言葉に出来ない感情 後編
私はレジの前に居た。
前のめりになって店員に尋ねる。
大橋裕之先生の「音楽 完全版」の在庫はありませんか!?
客の勢いに気圧された様子を見せながら近くのパソコンに文字を打ち始めた。
しばらくして返ってきた言葉に私は、肩を落とし店を出た。
乗って来たママチャリには古びた鍵が付いていた。スタンドを蹴って跨ると、ユラユラ揺れながら家に帰って行く。
なんて、簡単に諦めるか!ボケ!!
私は諦めきれず、コンビニに急いだ。そして、Amazonのプリペイドカードを勢い良く取りレジに置いた。
私にはkindle paperwhiteがある。本当はちゃんと単行本で読むアナログ派の人間だが、この気持が冷めぬうちにもう一度熱くなりたいんだ!
高校生の頃にバイト代で買ったkindle paperwhite。普段は出先で読む為にしか使用していない。
私はいつか必ず単行本を見つけ、買うことをキング・ オブ・ロックの忌野清志郎に誓い、Amazonの購入ボタンをポチっと押す。
すぐにダウンロードが終わり、そいつを開いた。
物凄いスピードで絵が進む。それが心地良い。
体温は徐々に上がっていく。体勢がどんどん前のめりになって、いつの間にか自分が本の中にいる様な心持ちになっていった。
気がついたら私は舞台の上に立ち、リコーダーに「言葉では表現出来ない感情」を籠めていた。それは音に変わって観客の心に浸透していく。
舞台の上はサウナよりも更に熱くなって、
これがロックだ!音楽だ!これが偉大なる青春だ!!
と、誰もが爆発する感情を全て、音にぶつけていた。
私は感極まって、リコーダーを空に伸ばしながら飛んだ。それはそれは、高く飛んだ。まるで、漫画の様に。
数秒間、空を舞った後、陸に足が触れると私は大粒の涙を流しながらシャウトしていた。
その手にはリコーダーが強く握りしめられていた。
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