見出し画像

2021ファジアーノ岡山にフォーカス37 J2:第33節:東京ヴェルディvsファジアーノ岡山(Away) 「勝敗を左右したリスクを巡る攻防」

1、前置き

 19ミッチェル・デューク不在時にどう勝つかというのは、後半戦の1つのテーマであった。カタールワールドカップに向けて、最終予選で、定期的に離脱することで、流れに乗りそうで乗り切れず、7試合勝利から遠ざかっていた。複数得点も前半戦の琉球戦以降4か月なく、守備が安定しているが、勝ち切れないという試合が続いていた。

 一方で、東京Vもシーズン途中に、クラブレジェンドであった永井 秀樹が、チーム事情により、解任となった。ロングパスも活用するチームスタイルに変貌し、チームとして成長していただけに驚きであった。ただ、選手も人であり、監督と選手の信頼関係は、重要であり、報道が事実であれば、非常に残念であり、ショッキングであった。

 選手と監督、お互いにリスペクトし合える関係を構築し、東京Vも再びチームとしても結束して欲しいし、永井 秀樹氏には、報道通りであれば、心を入れ替えて、サッカーと人と、より真っ向から向き合って上で、やり直すことが出来たらと個人的に願う。私も岡山のサポーターの1人としても他山の石で終わるのではなく、心に留めて、行動していきたい。

 その東京Vに対して、岡山は、久々に15山本 大貴をスタメンに抜擢。メンバー外となった9李 勇載や7白井 永地の状態が心配される。その中で、48石毛 秀樹もスタメンとして出場時間を伸ばして、チームに好影響をもたらしている。ベストメンバーではない中で、それなりの陣容であることを考えると、チームとしての状態の良さを感じる。

 ホームの東京Vは、長身CFの40戸島 章を今季初スタメン。右WGには、今季での得点数が14ゴールの19小池 純輝が、スタメンで出場。中盤の底には、チームの心臓9佐藤 優平が構える。CBにはシーズン途中からほぼ不動になった2若狭 大志と15ンドカ・ボニファイスの後方にベテランGK1柴崎 貴広。若い選手からベテラン選手まで、バランスが取れたメンバー。

メンバー:2021ファジアーノ岡山「第33節vs東京V(Away)」

「ファジアーノ岡山」
・チームとしての組織的なバランスを重視した4-4-2。
・7白井と9李がメンバー外で、状態が心配される。
・15山本が久々のスタメン、48石毛がスタメンとして定着。
・5井上が開幕からの全試合フル出場継続。
「東京ヴェルディ」
・テクニカルな攻撃を意識した4-1-2-3。
・二桁得点を決めている19小池が右WGで出場。
・若い選手とベテラン選手までバランスの取れたメンバー。
・2若狭と27佐藤が全試合出場継続。

2、如何に効果的に前線に運ぶのか(東京V)

「東京Vの勝利へのアプローチ」
① 人数をかけた攻撃
② 後方の人数不足は個で補う
③ 上質なラストアクション

① 人数をかけた攻撃

 この試合の東京Vは、前がかりとも言える距離感で戦っていた。後方での安定したビルトアップよりは、前に運んだ時に、如何に効果的な攻撃を仕掛けるかを重視していた。しかし、岡山の前からのプレスの質が安定していた事で、東京Vの攻撃回数が少なくなり、岡山の守備強度が落ちるまでは、シュート数は伸び悩む事となった。それでも前に運べた時は、効果的な攻撃はできていた。

② 後方の人数不足を個で補う

 一方で、後方の東京Vの選手は少なかった事で難しい対応が迫られた。ビルトアップ時に、繋ぐ意識の高かった事で、逆に個人技だけでは捌き切れず、岡山の選手にボールを奪われてショートカウンターを仕掛けられてしまうシーンが散見した。それでも48石毛 秀樹の個人技によって喫した失点と、一見ハンドに見えたプレーで、動きが止まった隙を突かれての2失点に抑えた通り、決壊せず粘り強く個で対応して戦えていた。

③ 上質なラストアクション

 東京V側から見て、ディフェンシブサードとミドルサードでの攻防で、苦しんでいた東京Vであったが、そこから先の堅守とも言える岡山のゴールを脅かすシーンを何度作れていた。岡山のクロスと比べてもゴールの匂いは感じられた。得点シーンの様に狭い所をパスで崩していく連動性と、ペナルティエリア内への動き出しの質も良く、更に人数を掛けている事で、回数こそ限られたが、チームとして得点の確率の高いアクションをペナルティエリア内で、できていた。

「如何に効果的に前線に運ぶのか」

 この様に、東京Vは、技術に優れる選手を活かすために、後から繋いだ上で、ペナルティエリア内への侵入する人数を増やす事で、相手より多く得点を奪おうというサッカーになっていた。中盤より前方にスムーズに運ぶ事が、出来ていれば、東京Vがペースを握れたところではあるが、岡山の前からプレスに来なくなるまで、後手に回る試合となった。

3、如何に安全に前線に運ぶのか(岡山)

