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「麗<レイ>〜花萌ゆる8人の皇子たち〜」 - 変われない部分があるから人は変わる

★★★★

原題は「月の恋人 歩歩驚心 麗」でしょうか。邦題だといわゆるイケメンパラダイス感が増し増しなので、なかなか観るのを躊躇っていた作品なのですが、観終わってみると、濃厚な人間模様と役者たちの地力に深く魅せられてしまいました。

基本のストーリーは、現代の女の子が高麗にタイムスリップして、当時のとある貴族の娘の人生を生きることになり、そこで出逢う王子たちと恋と友情を育みながらも、過酷な歴史の流れに呑み込まれていく…みたいな感じです。なんというか、「ふしぎ遊戯」です。

ヒロインのヘ・スを演じるのはIU。彼女を愛する王子たちが、異端児でみんなに恐れられているイ・ジュンギと、誰もが認める人格者カン・ハヌル(その他にもたくさん)。王子たちは彼女の心を勝ち得るために争い、それぞれに皇帝の座を目指しますが、ヘ・スは地位など関係なく、純粋に大切な相手と愛し合いたいだけなわけで(なにせ現代っ子)。

正直、序盤は結構キツいなぁと思わなくもなかったです。少女漫画な展開はどちらかと言えば好物なのですが、それにしてもヒロインに都合よくトントントンと物語が進んでいくし、王子たちの恋愛模様はそれはもうベタベタに描かれるので、実写で観るには少々味付けが濃すぎる…といった印象に。時代劇としてのリアリティもなんともいえず、「それ絶対に現代のものだよね」みたいなツッコミを終始入れておりました。

が、ちょうどドラマの折返し地点、後半に入るあたりでガラッと様子が変わります。

平たく言えば、ヒロインが手に入れかけていたものをいっぺんに失い、なかなかに厳しい試練が降ってくるのです。そしてここからは、史実にも沿ってなのか、一気に物語はダークモードに。絶望を味わって闇落ちする王子がいたり、譲れないもののために兄弟で命を奪い合い、前半のお気楽なノリはどこへやら。まさかのキャラが退場してしまったり、暗澹たる運命が広がっていきます。

その中で、ヘ・スとイ・ジュンギ演じるソ王子の恋は苦難を乗り越えてついに実るかに思えるのですが…。

終盤、全てが噛み合わなくなって、愛が憎しみにすら変わってしまいそうになりながらも、愛を失わないためにする決断、そして訪れる結末から確認する想い。このあたりの描き方が秀逸だと思いました。観ている側は心休まらないのですが、感情の機微を濃厚に積み重ねてゆきます。

最初は違和感の多かったIUの演技も、後半になると何年も経た設定なのもあってか、驚くほどヘ・スとこの時代の人物に馴染んでいます。さすがアーティストというか、とにかく華と存在感があるので、メンズを圧倒する強いヒロインがよく似合うのかもしれません。

イ・ジュンギの王子がまた味わい深いというか、初めは血も涙もなさそうな風貌で登場しつつ、その実は家族の愛に飢えた少年のような王子で、それが幾多の苦難を通して、根の優しさもあってか思いやり深く皇帝や国の行く末を案じる存在に変化していきます。しかしひとたび地位を手にすると、自分の大事なものへの固執、様々な情に囚われて、気づくとまた孤独になっている…。全編通して観ると、この上なく人間味に満ちた哀しい人なのです。

途中、つかの間ですがそんなふたりが幸せを噛みしめる期間があり、そこではもう存分に愛を確かめあえていたので、最後まで観ると思わずそこに戻りたくなってしまいます。

エンディングは各々で多少想像を広げられるものになっているので、そこまでをどう観てきたかで捉え方も変わるかもしれません。出逢った時代が違えば思う存分に愛し合えたのに…というヘ・スのセリフが、意外とこの物語の核心なのかもしれません。現代では起こらないような、その時代ゆえの不条理に踏みにじられながら、それゆえにより想いが強くなっていく。時代劇はだからこそ、人の感情をシンプルにくっきりした輪郭で描くことができるように感じました。

一筋縄でいかない展開に絡めとられ、昇華された少女漫画的魅力を堪能できる、実にお腹いっぱいになる作品です。


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