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「九尾狐伝」 - 細部まで美しい理想の御伽ばなし

★★★★★+

九尾の狐。この役はまさしくイ・ドンウク!とキービジュアルを見たときにグッと来ました。端正で妖艶、強大な力を持つ山神。転生というテーマであったり、長い時間を生き続けているという設定ゆえにファーストインプレッションはどうしても「トッケビ」の死神がちらつきましたが、こちらのイ・ドンウクはまさに主役。より強く、より覚悟を持っていて、ちょっとしたジョークも含めて研ぎ澄まされていると感じました。「トッケビ」は遊びと独特の違和感が味になっているのに対し、この「九尾狐伝」は主人公の狐、イ・ヨンを描く物語にしっかりとスポットライトが当たっているので、とにもかくにも「イ・ドンウクの九尾の狐を果てしなく魅力的に描くドラマ」になっています。これがたまらない(暗闇で目が光るのがやたら似合う)。

ストーリーは冒頭、そんなイ・ヨンがとある少女、ジアを救う場面から始まります。そこから時が過ぎてジアが大人になり、都市伝説を扱うテレビ番組のプロデューサーになってから、ふたりは再会を果たすことに。実はイ・ヨンは数百年の昔に出逢って失った人間の恋人の転生を待ち続けてきた元山神の九尾の狐なのですが、果たしてジアがその恋人の生まれ変わりなのか、生まれ変わりだとして、なぜ前世でジアは命を落としたのか。謎を紐解いていくうちにじわじわと存在を現してくる不気味な敵…前世でのエピソードもところどころに織り交ぜられて物語は多重構造で進んでいきます。世界観はまったく違いますが骨組みはどこか「悪の華」に近いものがあって、ある謎を徐々に解き明かしながら別レイヤーの問題が次第に見えてくるつくりは、連続ドラマにおける面白さのひとつのセオリーなのかなと感じました。

イ・ヨンとジアの恋の物語がまた愛らしくも切なく、ラブシーンの美しさは本当に秀逸。可愛らしくデートする場面もあれば、涙なしでいられない別れもあり、名場面だけでも繰り返し何度も観れてしまいます。特に個人的には、前世でのイ・ヨンとジア(前世では王の娘)の三途の川での別れのシーンがとても印象的で、イ・ヨンの吐き出すようなセリフがたまりません。人間ではない存在、けれど人としての生に憧れる山神、という果てしなくファンタジーなキャラクターに、胸に刺さるような愛情を宿すイ・ヨン。

対するジアは、前世では気丈なお姫様。現世でもその気質は引き継いで、純粋で気持ちの強い女性です。やたら勘の鋭いところがあったり、初めはイ・ヨンに対しても両親を探すため利用しようとすらして見えるのですが、根はとても誠実で愛するもののために逞しく生きている姿が清々しいヒロインだと感じました。

二人を囲むイ・ヨンの弟のイ・ラン(癖が強い)や、イ・ヨンとイ・ランをそれぞれ慕う面々もたくさん登場し、隅々まで個性の効いた役者が揃っているのもまた魅力です。どんどん波乱が訪れて、あの奪衣婆の力でもどうにもできないほどの窮地に立たされる展開は息も付けませんが、そんな合間に、周辺のキャラクターたちとの穏やかな時間やサイドストーリーを挟んでくれるのが韓国ドラマの良いところ。物語もあらゆる意味で緩急や表裏がある方が厚みが生まれるのでしょう。そんな"緩"の演技もイ・ドンウクは妙にハマるのでこれがまた癖になります。

悪役であるイムギはもう純粋に悪役という感じなので(ものすごく美形ですが)、ある意味終盤はとてもシンプルに収束していき、その結果、ヨンとジアのラブストーリーがとにかく際立って完璧で永遠に観ていたくなります…。「風船ガム」のような等身大の男性を演じるイ・ドンウクも良かったですが、こういうスタイリッシュなファンタジーにおける存在感はやはり格別。この世界観にあって、チョ・ボアとの組合せがまた抜群なんだと思います。

とにもかくにも、理想的で完成された御伽ばなし。音楽もエッジの効いたものからラブシーンにぴったりハマるバラードまで幅が広く、そういった細部までなかなかに好みで、一度で堪能しきるというより、繰り返しこの世界に飛び込んで味わいたい作品です。エンディングの絶妙な反転から、もしかすると続編あるのでは?なんて声もありそうですが、そのあたりに期待しつつ、しばらくはこの物語の余韻にどっぷり浸りたいところ。



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