「岡山の勝利へのアプローチ」
① 丁寧なビルトアップ
② 意志のあるプレス
③ 前方の人数不足は個で補う

① 丁寧なビルドアップ

 岡山は、GKの組み立てへの参加や、DFに足下技術に優れる選手を並べる事で、縦に速い攻撃と、ボールを失わない組み立ての両立で前に運ぶ。中盤まで運ぶと、スペースを有効活用することで、シュートまで持っていく。特に48石毛 秀樹が中に絞る事で、16河野 諒祐のサイド攻撃が有効となっている。右サイドでは、スペースを空ける工夫。左サイドでは、味方選手が距離感の良いエリアを作る事で、効果的な攻撃ができていた。

② 意志のあるプレス

 岡山のプレスは、ボール奪取だけではなく、サイドに誘導するという狙いを持ったプレス。この方針は、J2のトレンドではあるが、この試合では、ボール奪取も出来た事で、多くのショートカウンターを仕掛ける事ができた。誘導と奪取の判断の良さと、回数と強度の高い時間が長くできた事で、大きく勝利を手繰り寄せる事ができた試合となった。

③ 前方の人数不足を個で補う

 得点を奪うには、人数をかけた攻撃か、高い個人技の質のどちらかが必要となる。岡山は、後者だが、48石毛 秀樹のフィットが進んだことにより、中央攻撃とプレースキックの攻撃の質は、飛躍的に向上した。14上門 知樹頼りの攻撃から多彩なパターンのある攻撃へと脱却できたことで、シュートの内容はより向上している。久々の複数得点もその継続の成果と言える。

「如何に安全に前線に運ぶのか」

 岡山は、後でのボール回しの安全を確保した上で、バランスを崩さず前に運んで行き、最後は、個で勝負する。ここを徹底することで、安定した守備により1点差勝負に持ち込むことができている。ここ最近の試合では、最後の個の力や、チームとしての連動性に磨きがかかった事で、久々の複数得点に繋げることができた試合となった。

4、勝負を分けたリスクの質

「勝負を分けたポイント」
① 攻撃のスタート時点のエリアに明暗
② 前からの抑止力の重要性を感じた時間帯
③ 問われるリスクの掛け方

① 攻撃のスタート時点のエリアに明暗

 岡山がゲームの主導権を握れるかどうかポイントとして、高い位置でのボール奪取できるかどうかという点がある。前回の東京Vとの対戦では、ロングパスの比率が多かった事で、捕まえる事ができなかったが。この試合では、東京Vの繋いで前まで運ぶという意識が高く、岡山のプレス網に引っ掛かるシーンが、どうしても多くなった事で、ポゼッションこそ東京Vに分があったが、プレーエリアでは、東京Vの陣地でのプレー時間が長くなった。

② 前からの抑止力の重要性を感じた時間帯

 試合終盤に、岡山がリードしていて、チームとしての消耗を考えた時に、パスコースを限定するプレスからパスコースを消すポジショニングの守備にシフト。この結果、東京Vが、前まで運びやすくなり、東京Vのアタッキングサードまで侵入と、そこでのセンターレーン付近での攻防が増えた。岡山も3バック(5バック)のWBでの遊撃性も弱く、サイドでの攻防で後手になっているのも気になる。琉球戦と東京V戦でハンド(東京V戦は見逃されて助かった)と言えるシーンが続いている。

③ 問われるリスクの掛け方

 この試合では、東京Vの得点を奪うために、前方に人数をかけるリスクのあるハイリターンの戦い方を選択して、一方で岡山は、全体の攻守のバランスを意識した戦い方で、東京Vのリスクが目立つ展開となったが、愛媛戦や大宮戦の様に、人数をかけられた時に、ミドルサードでの防波堤が突破されてしまうと、一転して、岡山の守備も不安定となる。チームとして、打ち合いになった時に打ち勝てるような得点力をどう高めて行くのかというのは、来季への課題である。

「勝負を分けたリスクの質」

 この試合は、前線に運べなかった東京Vと前に運ばせなかった岡山という構図であった。東京V側から見た時に、勝利の前提として、前線に運ぶ回数を増やして、ラストアクションを起こせるかどうかであったが、残念ながら90分間通して、ほぼ岡山のしたいサッカーをされてしまった。ただ、岡山側としても自分達のしたいサッカーをしながら、判定助けられての勝利という事で、課題を残した。

5、総括(来季に向けた戦い)

 岡山のビルトアップの安定感は、J2屈指のレベルになったと言っても過言ではないだろう。30試合以上戦ってきた中で、自陣での不味いボールロストは、ほぼない。今までの岡山を見てきても攻撃面での安定感が良い守備に繋がっている。31梅田 透吾のビルトアップへの関与とレフティの11宮崎 智彦と、22安部 崇士の加入も大きく、ミスの少ないDFラインを構築できている。

