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「還魂」 - 漫画がくれた情熱ときらめきをドラマで感じられる時代

★★★★★

初めはなんとなく手をつけてませんでしたが、他でファン・ミニョンを観ていたらやはり彼の出ているドラマを観るべきかとなり、いざ観始めたら結局一気観でした。架空の国が舞台で完全にフュージョン時代劇ですが、タイトルどおり「魂が入れ替わる」設定スタートなのでもうゴリゴリにファンタジー。ファンタジーはやっぱりどう転ぶか読めないのもあって踏み込むのに多少躊躇ったりしますが、「ホテルデルーナ」や「花遊記<ファユギ>」を手掛けたホン姉妹の脚本ということでそのあたりは序盤からつくりの丁寧さを感じました。何にせよ掛けている予算が違うのか、韓国で作られるSFドラマは壮大でもリアリティを失わないクオリティの高さ。妖器や妖魔、術士たちの闘いのシーンも見応えたっぷりです。加えて主人公たちの成長を骨太く描く冒険、シリアスからコメディまで場面に応じて変わる雰囲気、ロマンスとしての軸立て、いずれも手を抜かない一級のエンタメ作品だと思いました。

舞台は敬天大湖に築かれた架空の国・大湖(テホ)国。ここでの人々は水の気を操る術によって国を築いてきました。王室直属の機関である天附官の官主である術士のチャン・ガン(チュ・サンウク)は、人の魂を移し替える「還魂術」を使えるものの、還魂した者が身体に適合できずに暴走し、水の気を失って石化してしまう事件が相次ぎます。そんな中で還魂の噂を聞きつけた時の王コ・ソン(パク・ビョンウン)は、老い先が短いことを嘆いてチャン・ガンと7日間だけ魂を取り換えたいと言い出します。断れずに王と魂を入れ替えてしまうチャン・ガン。しかしチャン・ガンの身体に入ったコ・ソンは、あろうことかその7日間の間にチャン・ガンの妻トファに自分の子を身ごもらせてしまうのです。

20年後、最強の術士であり天下一の刺客と謳われる女刺客のナクス(落首)が世間を騒がせていました。大湖国の中で術士教育機関と医療機関を擁し小さな街のようなコミュニティを築いている「松林(ソンニム)」の総帥パク・ジン(ユ・ジュンサン)は、ナクスと激しい戦いを繰り広げ、ナクスは深手を負ってしまいます。逃げ延びたナクスは酒場にいた女性の体に魂を乗り換えようとしますが、目を覚ますと彼女の魂は盲目の女性ムドク(チョン・ソミン)の体に入っていました。しかし盲目のはずが目が見えるようになっているムドク(の中にいるナクス)。そして彼女はガンの息子であるチャン・ウク(イ・ジェウク)と運命の出会いを果たし…。

いかんせんスケールが大きい。国家や機関の設定も細部までこだわり抜かれており、登場人物が多い上に魂が入れ替わってしまうので状況を把握するのに初めは何かと苦労しましたが、馴染んでくると圧倒的な没入感で抜け出せなくなります。

最初はムドクとウクのどたばたコンビが、ムドクはナクスとしての力を取り戻すため、ウクは術士として一人前になるために手を組んでいくことで物語が進んでいきます。表向きはウクの侍女となるムドク。しかし実はウクにとってムドクは術者の師匠なのです。ふたりの関係が深まるにつれてウクの背負う宿命の重みやムドクの人間としての感情の変化が濃淡鮮やかに展開していき、見ていてとにかく飽きません。さらにふたりを囲む登場人物たちの華やかなこと。術法の達人でウクを気にかけ何かと助けてくれるイ・チョル(イム・チョルス)、松林の総帥でウクの出生の秘密も知っていて守ろうとしてくれるパク・ジン(ユ・ジュンサン)のような力と慈愛を兼ね備えたおじさまたちの味わいは抜群です(ちなみに妙齢キャラたちのラブ・トライアングルも劇中では結構な尺をとって描かれます)。また、幼いころに出会ったナクス(本当のナクス)への初恋を胸にムドクに対して淡い想いを募らせるソ・ユル(ファン・ミニョン)の貴公子っぷりと、基本は万能なのにちょっとポンコツというギャップ。ユルはまさに少女漫画には欠かせないような存在で、彼を見ていると、このドラマに感じるときめきってまさに漫画から受け取るそれだなと思いました。ユルに限らず、かつては2次元でしか表現しえなかったような(表現してもどこか拙かった)世界が、今こうして実写ドラマで十二分に成立する時代になったのだなとしみじみします。

チョン・ソミン演じるムドク(ナクス)はめちゃめちゃプライドの高い術士かつ刺客でありながら非力な女子の身体に入ってしまったという複雑なキャラクターですが、孤高の強さと野良の子猫みたいなかわいらしさが共存していて、すごく魅力的なヒロイン。「空から降る一億の星」のときも感じましたが、逆境で輝く美しさと母性のような女性らしさがよく似合う女優さんです。また、チャン・ウクのイ・ジェウクは「偶然見つけたハル」の二番手(?)男子の印象が強くて主人公のイメージがなかったのですが、話が進むほどに天才的な術士の素養を持ってるように見えてきて、どんどん大胆さと実力を兼ね備えた絶対的ヒーローに。何よりムドクとのカップルが底抜けにかわいくてずっと見ていたくなりました。

最強というよりは最悪の敵チン・ム(チョ・ジェユン)にはやはり愛の力で勝ってほしいもの。年内のシーズン2公開が予告されており、シーズン1のラストはまあまあ衝撃的でしたが、このわくわくする気持ちが続くのだと思うと嬉しいです。ムドクのもうひとつの伏線とユルの気がかりを残したままなのでシーズン2を待つのはなかなか辛いですが…。とりあえず1周してみて、観始めたきっかけでもあるファン・ミニョンがユルというキャラクターに存分に活かされていて沼を感じました。年末までにもう数周しそうな予感がします。



▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

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