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「悪の花」 - 何が真実かは自分の目で見て決める

★★★★★+

これはもう、ティザーやポスターを見かけたあたりから観たくて観たくて仕方のなかったドラマ。主役は14年の年月を連れ添ってきた夫婦。実は殺人犯として長年指名手配されている夫と、それを知らずに連添う刑事の妻という設定が個人的にもう優勝でした。そして結構ポイントなのがふたりに娘がいるというところ。子供まで生まれている夫婦の愛が果たして偽りなのか…考えるとなかなか重量感のあるコンセプトです。

最近はヒロインが刑事(ないし公務員)というのをちょくちょく見かける気がしますが、優秀で逞しく自ら危険に飛び込んでゆく女子ってなんか見てて飽きないのですよね。本作もヒロインのジウォン(ムン・チェウォン)は正義感と情熱に溢れ、賢さも備えた良き刑事なのですが、一方で妻として母としてはうまくいかない時もあり、人間味の緩急が効いた存在です。

夫のヒソン(イ・ジュンギ)は冒頭から怪しく、というかもう怪しさしかないのですが、とは言え、とにかくいいパパ。かっこよくて料理がうまくて娘のウナの面倒をよく見てひたすら可愛がり…もうそんなパパ・ヒソンを見るだけでもこのドラマを鑑賞する意味があるくらい素敵だと思います。

鑑賞前はもっと主役夫婦の駆け引きや騙し合いでヒリヒリするような、サスペンス主体の物語を想像していたのですが、観始めるとふたりの互いに対する気持ちが滲み出ては切なくて、すごく直球に愛を描く物語なのだなと感じました。ふたりの出会いからの移ろいも所々で語られるのですが、これも巧みに組み込まれており、「ああ、決してたやすく手を取り合ったわけではないのだ」と分かります。14年をともにしてきた夫婦の間にはやはりそれだけの絆が積み重なっていて、ときめくばかりの恋愛ドラマにはない面白さがあるのです(ちなみに倦怠期に悩むヒソンのシーンはシリアスな物語の中にあってとびぬけてかわいい)。

ふたりは互いの本心を探し、自分の本心を悟り、行ったり来たりを繰り返します。その中で見えるのは「自分が何を信じるかは自分で決めるもの」だということ。噂や状況に流されて、多くの人がヒソンを殺人犯として追う中、ジウォンが自分で掴み取っていく真実を見守るのは本当にドキドキします。

そして主演ふたりの見目麗しさはもちろん抜群なのですが、イ・ジュンギの妖艶な顔立ちにこの役はとりわけよく似合う気がしました。初めはまったく考えが読めないけれど、次第にその本質が見えてきて、あるエピソードで初めて感情が露わになるとそこから先は目で非常に多くを語るようになります(これがまた泣ける)。そしてそんな彼の独特の目にとらわれていきます。ヒソンは本当に複雑な過去を背負い、特殊な感情の回路を有していますが、ありきたりなサイコパスともどこか違って、観ている側にとってもなんだか新鮮なキャラクター。赤ん坊のようにまっさらなところから、ひとつずつ成長していく。それを実によく表現していると感じました。

それと娘のウナがかわいい!かわいいだけでなく賢さもある6歳児。彼女がいることで、きっとこの家族は本物なのだと思わせてくれる優しい存在です。

展開はもう、次から次へとヒソンとジウォンを襲う困難に本当に勘弁してあげてくれと思ってしまうのですが、着実に真実に近づいていく手応えにどんどん先が観たくなる。上等なサスペンスでもあります。ラストはある意味オープンな終わり方だと思います。終盤、シリアス極まっていく中で、平凡な結末だとしても充分楽しめる気もしたのですが、簡単にまとまって欲しくない気持ちがありました。だからこそ、ヒソンの抱えてきた苦しみの重さはやはりそんな安易に解決するものではないのだな、と。納得感がありました。でも未来を見ていける、そんなエンディングです。

刺激的な展開に目を奪われても、やはり物語の軸は終始、人の本心についてであり、他者の本心をどう捉えるか、自分の本心をどう判断するか。ずっと考えさせられました。それがまた何度も噛み締めてみたい感覚だったので、繊細に散々蛇行してきたヒソンの心の移ろいに注視しつつ、改めてもう一度観てみたいと思います。


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