 26パウリーニョと6喜山 康平のコンディションが良いのも大きい。この試合でも抜群の奪取力や、セカンドボールへの反応、バイタルエリアに長い時間壁として立ち塞がった。下がった後のリスク管理やオーバーワークが心配される以外は、ボランチに関しても手応えの感じているポジションと言える。7白井 永地と3人で休ませながらの起用を、もっと早く出来ていれば、メンバーから外れる事もなかったかもしれない。

 2列目に関しては、48石毛 秀樹が、もはや欠かすことが出来ないピースとなっている。加入直後の肉離れでの離脱で、心配されたが、過去の岡山を知っていて清水からレンタル中の選手が多いという事もあり、早くも攻撃の中心選手となっている。7白井 永地の時は、右サイドに流れる事が多かったが、48石毛 秀樹は、中を強く意識したポジション取りとなっている。

 これは、中でも効果的な攻撃の絡みが出来る事と、正確な右足の視野の広さを持っている事で、距離が多少離れていても16河野 諒祐の動き出しに対応できるパスを出せる事も大きい。その分、守備では不安もあるもののチームとしてプレーの選択肢を狭める事で、そういった軽さというのは、目立たないレベルの守備強度をチームとして維持できている。

 そして、何より久々のスタメンとなった15山本 大貴が、存分に持ち味を発揮した試合となった。14上門 知樹との連動したプレスは効果的で、守備での貢献度は大きく、攻撃では周りの選手と良い距離感を保った上で、中での攻撃のアクションを中心にしたことで、裏への抜け出しや中央でのチャンスメークの持ち味を発揮できた試合であった。

 試合終盤に27木村 太哉のシュートを決めきれなかった事と、見逃されたハンドでPKになる可能性があった事は、チームとしては修正すべき点ではあるが、チームとして、交代する選手を含め90分間で見ると、満足の行く内容での勝利であったことには、変わりない。7試合ぶりの勝利ではあったが、ここまでの内容を考えると、もっと勝たないといけないというのが、正直な気持ちではある。

 また、勝利の方程式の3バックのチームとしての遊撃が思ったほど機能していない要因の1つは、4濱田 水輝のゲーム感の低下である。致命的なミスがある訳ではないが、ピンチの芽で、未然に潰す守備が減っている。その結果、チームとして受け身の時間帯が長くなってきている。この辺り、どう起用・採用のバランスを保つかは、課題の1つと言える。

 今後は、勝利の方程式の安定感の再構築と、加点する力という部分により磨きをかけていくことがポイントとなる。代表でも4-3-3にシステム(メンバー)チェンジした事で、好転した通り、チームとしての柔軟性や幅を持たせる意味で、来季に向けて、トレスボランチやスタートからの3バックも視野に入れて行きたい所ではある。

文章・図版=杉野 雅昭
text・plate=Masaaki Sugino

ファジ造語

「ファンタジスタシステム」
2トップに技術のある選手を据えて、中央にポジションをとる。中央を通そうとするパスコースを制限し、サイドへ出した所を狙う。そこを突破された後も、粘り強く守り、ボールを奪ったら2トップにボールを集め、技術のある選手が攻撃に移った時に、2トップの傍にいき、技術と創造性を活かして、ゴールに迫るやや攻撃よりの作戦。
「ミッチェルプレス」
速さ・高さ・強さ・巧さ・持続力によって、19ミッチェル・デュークがプレスを繰り返して行く中で、攻撃的なMFが追随する中で、相手のパス回しの自由を大きく制限する。また、後方の選手もハイライン、中盤もコンパクトに保つ事で、高い奪取力を発揮する。ただ、チームとしての消耗も大きく、19ミッチェル・デュークの1トップ時しかできない作戦。
「勝利の方程式」
リードした場面で、4バックから3バックにシステム変更し、重心を完全に後ろに置く分けではなく、中間に位置をとり、遊撃に専念しつつ、カウンターにより追加点を狙う。スペースを空けずに、岡山の守備時の集中力や献身性を活かし、守備にハードワークし、攻め手側のミスを誘発させて、時間を稼ぐことで、同点や逆転のリスクを小さくし、逃げ切る作戦。
「高低縦横の攻防」
得点を狙う攻撃スタイルの属性の指標。9李 勇載と19ミッチェル・デュークが揃う事で、縦の攻撃と横の攻撃。どちらでも高い質の攻撃が可能となる。また、低い(グラウンダーの)クロスやパス、高い(浮き球)のクロスやパスの多彩な出し手も揃った事で、多彩な攻撃と柔軟性のあるチームスタイルが可能となった有馬ファジが目指す理想系の1つの形を感じさせる要素。
「守備は最大の攻撃」
良い守備からの攻撃が主な攻撃パターンの岡山のチームスタイルを表現する言葉。岡山が意図した展開の時は、自陣でのプレー時間が短く、シュート数が多くなる。ただ、現状は得点まではなかなか繋げられず、攻撃は最大の防御と言えるぐらい質の高い攻撃ができない現状のチームが行き着いた勝負に徹する岡山の献身性が反映されたプレースタイルと言える。

ここから先は

0字

¥ 100

自分の感じた事を大事にしつつ、サッカーを中心に記事を投稿しています。今後とも、よろしくお願いいたします。