見出し画像

「ストーブリーグ」 - 9回裏ツーアウトなら逆転ホームランを打てばいい

★★★★★+

長らく観たかったドラマのひとつ。何せストーブリーグ(プロスポーツクラブのオフシーズンにおける選手の契約更改や移籍市場)がテーマというのがなかなかいぶし銀で、1スポーツ好きとしてとても惹かれるものがありました。

最下位が続いている弱小貧乏プロ野球チームのドリームズに、相撲・アイスホッケー・ソフトボールといった競技でチームを率いては優勝に導くものの、なんだかんだ廃部になってしまうという特殊な経歴を歩んできたペク・スンス(ナムグン・ミン)が、新しいGMとしてやってくるところから話がスタート。それぞれのスポーツで優勝してきた手腕は伊達ではなく、ドリームズにおいても選手スタッフの想定外な角度から大鉈を奮って組織を変革していきます。

チームには当然オーナー企業がいて、そっちにはそっちの思惑があったり、選手やスタッフにも各々の利害があり…障害だらけの道を涼しい顔で切り拓いていくスンスがキレッキレで、半沢直樹的な爽快感を楽しめるドラマ。

ナムグン・ミンが演じるスンスがまた反則的にかっこいいのです。野球のことは特に知らないと言っていたものの、改革を始めてみれば的確にチームの長所短所を炙り出し、意外な着眼点と巧みな交渉で手品のように問題を解決してしまう。普段はクールで感情を表に出すこともないですが、知性的な語り口の中には選手やスタッフたちへの心配りを感じさせ、人情が滲みます。

一方でスンスには弟がいて、この弟との関係には思わず涙せずにいられないような場面も。スンスにとってもまた、野球は特別な意味があるのです。途中で明かされるスンスの背負ってきた過去はなかなか重みがあるのですが、その上でこんな飄々としたキャラクターを成しているのかと思うとえも言われぬ厚みを感じます。

他にも、アメリカでとある巡り合わせでスカウトすることになる選手のエピソードは非常にグッと来ました。スポーツにおいては試合の勝ち負け以外にも実に様々な物語が生まれます。このひとりの選手がチームに加わる道筋がとにかくドラマティックで、ドリームズに新たな変化をもたらすことに。兵役など韓国ならではのテーマもフラットに取り上げられていてリアリティがありました。人間ドラマとしてもクオリティが高いのです。

契約更改なんかは最たるものかもしれませんが、プロのスポーツ選手は一般の会社員とはまったく違う職責を負っているわけで、厳しい場面は多々訪れます。胸が痛くなるほど、そのシビアさは丁寧に丁寧に物語の中で描かれていきます。そしてその積み重ねが、最後には実を結ぶ。スポーツは目に見える結果の意味もとても大きいですが、過程は裏切りません。

また特筆すべきはオ・ジョンセかもしれません。彼の役どころはオーナー企業の常務で、スンスをGMに選んだ本人ですが、実はドリームズを潰そうと考えており、詰まるところは敵役。このオ・ジョンセがとにかく憎たらしい。憎たらしいのですが、彼にも彼なりの葛藤があり、ある意味で人間味のある敵役になっています。「サイコだけど大丈夫」のサンテと確かに同じ俳優なのですが、そう考えると脳がバグってしまいそうなほど別次元の存在になっていて、役者というのは本当に面白いなぁと思わされます。

本当にストーブリーグで物語がほぼ終わるのですが、見ごたえは抜群。「人生は9回裏ツーアウトから」がキャッチコピーなのですが、まさしく9回裏ツーアウトで逆転ホームランを放ち続けるようなペク・スンスにひたすら勇気をもらいました。弱小球団が優勝争いを目指せる集団に成長していく16話を経て、このチームが闘うシーズンを観てみたくなる、思わずドリームズのファンになる。そんなドラマです。



▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

テレビドラマ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?