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短編:【シンプル・イズ・ベスト】

東京の賑わう繁華街。
「やめてください!」
「何だよ〜ちょっとくらいいいだろう」
「触らないでください!」
年の頃、二十二、三の女性がガラの悪い三人組の男に絡まれている。
「スミマセン、助けてください」
たまたま夕食を食べに来た、三十男に救いを求める。
「どうしました?」
「ひとりでフラフラしているなら、一緒に遊ぼうと言われまして」
「なるほど、では私は連れのフリをすれば良いのですね?」
「お願いできますか?」
「もちろん!」
「何だよ兄ちゃん、知り合いか?」
「待ち合わせをしていたんです、僕の連れに何か?」
「チッ!行こうぜ」
三人の男はその場を去る。
「ありがとうございます!助かりました…」
「いえ、お役に立てて何よりです」

「あれ?コレって、浦島太郎ですか?」
「浦島太郎?はて?そんな人物知りませんが…」
「知らないはず無いでしょう!?」

「あの〜、お礼と言ってはなんですが…夕ご飯をご馳走させてください」
「そんなそんな…」
「いえ、それぐらいさせてください」
ノコノコついて行く三十男。
「ちょうど知り合いのお店に行く途中だったんです」
「どんなお店ですか?」
「学生時代の友人が開いたお店でして…」

「これノコノコついて行って、本当は龍宮城みたいな立派な場所に連れて行かれて、帰りに法外な金額を請求されるデート商法なんじゃないですか?」
「龍宮城って言うのは知りませんが、まぁ近いですね」

お会計時、先程のガラ悪三人組が現れる。
「おうおう、払えないって言うのか?」
「このお会計はおかしいですよね?」
「こんな若い女性と食事を楽しんだ上に、高い酒も飲んだんだ」
「私が払います!ここはご馳走するお約束ですから!」
「そんな!こんな金額払う必要ないですよ!警察に連絡しましょう!」
「いいえ、大丈夫です!私が払うので、待っていてください!」
三人組と女性は奥へ消える。残される三十男。しばらくすると、三人組のひとりが口元とお腹を押さえながら戻ってくる。まさか女性が殴ったのか?
「話がつかないので、こちらのオーナーさんに会いに行きます!」
「え?オーナーに!?」
三人の男を引き連れ店を出る。

「なにこれ?話が急展開だね?」
「オーナーの元に行くんです」
「三人をお供に…あ!桃太郎ですか?」
「桃…太郎?」

とあるビルの一室。三人を引き連れやって来た三十男。
「ウチのお店の価格設定にクレームがあると?」
「法外な値段を請求していますよね?」
「いやいや言いがかりはよしてくださいよ。適正価格ですから。しかしアナタもなんで初めて会った女性と、行ったことのない店に来たんです?誘いに惑わされて下心があったんじゃなんですか?」
「それは、学生時代の友人が開いた店で、ご馳走するから是非と言うから…」
「学生時代の友人…?」
「正確には、2つ上の先輩で…」
「え?」
「この方がその先輩で…」
「そうなの?」
「先輩が店を開いたと聞いて会いたいと思ったんです…」

「桃太郎の鬼退治どころか、ミイラ取りがミイラじゃないですか!え、この話、どうやって鞘に収めるんです?」

「約束通り、お金はちゃんと私が払います!」
「いやいや…目的のお店というのは…こちらで合っていて、これは別にデート商法とかでもなくて、素直にそこの先輩に会いたくて、僕は利用された…だけですか?」
「…ゴメンナサイ、そういうことになります…」
「その三人組に絡まれていたのは?」
「偶然です。店の従業員とは知りませんでした…」
「いやいや…そんなお店の出勤前にナンパしている店員って…」
「じゃあ、ちゃんと払ってもらいましょうか!」
「あの…先輩、…私、持ち合わせが無いので、しばらくあのお店で働かせて頂けませんか?」

「え〜、…そんな展開ですか!?」

「じゃあ、今日から働いてもらいましょう」
「ありがとうございます!」
「え〜」
「では、夕飯もご馳走しましたし、どうぞお帰りください!」
「ホントに帰っていいんですか?」
「一緒に働いてくれるんですか?」
「いやいや…」
ひとりドアから出てくる三十男。

「…え?これで終わりなんですか?」
「いえ、最後にもうひとヤマありまして…」

「♫ ちゃっちゃら〜」
大成功!と書かれたプラカードを持ったさきほどの女性。
「えっえっ?」
「大成功です!」
「ドッキリ!?」
「はい」
「良かった〜!何だかご都合主義の展開だし…何より僕はそこそこ知られた俳優ですよ!芸能人が一切気づかれないってことも変だったし…」

「夢オチじゃなく、ドッキリオチですか!?」
「全体的に現実にしては都合良すぎるよね」

「開放されたところでのネタバラシは、キョトンですね!」
「何だと思ったんですか?」
「デート商法…美人局…あるいは、ちょっとおかしな人?」
人差し指を頭にトントンする。
「え、これどこかで撮影してるんですか?」
「はい、三人組の喋らないふたりはカメラマンです…」

「ま、確かにテレビ台本としては面白いですけど…所々、昔話のオマージュがあるのが気になりましたね…」
「筋はシンプルでわかりやすくしないと視聴者は理解して頂けませんからね。そのまま桃太郎的に先輩を退治して終わってもいいけどね。または浦島太郎的に龍宮城で顔がボコボコに殴られて、玉手箱以上に見た目に変化が出るってオチも考えましたけど、…ご時世的にね。でも、これくらい非現実的な話じゃないと、今どきの若者番組は…ほんとコンプライアンスとの戦いですから…」
「なるほどね、やってみますか!」

     「つづく」 作:スエナガ

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