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我思ふ Pt.137 過去の古傷20

↑の続き

「たける様…。たける様の匂いだ…」

美結は私にまとわりつくように顔を擦り付けた。

匂いかぁ…これは自慢でも何でもないんだが、過去交際してきた女性や、妻にも言われる事なんですがね…。

「あなたの匂いが大好き!」

とね。
それに付け加えてもう一つ。

「香水付けないで!あなたの匂いが消えちゃう!」

と。

あたしゃいつかここに書いたかと思うんだが、やや潔癖なところがある。
自分の体臭とか死ぬほど気になるタイプなのでそらもうあんた体の皮膚全部剥がそうかってくらい洗浄しますよ。
清潔にしているし、体臭がきつい訳では無いと思うんだけど…。

一度妻に聞いた事があるのよね。
いい匂いってどんな匂いなの?と。
そしたら妻は答えた。

「うん、甘い感じ。パンケーキ…?とか…?サーターアンダギー…?」

とか…?って言われても自分じゃ分からん。
まぁだからあぁいう甘ったるい油系の匂いって事でいいんでしょうか。

まぁ私の体臭なんざどうでもいいか。

「美結、あちらの方は?」

そう、こんなロマンティックなシーンなのだがどうも後ろの五代目マークⅡ(プチ族車使用)が気になるのだ。
美結は私の問いかけにハッとして私に抱き着いたまま私の顔を見上げた。

「あ、たける様、ごめんね?紹介する。ねえ!結美!結美ぃ!」

美結は私から離れてマークⅡに向かって手招きをした。
するとマークⅡのエンジン音が止み、中から男女一組が降りてきたのだ。

「どうもぉ。こんにちはっス。自分、リョウっていいます!飯塚亮っス!話は美結ちゃんから聞いてます!たけるさん!よろしくおねしゃっス!」

おいおい…おいおい…なんだこの漫画の世界から出で来たお手本通りみてぇなヤンキー君は。
身長は私よりかなり低いが、ソリコミ入の茶坊主、眉全剃り、細い目と太目の体、ヤンキー御用達みたいなデザインのトレーナーにだぼついたジーンズというまぁ…そのアレですよ、アレ。
ただ彼は迫力満点だが嫌な感じがしない。
きちんと大きな声で挨拶する、できるって大事だな。

「こんにちはぁ!たけるさん!リョウ君の彼女でぇす!結美です。美結とは同じ学校なんです!美結とは小学校から一緒なんですよ!?美結と結美、名前も入れ替えただけだしぃ、もう姉妹みたいなもんだよね?ねぇ美結!」

おいおい…おいおい…なんだこの小動物は。
美結よりちっこいじゃねぇか。
でも声デカっ…。
結美は黒髪のショート、一重の淡白な顔立ちだが、実に造形美な構成のあっさり美人といった具合だ。
ヤンキー君の彼女だけあって、服装もそれなりだ。
真っ赤なフード付きのパーカーに超短いフレアスカートに短いソックスにスニーカーといった具合だ。

「は、初めまして。よろしくお願いします。」

「たける様、今日はリョウ君と結美とあたしで町を案内するよ。」

美結はそう言うと、また私に抱き着いてきた。
なんかきぐるみかなんかと勘違いしているのか?

「ん?そうなの?ありがたいな。」

「それと、たける様今日はどこに泊まる予定なの?」

「いんや、決めてないよ。」

そう、今じゃ考えられんな。
この時私は宿の手配をしていなかったのだ。
それにどこかに泊まるほどの金も持ち合わせていなかった。
ネカフェもそれほど普及していない世の中だし、この限界集落寸前の町だからラブホテルやビジネス系の宿もあるまい。
この時の私計画を少し思い出してみる。

…思い出せん。

私はどうやって朝まで過ごすつもりだったのだろう。
しかも美結から宿を聞かれても何も動じていなかった事は覚えているので多分何か計画があったのだろうか。

若さって恐い。
無知って恐い。
無鉄砲って恐い。
無計画って恐い。

「リョウ君が泊めてくれるって。ね?リョウ君。」

「うん、たけるさん!俺ん部屋そんな広くないけど、来ていいスよ!あ、でもね、風呂広いっスよ!」

おいおい…マジか…。

「ん?あぁありがたい。飯塚さん、お世話になります。ホントすいません。飯塚さん…一人暮らしですか?」

「いや!俺、高校出たばっかなんスけど、仕事無くて実家いるっス!仕事探してるんスけどね!それとたけるさん!リョウでいいスよ!リョウで!」

ふぉお…マジdeath-car…

ヤンキー君の親って大体ヤンキーって説は9割信じていいんじゃないですか?

しかも高校出たばっか?
このナリで私より歳下なの?
二〜三人人殺してそうな二十代半ばって感じがしたんだが…。

「ん、あぁ、んじゃあリョウ君、お世話になりますね。ありがとうございます。ホントに。」

「はい!んじゃどうぞ!後ろん席に美結ちゃんと乗って下さい!」

「あ、あぁ、すいません。」

「たける様!行こ行こ!リョウ君!よろしくお願いします!」

こうして私は、リョウ君の車に乗り込み美結と町探検に出発した。


続く。

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