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「ヴィンチェンツォ」 - 視聴者にも媚びずに容赦なし!新感覚のダークヒーロー

★★★★★

ソン・ジュンギひさしぶりの主演ドラマとあって、出演確定時から待ちわびてきた一作。Netflixでの配信には本当に歓喜でした。

ボスを失い、組織に裏切られ、韓国へ戻って来たイタリアマフィアの弁護士、ヴィンチェンツォ・カッサーノ(ソン・ジュンギ)。外見的には韓国人だが幼いころに母親に捨てられイタリア人の養父母とイタリアへ渡った彼は高級なスーツに身を包み、オペラを愛し、気質はすっかりイタリア人です。ついでにマフィアなので復讐のためなら涼しい顔で葡萄畑をざっくり焼き払うことだって厭わず、我が身を守るためには人を殺すことも。

そんな彼が韓国にやってきたのは、地下に大量の金塊を隠してある古びたビルがあるから。入居者をどかしてビルを壊し金塊を手にいれて高飛びすることが彼の目的です。

ところがそんなビルに入っている法律事務所の弁護士ホン・ユチャン(ユ・ジェミョン)はヴィンチェンツォにとって浅からぬ縁のある相手であり、そんな彼が立ち向かうバベルグループの企みを潰す闘いにやがてヴィンチェンツォも身を投じることに。ユチャンの娘でだいぶキャラの濃いこれまた弁護士のホン・チャヨン(チョン・ヨビン)とも手を組み、クールな見た目とは裏腹に弱きを守り情に厚いダークヒーローぶりを発揮していきます。

事前の情報からはヘヴィなノワールを想像していたのですが、始まってみると(いきなり豪邸を豪快に燃やしたりはするものの)リズミカルなテンポにシニカルな笑いを交えた小気味いい世界観。どことなく堤幸彦的な味わいを感じて妙に親しみを憶えました。そのノリなので結構ライトに楽しめるのかなと思わされるのですが、序盤からしれっと人が亡くなっていき、その緩急はなかなかに激しいものがあります(でもそれもまた薄ら堤幸彦的かも?)。

何はともあれヴィンチェンツォがカッコよく、ソン・ジュンギここにあり!と思わされる立ち姿。水色の車にサングラスで法廷に乗り込むシーンは思わず溜息が漏れました。「太陽の末裔」での愛と任務に尽くす軍人役がもはやソン・ジュンギのパブリックイメージにも思えますが(個人的には「アスダル年代記」での無邪気で真っ直ぐな演技も好き)、ここでの彼はそこから更に大人の男としての成熟味を増して、冷淡に見せても情に厚い。さらにそれだけではなく二重にも三重にも策略を巡らせるキレ者で、深みのあるいい男として君臨しています。

そして分かりやすい悪役として配置されているバベルグループのチャン会長を演じるのはクァク・ドンヨン。「サイコだけど大丈夫」での演技が強烈に印象に残っていますが、馬鹿息子役が本当によく似合います(褒めてる)。こんなにイケメンなのに情けなさの表現がピカイチ。好きな役者さんです。もちろん悪は一筋縄では行かず、馬鹿息子の後ろにも強烈な敵が控えているので結構濃厚に楽しめる打倒バベル。本格的にヤバい奴もいればひたすらビビっている小者も、プライドがなく権力を嗅ぎ分ける嗅覚だけで生きる奴もいる。悪役の多様性もこのドラマの特徴のひとつかもしれません。

展開としては、一見凡庸にも思えるスタートを切りながらも3話のラストで「おっ、そう来るのか」となり、10話を越えてくるともう何が出てきてもおかしくないくらいに感覚が痺れてきてヴィンチェンツォ沼の手触りを実感します。12話くらいのところで「あ、全16話ではなく20話なのか」と気付いたのですが、確かに応酬に応酬を重ねてスケールの膨れ上がった物語は16話では絶対に収まりません(16話の放送後には編集のブラッシュアップのため?に放送を一週スキップする気合の入れよう)。そしてそんな第16話が個人的に凄まじかった。この回のラストに凝縮されるソン・ジュンギの目の演技に鳥肌が立ちます。

ヴィンチェンツォとホン・チャヨンのラブストーリーも傍線的に存在はしていてエピソードを積み重ねていくのですが、あくまでテーマはダークヒーローの闘い。序盤に「人を殺さない」と約束する主役のふたりが、気づけば襲ってくる敵の命をためらいなく奪っている。弁護士という職業にありながら正義であることに意味を持たない。そのあたりは観ている側にも容赦がないというか、なんだかんだで主人公が人格者で敵のことも救ってしまうような安心パターンはなく、かといって完全なる極道や世捨て人のようになって無闇矢鱈に人を殺すのでもなく、ヴィンチェンツォは悪を自認するヒーローとしての役割を、小粋な洒落も交えながらただただ全うしていくのです。そんな"悪で悪を倒す"という本筋を誠実に描き、何かに媚びるような風もなく物語の面白さで真っ向勝負する姿勢が清々しい一本。中庸ではなく両極端の軽さと重さ、明るさと暗さがさりげない顔をして同居する不思議な感覚が癖になります。

最終回まで残酷に、それでいてテンポよく爽やかに血飛沫の舞うこのドラマ。心残りなく終わってくれ、隅々まで余すところなく楽しめる一本でした。

▼ヴィンチェンツォの豊かな魅力まとめ


▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

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