短編:【そのものに罪はないが】
電車内の車椅子やベビーカースペースに誰かの忘れ物のような顔をして、無賃乗車を続ける不審物。その不気味な存在に一瞬ギョッとした。紙袋だ。近づいて中を覗くと、中には同じ柄の描かれたまっさらな手提げ紙袋が数枚。つまりいくつか買って来たお土産のその個数分もらった紙袋がいらなかったようで、車内に放置した模様。
過剰包装が叫ばれて以降、近年は簡素化されて来た。しかし未だお土産の文化は品物とキレイな紙袋をセットにお渡しすることは少なくない。ましてや海外からやって来た旅行者にとっては、そんな島国の文化など理解していないのであろう。羽田空港と成田空港を繋ぐその路線では、こうしたお忘れ物をしばしば見かける。
もちろん、この紙袋にも、その紙袋を渡した関東にも多く出店している大阪の高級パン屋にも罪はない。もしかしたら日本語で紙袋の必要枚数を確認したのかも知れない。それでも伝わらなかったのだろう。いらない余分なそれを、荷物整理をしながら不要品として車内の拓けたそのスペースに放置してしまったというところだろうか。どうぞ必要な方はお使いください。そう言いたげな佇まい。お土産分で購入したのに美味しそうな香りに釣られ耐えきれず全部食してしまったのかも。そして駅構内にもゴミ箱は激減している。ただでさえ大きなアタッシュケースをコロコロ引いて、長期滞在で持ってきた大量の荷物と、土産で膨れ上がったカバン。荷物は少ないに越したことはない。思わず置いて行ったと思われる。
観光地の街角では、しばしば旅行用のキャリーバッグが放置されている。海外や地方から持って来た、それでも大きめのカバンだが、何か壊れてしまったり、それではサイズが小さかったのか、その周辺でさらに大きい物を買い揃えて、不要となったのだが、処分の仕方がわからず街角に置いて帰ってしまったのだろう。
車内での、いやもちろん街角であっても、ゴミ放置はよろしく無い。不審物は誰しもが触りたくない。さらには、車椅子、ベビーカースペースである。基本的に終点でない限り、車内の清掃も行われないのであろう。これはどうすればよかったのだろうか。車掌さんや駅員さんに伝えるべきだったのか。たかだか紙袋。されど紙袋。
そのものには罪はないが、そこにある存在は十分に罪である。
「つづく」 作:スエナガ