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「ホテルデルーナ~月明かりの恋人~」 - 生と死と愛を軽やかに丁寧に美しく

★★★★★+

予備知識なく、たまたま見かけたキービジュアルに惹かれて鑑賞しはじめた作品です。なのでてっきり洒落たホテルを舞台にした普通のヒューマンドラマかと思いきや、冒頭から思い切り時代劇。IUが剣を振り回す中で物語が始まり、じきに現代に移行はしますが基本的にはファンタジーです。言うなればホーンテッドマンション。しかし何せ最近の韓国ドラマは映像のクオリティが高いので、これは面白そうと一気にのめりこみました。

この世に心残りのある幽霊の魂を癒してくれる宿、「ホテル・デルーナ」。現実世界にも一応存在はしているホテルなのですが、パッと見はおんぼろ。ところが月明かりに導かれてやってくる幽霊たちの目には超高層のとびきり豪華なホテルとして都会のど真ん中に存在しているのです。そんなデルーナのオーナー、チャン・マンウォル(IU)は、その昔たくさんの人を殺めた罪を償うべく、1000年にわたってこのホテルを営んで来ました。
そのデルーナにたまたま迷い込んでしまい、息子のために花を盗もうとしたところをマンウォルに見つかった男が、見逃してもらうかわりにその息子を20年後にマンウォルに差し出す約束をします。そして息子ク・チャンソン(ヨ・ジング)は実際に20年後にマンウォルからデルーナの支配人として働くことを求められる…というお話。

次々にやってくる幽霊たちのそれぞれの思い残しを解決していきながら、物語はデルーナで働く人々のこと、そしてマンウォルの過去へと広がっていきます。この絡み合いが緻密で深みがあるためか、なんというか、知らぬ間にこのデルーナの人々のことをとてもよく知っているような気分になっていくのが不思議でした。

初めは全力でマンウォルに抵抗していたチャンソンですが、根が本当に優しく思慮深いのもあってか、次第に幽霊にも馴染んでゆき、マンウォルに向ける眼差しに愛情が芽生えていきます。その経過が個人的にはとても美しかった。よくよく考えると物語のど真ん中、まだ8話あたりで登場人物たちの心境は既に大きく変わり、ともすればクライマックスのような盛り上がりを迎えるのですが、決して展開を急いだ感はなく、ごくごく自然なのです。それくらい、そこまでの一話一話が丁寧に紡がれてきた印象がありました。

逆に言えば序盤は人物の詳細を紐解き、視聴者がデルーナの世界に慣れるべく幽霊たちの細かなエピソードを解決していくので、ともすれば退屈に思える瞬間も。ですが中盤で物語が動き出すと一気にその積み重ねが納得感を生み出している気がしました。韓国ドラマのこの後半に急に加速度がついて目が離せなくなる構成の力強さにはいつも感服させられます。

そして幽霊のホテルの話なので、初めから一貫して生死を扱ってはいるのですが、ちょっとオカルトなテイストは次第に薄まっていき、後半は「死」という絶対的な別れについて、そして見送る者の心の整理にスポットがあたっていきます。

チャンソンとマンウォルの、深く温かい信頼と慈愛に満ちた恋愛も、静かに枝葉を伸ばし花をつけてきて、物語の切ない道筋がその気配を覗かせてくることで、ますます引き込まれてしまいます。チャンソンはもともと心根の美しい、真っ直ぐな人間性が滲み出ているのですが、マンウォルと向き合ううちにどんどん男性として素敵になっていきます。恋には素直でとてもシンプル。直球ですが嫌味のない愛情表現と、一方でどこまでも紳士な態度はまさに理想を煮詰めたような恋人。マンウォルはマンウォルで、そんなチャンソンの想いをどこか達観した様子で受け止めているのは1000年以上を生きている超大人の女だからなのでしょうか。

マンウォルの過去との行き来がひとつひとつ秘められた想いを紐解いていくのもとても好きです。過去のマンウォルは、年相応の少女のような部分もあって、現代のマンウォルにはない素朴な可愛らしさを見せます。このあたりがIUはうまい、と思いました。「麗<レイ>〜花萌ゆる8人の皇子たち〜」の時も、最初は現代っ子なのがだんだんと朝鮮時代に馴染んでゆく様子を自然に演じていているように感じましたが、それ以上にこのホテルデルーナのマンウォルはしっくりきます。冒頭こそ童顔さが際立って浮いて見えることもありますが、すぐにマンウォルの人となりが見えてきて、ぴったりと収まっていくのです。現代マンウォルの勝気で執念深くねちっこくて、でも周囲を実によく見て大きな器で守っている女社長、というキャラクターが彼女の醸し出す内面的な落ち着きに似合うのかもしれません。

最終回はことさら美しく、ラストシーンにはガラリと空気を変えるサプライズもあり、非常によく仕上がった作品でした。最終的にヨ・ジングという俳優の奥深さに心を奪われてしまったことも忘れてはいけないポイント。続編が望めるならば期待したいところですが、さて、そのあたりはいかに…。


▼マンウォルメインの長編動画

▼さらに長編の全話要約動画


▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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