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「ある日、私の家の玄関に滅亡が入ってきた」 - "死"が人を愛するとき

★★★★★+

スタジオドラゴン作品のファンタジーロマンスと言われると気になって仕方ありません。ソ・イングクが「滅亡」を演じるという、字面だけだと「?」な設定にも惹かれて観ることにした一作です。始まって受けた印象が「九尾狐伝」に近い世界観だったのですが、そう思っていたら劇中で主人公が観ているドラマが「九尾狐伝」という、ちょっとふふっとなる演出(後半では「ホテルデルーナ」も登場)。とにもかくにも、"良いドラマ"ではなく"ハマるドラマ"ってこういうこと、と思ったドラマでした。

WEB小説編集者のドンギョン(パク・ボヨン)はある日、ひょんなことから受けた検査で脳腫瘍が見つかり、余命3〜4ヶ月であることを告げられます。幼くして両親を失い、弟とともに懸命に生きてきたドンギョンを襲う非現実的な不幸。おまけに恋人だと思っていた男性が既婚者であることが分かり、その妻に呼び出される始末。その様子がネットに載せられ会社の社長に問い詰められ、さらには弟からお金をせびられてもう何もかもが最悪な一日に、ドンギョンは思わず流れ星を見て世界の滅亡を願ってしまいます。

すると、そんなドンギョンのもとをひとりの男性が訪ねてきます。その男性は、あらゆるものが"消える"理由となる存在「滅亡」(ソ・イングク)だと名乗ります。そして唐突にドンギョンに「世界を滅亡させてくれと俺に頼め」と言ってくるのです。病気のせいで幻覚を見ていると思うドンギョンですが、やがて生きるためにそんな「滅亡」の手を取り、ふたりの100日間のロマンスが始まりを告げることに。

いかんせんソ・イングクが演じる「滅亡」のキャラクターが魅力的で、観始めたら止まらなくなりました。死そのものとも言える「滅亡」は、初めこそ人間のことを理解できず、一方で自分に与えられた役目に対して虚無感を抱きながらただ自分の存在を全うしていますが、死を迎えつつあるドンギョンを次第に愛するようになってゆき、彼女を生きながらえさせようとします。ソ・イングクが演じるその変化と葛藤がとても繊細で、涙なくして見られない展開になっていくのです。またそれを受け止めるパク・ボヨンのドンギョンが逞しくも愛らしくて、すごく好きなヒロインだなと思いました。彼女が泣きじゃくる場面は、ドラマのワンシーン以上にリアルな感情の吐露に見えて記憶に残ります。「死」の概念をこんな風に描くことができるんだ、という純粋な驚きもこめて、このふたりの物語は本当に愛しいものでした。

また、重要な登場人物のひとりが「神」なのですが、この神がまた良いのです。神様と言われると全知全能で最終的に上から結末をどうにかしてくれる便利キャラみたいな感じがしますが、このドラマでは神様にも苦悩があります。神様の存在意義も独自の定義がされており、ある意味で人間ではなくこの神様と、そして滅亡の視点こそが物語の肝なのかもしれません。

さらに忘れてはならないのがイ・スヒョク演じるドンギョンの上司である編集者・チャチーム長と、シン・ドヒョンによるドンギョンの良き理解者で作家のナ・ジナというカップルのこじらせにこじらせた恋愛関係。こちらはドンギョンたちと違って非常に普通の人間らしいラブストーリーを展開していくので安心して眺めていられますが、とりあえずイ・スヒョクのイケメンぶりが炸裂していてずっと嘆息を連発して見ていました(途中でチャチーム長が「吸血鬼みたい」と言われるシーンがあるのは「夜を歩く士」をイメージしてでしょうか)。

音楽はソ・イングク自らが歌う曲をはじめ、EXOのベッキョンやTXTも参加しておりとても豪華。主役ふたりの重要なシーンでかかる曲が、イントロで一瞬不安を感じさせて始まりつつ、次第に温かなメロディになっていくのが印象的で、個人的にはOSTも要注目です。

なんとなく、「悪の華」「九尾狐伝」からの流れで観たいドラマだなとも思いました。設定、展開、演出や世界観のまとまりが隅々までよくできておりがっつり没入できます。もしくは「空から降る一億の星」と合わせてソ・イングクの中毒性が高いキャラクターを堪能するのもまた良し。

しかし最後まで観て、なかなか沼感から抜け出せない予感のするドラマでした。もう一周しそうです。


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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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