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2021ファジアーノ岡山にフォーカス32 J2:第28節:ファジアーノ岡山vs愛媛FC 「スコアレスの攻防と課題」

1、 前置き

 愛媛でのアウェー戦では、現監督の實好 礼忠監督が、就任間際であったと記憶している。相手のサッカーに対して、しっかり分析した上で、相手のサッカーをさせない事で、勝利を目指す有馬 賢二監督の指揮する岡山にとって、データのない前半戦の愛媛戦は、難しいゲームとなった。攻撃的なサッカーへと変化した愛媛のサッカーに対応できず2失点したが、28疋田 優人の劇的なゴールで同点に追いつき、辛うじて引き分けに持ち込んだ。

 奇しくも後半戦でも19ミッチェル・デュークを欠く中での試合という事で、やはり難しいゲームとなった。とはいえ、前半戦よりは、愛媛のサッカーも理解した上で、対策も出来る事に加えて、メンバーも揃っていて、エースの元岡山の10藤本 佳希が出場停止という事で、怪我人が多発した前半戦よりも条件は、良いと言える。

 そういった愛媛のサッカーに対して、岡山が、どういった対策をして、どう試合を進めて行くのか、両チームの攻防と、19ミッチェル・デューク不在で受けた変化と影響について、戦えた部分と、やはり改善が必要な部分などにフォーカスを当てて、まとめていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

2、 人数のマジックを使う愛媛

メンバー:2021:J2:第28節vs愛媛(Home)

「ファジアーノ岡山」
・2トップではなく2シャドー気味の4-4-2。
・19ミッチェルの代役として20川本がスタメン。
・15山本がリザーブに復帰。
・5井上と7白井は、全試合フル出場継続。
「愛媛FC」
・前掛かりの3-1-4-2。
・元岡山の10藤本が、出場停止。
・8川村がリザーブに復帰。
・20茂木が全試合出場継続。

 今季のJ2は、1つの戦術的なトレンドとなっているようで、前からプレスをかけて、サイドで嵌めるチームが多い。愛媛もそのチームの1つである。愛媛のサイドでの奪取だけではなく、縦パスや最終ラインのボール保持者からボールを奪う狙いというよりは、奪取力やプレス強度を意識したポジションの並びとなっている。

 ただ、前から絶え間なくプレスをしかけて、秋田のように徹底してくるという事こそないが、2シャドーの11近藤 貴司と33山瀬 功治の2人が、隙があれば、ボールを奪取しようという素振りを見せていた。特に11近藤 貴司は、22安部 崇士が、持った時に凄いスピードで寄せて行くシーンは、何度もあった。

 こうした愛媛の前線とWBを含めて、6人のプレス網に対して、岡山は、開幕当初から取り組んで来た縦への意識と、後での安定したビルトアップの形の構築により、前半に関しては、こうした寄せに対しては、危なげなく対応することができた。愛媛としては、守備での狙いこそ外れたが、狙いはそれだけはない。

 それは、厚みのある攻撃である。やはり、人数をかけて攻撃を仕掛ける事ができれば、得点できる可能性は、高くなる。もちろん、そのリスクとして、守備が不安定となるという欠点こそあるが、この順位に位置しているが、しっかり得点ができているという事を考えれば、浮上する事も可能である魅力的なサッカーができていると言える。

 そこに対して、対応が間に合えば、2シャドー及び左右のWBが下がり、手厚いブロックを構築する事で、守備を安定させることができる。ただ、これは、シュートで終える事や、巧い守備対応で、攻撃を遅らせた時に限られる。自陣深くで、ボールロストすれば、人数不足で、失点する確率が高くなる。

 愛媛としては、ここを巧く乗り越えて、前線に如何に繋げるかというサッカーで、可能であれば、プレスとセカンドボールへの奪取に人数を掛ける事で、波状攻撃と、分厚い攻撃により、得点を狙って行くサッカーである。愛媛の対戦相手としては、如何にそこに運ばせないかというのが、勝負を分けるポイントとなる。

「愛媛のサッカー」
・前に人数をかけてプレスで嵌めて行く事でショートカウンターを狙う。
・前に人数をかけてセカンドボールを回収し、波状攻撃を仕掛ける。
・後ろから前に奪われずに、如何に運ぶかがポイント。
・状況によっては、後方でも人数をかけた守備対応もできる。

3、 岡山の愛媛対策

 開始してしばらくは、正直岡山は、上手く対応できていなかった。攻撃時に愛媛の守備に対する対応は悪くなかったが、どちらかと言えば、愛媛の攻撃に対しての対応である。つまり、後方から前に運ばれてしまった事で、守備の難しい対応を迫られる事が何度かあった。岡山としては、愛媛が、前に運ぶ過程で如何に奪うかが、ポイントとなる。

