「偶然見つけたハル」 - 秀逸なキャスティングが命を吹き込む意志ある少女漫画

★★★★★

一度見始めて脱落したものの再チャレンジしたら結構ハマってしまったドラマのひとつ。漫画みが強すぎる(というか漫画の中の世界という設定)のが最初すんなり入ってこなかったのですが、「天気がよければ会いにゆきます」で気になったキム・ヨンデも出ていることに気づいて改めて観てみました。ウェブ漫画が原作(漫画のタイトルは「偶然見つけた7月」)でほんとに少女漫画も少女漫画なのですが、登場人物たちのキャラクターも突き詰めて漫画的で、かえって漫画原作の実写にありがちな違和感がないのが面白かったです(漫画だと思うとロウンの高すぎる身長もさほど気にならない笑)。

幼い頃から心臓病を抱え母を喪いながらも、父親に愛され明るく育ってきた女子高生のウン・ダノ(キム・へユン)。彼女に名門であるスリ高校に通う社長令嬢でもあり、婚約者はスリ高の「アメイジング3」と言われる(花男のF4的なやつ)、イケメンセレブ3人組のひとりペク・ギョン(イ・ジェウク)。「自分はヒロイン」だと疑わずに生きてきた彼女ですが、急に記憶が飛んだり、いる場所が変わっていたり、未来予知のようなことができてしまったり、何かがおかしいと感じるようになります。

そしてある日、学食の謎の美形料理人、チン・ミチェ(イ・テリ)から驚愕の真実を聞かされることに。なんとダノたちがいるのが実は漫画の中の世界で、自分たちはその登場人物に過ぎないのだと言うのです。登場人物たちの中で時折「自我」を持つキャラクターが現れ、ダノもそのひとり。記憶が飛ぶ感じがするのは、コマとコマや場面の間の空白を感じることができるからだという、にわかに信じられない話。

初めは認めなかったダノですが、実際に自分たちの行動を記した漫画を見て、辻褄の合う状況に出くわしていくうちに受け入れざるを得なくなります。しかしそれ以上にショックだったのは、ダノはヒロインでもなんでもなく、本当の主人公であるジュダ(イ・ナウン)とナムジュ(キム・ヨンデ)のラブストーリーを盛り上げるためのエキストラでしかないと言う事実。

脇役のまま持病の心臓病で死ぬなんて展開は耐えられない!とストーリーを変えるべく奮闘を始めるダノは、どうも設定に反した動き方ができるように思えるひとりの男子生徒を見つけます。名前すらなく、セリフもないので言葉も発しないクラスメイトの出席番号13番(ロウン)。とんでもなくイケメンなのにエキストラで、漫画の中では顔もまともに描かれていません。そんな彼となんとか親しくなろうと毎日話しかけ、ダノは「ハル」という名前を彼につけます。そこから少しずつ物語は進む方向が変わっていくように見え初め…。

とにかく目が離せなくなるのがロウン。少女漫画のヒーローを地で行く容姿はもちろんですが、最初はモブキャラだったのが自我を持ち、次第に感情豊かになっていく様子が真っ白いキャンバスに絵を描くように美しく、やっぱり役者としても好きだなぁと思いました。脇役で受けたオーディションで考え方や読んだ本の話をしたら主人公に抜擢されたというエピソードもありましたが、確かに彼はどう転んでも主役の存在感と表現力。ロウンの存在があってタイトルが「偶然見つけた7月」から「偶然見つけたハル」になったのも分かります。放送開始を控えた次回作「明日」も楽しみです。

キム・ヨンデは期待を裏切らない育ちもいいが男気もあるイケメンでした。声がいいからか、品のいいキャラはほんと良く似合います。劇中では漫画の主人公なのでこっぱずかしい台詞もあれこれ出てきますがサラッとこなしてて、「こういう主人公いる!」としみじみ。イ・テリもまた出来過ぎな顔面を遺憾なく発揮して世界観を強力に支えています。「九尾狐伝」でも悪役ではあれどファンタジー全開な役が似合ってたので非現実感に納得を生んでくれる貴重な存在です。このドラマでは設定を説明してくれるストーリーテラー的な、みんなを見守る「花ざかりの君たちへ」の梅田先生?みたいな立ち位置でした。彼のロマンスもなかなか素敵。

キム・へユンの、90年代マーガレット的な元祖少女漫画のヒロインキャラも見事だと思います。感情の起伏たっぷりにいくらでも涙を流し、コミカルな表情も惜しみなく振りまいて、誰もが振り向くような美少女とはまた違う けれど元気でかわいくて一生懸命でちょっとおっちょこちょいなダノが本当にぴったりでした。

そんな彼女のことが周囲のイケメンたちはなんだか気になってしまう。漫画脳を刺激してやまないファンタジーなロマンス展開を「漫画の世界の中で登場人物たちが自我を持つ」というさらなるファンタジーでくるむことで実写と漫画の乖離を感じさせない不思議な説得力が生まれ、この独特の世界に引き込まれるのです。超王道を斬新に魅せていく意欲作。

若さと爽やかさが弾けに弾けるセンスあふれるキャスティングがまさに作品に命を吹んでいて、できることならダノとハルの恋の行く末をずっと見ていたい。そんな風に感じるドラマでした。


▼絵柄の美しさに惹かれる原作

▼日本語版の配信もありました

ドラマの公式サイトはこちら

これも本作を完走してから見直したらより面白かったです↓。ハルと全然違うロウン。



▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

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