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短編小説から見る社会

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菅原ゼミで読んだ短編小説の書評を順次掲載していきます。書評は全てゼミ生が書いています。授業期間中の毎週末ごろ更新です。  ※ネタバレありですので気になる方はお気をつけください。
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#ケン・リュウ

ケン・リュウ「紙の動物園」書評(3)(評者:田中小葵)

ケン・リュウ「紙の動物園」書評(3)(評者:田中小葵)

「紙の動物園」の書評3本目は、田中小葵さんに書いていただきました。

「紙の動物園」書評(『紙の動物園』早川書房)

評者:田中小葵

 これは幼き時代から社会人になる主人公の成長過程と心情が痛いほど共感できる小説である。中国出身の母が折り紙に命を吹き込む魔法を使う、という描写で物語は幕を開ける。アメリカ人とのハーフである主人公は、そんな母への反抗心が成長すると共に強くなってしまった。アメリカとい

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ケン・リュウ「紙の動物園」書評(2)(評者:村田睦喜)

ケン・リュウ「紙の動物園」書評(2)(評者:村田睦喜)

 「紙の動物園」の書評2本目は、村田睦喜さんに書いていただきました。

ケン・リュウ「紙の動物園」書評(『紙の動物園』早川書房)

評者:村田睦喜

 読んで最初に思ったのは、意外にも重い内容の作品であったということだ。
 物語の冒頭は母と幼い子どものファンタジックであたたかな日常の一幕だったために余計にそう感じたのかも知れない。物語中盤、主人公のジャックは同じ学校の男の子マークとの人形を巡るトラ

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ケン・リュウ「紙の動物園」書評(1)(評者:田中太陽)

ケン・リュウ「紙の動物園」書評(1)(評者:田中太陽)

 先週から新三回生のゼミが本格的に始まりました。初回の読書会はケン・リュウの名作「紙の動物園」を読みました。ジェンダー的観点からの読みなど、大変活発な議論がかわされ、とても楽しい読書会となりました。
 今回は3本の書評を紹介します。まずは田中太陽さんの書評です。

ケン・リュウ「紙の動物園」書評(『紙の動物園』早川書房)

評者:田中太陽

 この物語はアメリカ人の父と中国人の母をもつ主人公が過去

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ケン・リュウ「良い狩りを」書評

ケン・リュウ「良い狩りを」書評

今週の書評1本目は、ふたたび根本龍一さんです。

ケン・リュウ「良い狩りを」(『もののあはれ ケン・リュウ短篇傑作集2』ハヤカワ文庫SF、2017年)

評者:根本龍一

発明における功罪の表裏一体性

 いわずもがな、一つの技術の発明がもたらす恩恵と既存権益の破壊は表裏一体である。新しい技術が生まれ、この利便性が周知のものとされるとき、多くの人はこれに希望を抱き、より便利になる未来への展望を想う

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