う積極性。
・20川本を中心とした連動した攻撃から見える相性の良さ。
・6喜山を中心とした後方からの安定した組み立てと、守備の安定。
「岡山の課題(悪かった所)」
・サイドからの崩しに対する守備の対応の甘さ。
・シュート数を得点に繋げるためのゴール前の工夫の少なさ。
・6喜山が下がった後の攻守のバランスによるリスク管理の低下。
・サイドのタレントを活かせない、サイド攻撃の得点の少なさ。

5、 総評(後書き)

シュート17本で、得点が0。このデータをどう考えて行くか。一番シンプルな答えは決定力不足であるが、それだけで済ませるにはあまりにも決定力が低いチームとなってしまう。20川本 梨誉や14上門 知樹のシュート技術を見た時に、決定力が低い選手と断言できる方が、どれだけいるだろうか?そう考えると、見方は変わって来る。

データでフォーカスや以前のこのフォーカスでも触れたが、ペナルティエリア内への侵入回数の少なさ一番の得点力不足の原因と考えたい。つまり、決定機自体が少ないのが一番である。決定力不足というのは、多くの決定機を決めることがでない時にこそ、説得力が出る言葉で、そういった決定機が少ない内容であれば、一概に決定力不足とは、簡単に言えない

ただ、この決定機を創出する力は必ずしも低いとは限らない。例えば家の前に自動販売機やコンビニなどがあれば、ついつい購入してしまうのと同じで、シュート力のある選手の前にシュートコースがあれば、シュートを打ってしまう。それが、20川本 梨誉と14上門 知樹で、パスなどで工夫して崩す所で、シュートコースがあったことで、そっちを選択してしまう。

実際そこで多くの得点が決まっている。そうなると、成功体験が後押しする事で、ミドルシュートを選択する。これ自体は、特徴を活かすという意味で悪くないが、得点確率の低いプレーを選択しているという意味では、時には自重して、ボールを大事にして、スルーパスやサイドへの展開を狙って、クロスから得点の形を狙う。こういった事も必要となってくる。

幸い、ここ数試合は20川本 梨誉に収めるので、アッタキングサードへの岡山の選手の人数は揃っている。そういった数の攻めをより活かす工夫ができれば、岡山の得点力不足は、解消する事も可能である。現状人数をかけて、分厚い攻撃をゴール前で出来たシーンも少なく、決定機自体も数少ない。「自重」と「勇気」相反するプレーを巧く活用する事で、決定機を増やして、得点力解消と共に、勝ち点を積み重ねていって欲しい

文章・図版=杉野 雅昭
text・plate=Masaaki Sugino

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