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「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」 - 違和感の向こうに穏やかな海が広がる心地良いドラマ

★★★★★

いろいろなことがちょうどいい、何というか「体温」を感じるドラマでした。私がパク・ウンビンを初めて憶えたのは「ストーブリーグ」で、そこではいい意味で普通で、周りのキャストが濃いのもあってものすごく印象に残っていたわけではありませんでしたが、彼女にしか出せない空気みたいなものが効いていた気がします。「恋慕」では男のフリをして生きている王という、ファンタジーではありがち設定ながらうまくこなせる役者はなかなかいない役柄を、すごくナチュラルに演じている印象でした。そんな独自の女優像を築いている彼女が今回演じたのは、これまた難易度が高いであろう自閉症の弁護士。正直、パク・ウンビンだから観てみようと思いました。設定が強いキャラクターほどステレオタイプな演技で表現されがちなイメージがあるのですが、パク・ウンビンなら彼女のスタイルで消化するのではないかという期待でした。で、1話からやはりすごくいい塩梅のハマり方だなぁと思わされ。難役が代表作になることが役者にとって良いことかは分からないですが、パク・ウンビンの分厚いキャリアの中でも意味のある1ページになって見えました。引き受けるのに長いこと躊躇していたという話も納得の、熟成された役作りと努力が伝わるウ・ヨンウです。

ウ・ヨンウ(パク・ウンビン)は軽度の自閉スペクトラム症ですが、IQ164を持ついわゆる天才。ソウル大のロースクールを首席で卒業し弁護士試験でも高得点を獲得しますが、自閉症が理由で法律事務所への就職がなかなかできずにいました。そんな中、大手法律事務所のハンバダが彼女を採用しインターン弁護士となったウ・ヨンウ。

優秀なシニア弁護士チョン・ミョンソク(カン・ギヨン)が彼女の指導係となりますが、いわゆる協調性がなく自分の視点で訴訟を見ているウ・ヨンウに初めは戸惑いと苛立ちを見せます。イケメンで優しい訟務チームの職員イ・ジュノ(カン・テオ)が彼女の業務のサポートをしてくれたり、分かりやすく競争心をむき出しにするクォン・ミヌ(チュ・ジョンヒョク)、ヨンウの同期でヨンウの考え方を理解し尊重してくれるチェ・スヨン(ハ・ユンギョン)といった同僚に囲まれヨンウはヨンウなりに社会を知り成長を重ねていくことになります。また、飛び込んでくる訴訟も刑事事件から知人の親族トラブル、道路の通行料の問題、個人情報の流出…となんでもござれですが、ヨンウはその図抜けた記憶力と人と違う斬新な着眼点で鮮やかに解決の道筋を見つけ出していくのです。毎回色合いの異なる決着を見せる訴訟と、ややこしくもつれ合いながらも少しずつ進歩していくいろいろな人間関係。波乱もありますが、基本的にはそれらを穏やかに見守る16話。

ヨンウと親友グラミが顔を合わせるたびにする挨拶が独特でだいぶ流行っているようで、韓国のアイドルから日本のサッカー選手までこの挨拶パフォーマンスをしていたり、メディアを見ていてもドラマの話題といえばヨンウヨンウ、Twitterのトレンドもヨンウ。1%スタートだった視聴率が15%くらいまで上がっていた気がしますが、途中から韓国国内にとどまらないあまりの流行っぷりにびっくりしてました。Netflixがほぼ世界同時に配信できることの強さを感じました。すごくいいドラマでも配信タイミングが国によってバラバラだとSNS上での盛り上がりもバラけますし、毎週同時に新エピソードを待つ一体感を生まれません。全話まとめて配信されるタイプの作品もそれぞれがそれぞれに観るので、メディアなどで取り上げられたりしないと誰もが知っている作品のレベルまではなかなか行かない気がします。とはいえ「愛の不時着」や「梨泰院クラス」が最初に配信されたころとは広がりのスピード感が違う気もするので、やはり2020年からの2年でNetflixも大きく変わったんだろうなぁと妙な感慨もあり。

ただ、こういうドラマがこういう流行り方をするのはいずれにしろ作品の多面的な魅力ゆえなのかなと思いました。もちろん一番は癒し力抜群な物語とヨンウの存在でしょうが、斬新さと面白さのある法廷シーン、恋せずにいられない最強男子ジュノ、ジュノとヨンウの切なくも温かい恋の行方、同僚、友人、家族と出てくる人がみんな優しさと不器用さを持っている姿…喜怒哀楽すべてをちょうどよく噛みしめられて、毎回ほんのり幸せな気持ちになれる1時間といった感じでした。日本だと少し前の日曜劇場に合いそうな、老若男女わりと誰もが楽しめて、日常生活に疲れたとき安らぎと活力をくれるような作品。

ヨンウのキャラクター自体は自閉症の天才ということで、そこにどれほどのリアリティがあるのかは分かりません。とはいえ設定は登場人物を型に落とし込むものではなく個性を生み出す源。原題は「おかしな弁護士 ウ・ヨンウ」といった意味合いだと思いますが、風変わりであることの価値をじっくり考えていくストーリーでもあり、周囲の彼女の個性に対する十人十色の受け取り方こそが彼女の存在の魅力を表していました。ヨンウにどんどん惹かれていくジュノの姿はもちろん印象的ですが、その対として彼女の才能が分かるからこそ反発してしまうミノもいて。「違う」存在がいるってとても大事です。違う見方、違う価値観、違うテンポがあることは実際にそれに触れてみないと分かりません。そして違いの価値を認められなければ変化も進化もありえません。主人公はヨンウですが、ヨンウを囲む人々がとても素敵な作品でした。もちろんヨンウ自身も、意図せず他人の気持ちを無視してしまうことがある自分と真摯に客観的に向かい合い精一杯周囲の人々を大切にする姿が愛しく、何度もグッときます。忖度しないからこそ彼女はありのままの感情を大切にできるのです。

最終回の放送後、twitterのトレンドに"좋은 드라마(良いドラマ)"と入っていたのが印象的でした。ほんとにそう思います。海にクジラを見に行きたくなりました。


▼流行っていたヨンウとグラミの挨拶シーンが冒頭です


▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

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