 この部分に関しては、前半の給水タイムで、対応してきた。コースを限定させた上で、中盤に入った所で、挟み込むようにして、奪ってそこからショートカウンターを仕掛けるシーンを何度か作る事ができた。この結果、守備の人数の少ない愛媛に対して、決定的なシュートや、決定機に近い形を作る事ができたが、この時間帯に先制点を奪う事ができなかった。

 そして、試合を通して、DFラインからの愛媛のプレス網を掻い潜ること縦に付ける力というのは、一定のレベルにある岡山は、プレスに引っ掛かる事は少なく、ここに力を入れてきたこと岡山が強みを発揮できてシーンを何度か見ることができた。ロングパス使えれば、より安定感は増すので、そこを抑えた中でもある程度繋げた事は大きかった。

 後半に入ると、やや落ち着いた展開になった。前半に20川本 梨誉のパフォーマンスにムラが有り、トラップがずれるシーンを含めて、試合感覚がまだ戻っていない事で、ミスが多かった事もあり、比較的早い時間帯に下がった。18齊藤 和樹や27木村 太哉を投入して、先制点を狙うため動いた岡山。愛媛も同じ時間に攻撃的なカードを投入。

 岡山が巧く対応できたいのは、愛媛の動きをある程度予測した上で、プレーを制限した事で、可能であった。愛媛が動いてきたことで、岡山のプレーにずれが生じる。20川本 梨誉と14上門 知樹のコンビの関係性(距離感)と、18齊藤 和樹と14上門 知樹のコンビの関係(距離感)の違いにより、ファーストディフェンスの感覚が変わった事で、攻守で綻びが生じた。

 また、27木村 太哉もプレーの判断を見ていると、個としては、素晴らしい選手だが、組織として観ると、まだまだ粗い部分が41徳元 悠平と比べて目立つのも事実。こうした変化で、なんらかの事情により出場を控えめにしていた得点力のある主軸の8川村 拓夢が入った愛媛に大きく流れが傾いた。それまで、ショートカウンターを仕掛けるのは、岡山であったが、愛媛に多く見られるようになった。

 15山本 大貴や、前半戦の愛媛戦で、劇的な同点ゴールを決めた28疋田 優人を投入し、愛媛戦の再現を狙ったが、最後までゴールを決める事が出来なかった岡山。FW近い役割でも28疋田 優人が、存在感を示せた事と、18齊藤 和樹と15山本 大貴のチャンスメーク力を発揮できたが、やはり、最前線で仕事できるFWの不在が響いた試合となった。

「岡山の対応」
・パスコースを限定し嵌める守備を目指す。
・ショートカウンターで形を作る。
・プレスに対しては、サイドを経由せずに縦に付ける。
・後半の流れが悪くなっても粘り強く対応。

4、19ミッチェル不在の影響

 19ミッチェル・デューク不在で、どこまで戦えるかというのが、この試合の最大のテーマであった。スタメンに関しては、悪くない戦いが出来ていて、19ミッチェル・デューク不在であっても遜色なかった。むしろ、より深刻であったのが、20川本 梨誉が下がった後であった。どう守ってどう攻めるかという方向性が見えてこなかった。

 20川本 梨誉がいた時は、14上門 知樹との距離感が良く、守備が安定した事で、後方の攻撃参加を含め、シュートまで行くシーンを作れた。また、この試合では、14上門 知樹が、積極的にシュートを打っていた。自分がやらないといけないという強い責任感のようなものを感じた。ただ、20川本 梨誉が不在になると、攻撃の中央における迫力が顕著に低下した。

 18齊藤 和樹と、15山本 大貴は、本来19ミッチェル・デュークや9李 勇載といったボックスで仕事できるストライカーと組んでこそ真価を発揮できる選手で、役割に点取り屋。つまり、ストライカーというタスクが加わると、J2でも厳しいレベルとなる。特に岡山のように、守備の役割のウェイトが高く、攻撃への人数よりバランスを重視するチームだとより厳しくなる。

 この2選手が、FWとして、点が獲れるのであれば、14上門 知樹はCF(ST)ではなく、攻撃的なMFとして、出場していたであろう。ターンオーバーやアクシデントがなければ、全試合スタメンで出場して欲しかったエースの9李 勇載が、出場できない状況が続いていたという事で、チームとして、無理したシーズンでもあるので、致し方ない部分もある。

 また、19ミッチェル・デューク不在時に、前半は一定のクロス意識も高く、攻撃をできていたが、残念ながら高さという武器がないので、効果的とは言えないものの、チームとして狙う意識を高く持つことで、受け手側も出し手側も準備でき、動きの質が向上にする加えて、ローリスクで一定の成果をあげやすい攻撃の肝なので、続けて欲しい。後は、工夫で、どう攻撃の形の完成度を高めるかという部分が課題である。

