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短編:【カギのある公園】

入口に湧き水が溢れ出る、ちょっと変わった、憩いの公園だった。

水は濁っており、たまに湯気が立つ。
区が管理しているその公園のWEBに詳細な情報はあまり書かれていない。
平日の朝や夕方に1組2組の親子がいる程度、静かな公園。
2つのベンチ。背もたれのないモノと、背もたれがあるモノ。
背もたれのない方に、そのカギはついていた。

たぶん、これはレンタル部屋のカギ。何故ならしっかりとした、ディンプルシリンダーのカギである。ちゃんとしたマンションの部屋などで使われるタイプ。

私の推測はこうだ。外国人向けのレンタル民泊。公園のわかりやすいところにカギを常設。アクセスして来たところで宿泊希望の方に、この場所の地図を送り、自身でカギをピックアップ。宿泊後は、再びこの場所に同じように戻してもらう。ピンシリンダー錠のような安価なものではなく、街場のカギ加工店で複製できない、または複製費用も時間もかかるディンプルシリンダーであれば、安心である。

きっと送られてきた地図には、公園入口に湧き水があること。ベンチが2つ並んでいて、背もたれのない方に括り付けてあること、そして部屋のマンション名、場所、部屋番号と注意事項もしっかりと書いてあることだろう。

しかし、この手の闇稼業、本当に多くなったし、ボーッと過ごしていたら気が付かない。かくいう私だって、あまりに暑くて、ちょっとベンチに腰を下ろさなければ、きっと気が付かなかった。

通常、ナンバー式の頑丈なキーケースに入って、わかりにくい場所にくくりつけているモノだが、こんなに公の場所に、無防備に紐で括り付けているだけの部屋のカギ。

…私が持って行ってしまったら、どうなるのだろう?

いや、そのマンションの場所も部屋番号もわからないカギは、単なる鉄片。その部屋の持ち主は、また同じカギを作り、次の宿泊客の部屋代にしっかり上乗せするだけのことだろう。

そして、そのカギが放置された場所に監視カメラが無かったかはわからない。今の時代は、本当に小さなカメラが至るところに付いている。持ち去ったら、アジア系の怖いお兄さん達に囲まれていたかも知れない…。

さあ、上記情報だけで、どこの公園のどのベンチにカギがあるのか、ちょっとでも関心のある方ならば見つけられることだろう。気づいて見に行ったその時まで、まだカギがあるかはわからないが…。

     「つづく」 作:スエナガ

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