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「アスダル年代記」 - 覚悟を感じるスケールで描く人間の欲望

★★★★★

とにかくスケールを追求する気合いを感じる作品です。古代を舞台にSFを交え仮想の種族たちが躍動する世界観はその辺の歴史モノとは次元が異なります。細やかな設定はもちろん行き渡っていますが、映像はどこまでも壮大。「もののけ姫」を実写でやるような感じですが、完成度は実に高くて、観ていて変に我に返る瞬間もありません。

ストーリーはなかなかに複雑で、イグトゥと呼ばれる人間とネアンタル(飛び抜けた身体能力と青い血を持つ種族)の混血であるウンソムが、生まれて間もない頃に暮らしていたアスダルを追われ、親を失って保護されたワハン族の村で青年に成長するのですが、ある日突然、ワハンの村が襲われ、ワハン族の民は奴隷としてアスダルへ連れて行かれることに。たまたま難を逃れたウンソムは仲間と愛するタニャを救うためにアスダルへ向かう…というのが始まり。しかしそこにアスダルを支配すべく駆け上がっていくタゴンとその恋人テアラの物語が混ざり合い、また文明の発達しているアスダルにおいては部族同士や武力と神力の鬩ぎ合いが続いており、血で血を洗う争いになっていきます。とにかく舞台が大きい。

役者陣の質の高さがこのスケール感を力強く支えています。ソン・ジュンギの演技は"引き込まれる"という表現がぴったりだと感じました。演じる主人公のウンソムは不吉な星のもとに生まれたとされるイグトゥですが、純粋で幼いころに助けられたタニャを大切に思う素直な男子。まだ文明の発達していない土地で育ったので、外の世界に出て初めは見るものすべてが新しく驚きばかりといった様子なのですが、本当にこの無垢な雰囲気がナチュラルで、弓矢すら知らない様子さえリアル、小学生くらいの幼い少年を見ている気分になります。「太陽の末裔 Love Under The Sun」のユ大尉と同じ役者とはとても思えないなぁと驚かされました。

中盤からは2役をこなすようになりますが、この演じ分けもまた凄みがあり。確かに同じ顔なのに、些細な表情や声の発し方がまるで別人。それぞれに異なる感情で愛着がわくから不思議です。

一方で古代都市アスダルの戦争の英雄であるタゴンを演じるのがチャン・ドンゴン。一線で存在感を放ち続けてきた俳優ならではの重厚さが、いつの世も変わらない人間の欲望や愛憎をこの世界にもたらし、ファンタジーでありながら地に足のついた物語を展開させてくれます。このタゴンと恋人テアラの一筋縄でいかないラブストーリーがまた面白いのです。中盤、このふたりがそれぞれに剣を持って闘い、互いの安否を思って駆けつけていくシーンは、カップルとしてカッコ良すぎて喝采モノでした。

また、キム・ジウォン演じるタニャが氏族の母の後継者として成長し大神殿のトップへ登り詰めていく様は、物語としてとてもよくできていて美しく感じました。神殿で舞うシーンは圧倒的で、ここまでの伏線も含めて鳥肌。そしてウンソムと互いを救うためにそれぞれの場所で這い上がろうとする姿が何よりこのドラマの極上のハイライトです。それこそ、このふたりと言うと「太陽の末裔 Love Under The Sun」を連想しますが、もはやその面影は全くなくて、完全にアスダルを生きるふたりに。

終盤になかなか重要な役どころで唐田えりかが登場するのですが、他の登場人物とまた少し色合いの異なる存在感が新鮮でした。異なる種族がたくさん出てくるドラマなので、同じアジアの中でもまた違う国の俳優であることがむしろハマるのかもしれません。

欲望と権力への渇望で生きるキャラクターと、全くそれがない無垢な存在とのコントラストが人間の本質を炙り出していく面白さは古代が舞台ならでは。そして複数の方角から複数のキャラクターが高みを目指していくストーリーの絶対的な厚み。相当な覚悟を持って始まったプロジェクトでしょうし、かけられているであろう膨大なコストに見合うクオリティの作品になっていると思いました。こういった規模の物語で、漫画以外でこれだけ一気に引き込まれる経験はなかなかありません。

そして分かってはいましたが、これだけの展開を見せるドラマが1シーズンで終わるはずもなく、めちゃめちゃ続きが気になるところで終わっているので、諸々進行する上で難題が多いと噂のシーズン2が今は待ち遠しくてなりません。


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