 愛媛の特殊な形も関係している部分もあるが、後半の攻撃的な3バックに踏み切れなかったのは、27木村 太哉と18齊藤 和樹のドリブルからクロスで、19ミッチェル・デュークの得点パターンに代わる有効なホットラインがなかった事が大きい。4-4-2のバランスを持って攻めるとしても、誰が得点を決めるのかというのが、見えてこなかった。

 ただ、28疋田 優人のシャドーでの起用は、一筋の光が見えた。もともとポジショニングや攻撃のアクションの選択が、ミスを恐れない積極的な選択なので、ゴール前に入っていくプレーや、シュートを打つためのアクション。これは、まだまだ本職ほどでないとしても出場機会を重ねていけば、良くなりそうですで、来季を見据えた時には、面白い試みと言える。

 得点が取れなかったように、攻撃での課題の多かった試合ではあるが、ただでは終わらない。そういった有馬 賢二監督の積極性が出た試合でもあった。いつかこれが、花開く日が来て欲しいと感じると同時に、後どれくらいのシーズンで、有馬 賢二監督のサッカーを観ることができるのかという部分もある。そして、今季の主軸が残れば、恐らく来季は岡山にとっても、有馬 賢二監督にとっても勝負の年となると考えられて、来季は赤字覚悟で、少し無理をした編成にチャレンジするかもしれない。

「19ミッチェル不在時の良し悪し」
・攻守でバランスの取れた4-4-2でシーズン序盤より多彩さ向上。
・クロス意識を維持も、まだまだ19ミッチェル不在では厳しい。
・試合終盤に攻撃的な3バックに踏み切れない様に有効な攻撃の形がなかった。
・28疋田のシャドーは、チームとしても28疋田としても面白かった。

5、 後書き

 試合に関しては、岡山らしい引き分けに終わった。0-0というスコアとは思えない決定機に近い形は、何度もあった。得点力のあるチームに対しても1点差の試合に持ち込めるのは、岡山らしい。ただ、本文では触れなかったが、31梅田 透吾のファインセーブがなければ、試合終了間際の失点という最悪の形で負けていた。

 それにしても絶体絶命というシーンで、最終的には、押し込まれて失点してしまったシーンを含め、高確率で一度は触れて、セーブ率の可能性の高い31梅田 透吾のポジショニングの良さと、シュートへの反応良さは、本当に素晴らしい。この試合でも勝ち点1を死守するもので、まさにチームを救ったという神セーブでした。

 余談ながら、愛媛のボランチの16田中 裕人は、守備の巧い選手という認識しているが、ここで、展開力や捌けるスペシャルなボランチがいれば、前掛かりの布陣の攻撃力や安定的なビルトアップが可能となチームとなりより怖いチームになりそう。ただ、その分、中盤での守備の抑止力が落ちる可能性もある。今オフは、愛媛の監督の去就にもよると思いますが、もしかすると、そこへの補強があるかもしれないですね。

 さて、本日の栃木戦も19ミッチェル・デュークは、不在ではあるが、主軸選手の怪我から復帰してくる可能性があるという情報があったので、その辺り、監督の采配を含め、チームとして、どういったメンバーで臨み、どういったプランで進めて、戦って行くのか。19ミッチェル・デュークが、合流した際には、より良い形にしていくためにも、勝ち点の近い栃木にしっかり勝って、残留を確固たるものとして欲しい。

文章・図版=杉野 雅昭
text・plate=Masaaki Sugino

ファジ造語

「ファンタジスタシステム」
2トップに技術のある選手を据えて、中央にポジションをとる。中央を通そうとするパスコースを制限し、サイドへ出した所を狙う。そこを突破された後も、粘り強く守り、ボールを奪ったら2トップにボールを集め、技術のある選手が攻撃に移った時に、2トップの傍にいき、技術と創造性を活かして、ゴールに迫るやや攻撃よりの作戦。
「ミッチェルプレス」
速さ・高さ・強さ・巧さ・持続力によって、19ミッチェル・デュークがプレスを繰り返して行く中で、攻撃的なMFが追随する中で、相手のパス回しの自由を大きく制限する。また、後方の選手もハイライン、中盤もコンパクトに保つ事で、高い奪取力を発揮する。ただ、チームとしての消耗も大きく、19ミッチェル・デュークの1トップ時しかできない作戦。
「勝利の方程式」
リードした場面で、4バックから3バックにシステム変更し、重心を完全に後ろに置く分けではなく、中間に位置をとり、遊撃に専念しつつ、カウンターにより追加点を狙う。スペースを空けずに、岡山の守備時の集中力や献身性を活かし、守備にハードワークし、攻め手側のミスを誘発させて、時間を稼ぐことで、同点や逆転のリスクを小さくし、逃げ切る作戦。

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