【ノンネイティブの流儀10】【接続詞 AS を「透明な接着剤」と捉える】【役割を決めつけないのが肝要】
【写真】ニューカレドニアにて(撮影・飯竹恒一)
生の英語ニュースを読み進めながら、接続詞 AS で戸惑うことはありませんか? AS で始まる節が「時」を表しているのか、「理由」なのか、はたまた「~につれて」や「比較」なのか。決め手がないまま立ち往生した末、釈然としないまま読み進めた経験はないでしょうか?
その悩みに対する私のアドバイスはシンプルです。「接続詞 AS の役割を、無理に決めつけない方が良い」というものです。
悩ましいのは、次のような例です。
For two years, Britain had been battling alone against Hitler’s Germany as Churchill did all he could to bring America into the war.
この文の前半のメーンの部分は「2年にわたり、英国はヒトラー率いるドイツに対し孤軍奮闘していた」で、後半の AS で始まる節(AS節)は「チャーチル首相は米国を戦争に引き込もうと全力を尽くした」となります。
問題はこの文の書き手が、メーンの部分とAS節とを、どのように関連づけようとしていたかです。
接続詞の AS は辞書を引くと、⑴時 ⑵比例 ⑶様態 ⑷理由 ⑸比較 ⑹譲歩などの役割があります。この文にそれをあてはめてみると、AS節は
⑴「… と全力を尽くした時」(時)
⑵「… と全力を尽くすにつれて」(比例)
⑶「… と全力を尽くしながら」(様態)
⑷「… と全力を尽くしたので」(理由)
⑸「… と全力を尽くしたのと同様」(比較)
⑹「… と全力を尽くしたのに」(譲歩)
といった具合いなります。
「理由」「比較」は文脈上、当てはまらないとして、逆に残りの「時」「比例」「様態」「譲歩」はどうかというと、なかなか微妙だと思います。
つまり、そのどれかが決定的に正しいと言い切れないけれども、かといってどれも完全に排除できない。しいて言えば、それらが微妙にブレンドしている印象です。
ここで考えるべきは、なぜこの文の書き手が AS を選択したかです。
「2年にわたり、英国はヒトラー率いるドイツに対し孤軍奮闘していた」という史実と、「チャーチル首相は米国を戦争に引き込もうと全力を尽くした」という史実があって、その両方に言及する場合、それぞれを独立させて2文で並べることも可能です。しかし、それだと文章がリズミカルに流れない。かといって、例えば BECAUSE といった接続詞を使って両者を強引に「因果関係」で結びたくもない。
そこで、色々な解釈が可能でつかみどころのない接続詞 AS をかませることで、二つの並行したデータをゆるやかに関係づけながら一文に収めた、と考えることができます。
つまり、ニュースではしばしば、情景描写や背景説明をスマートにつなげるのに、差しさわりのない「透明な接着剤」のように接続詞 AS が登場するということです。むしろ、付帯状況と考えた方が良いかもしれません。その場合の訳語としては、「~のさなか」「~の中で」といった表現が無難ですが、状況に応じて辞書の定義に従う解釈が可能ならば、そうした踏み込んだ理解をすれば良いし、必要に応じてそうした和訳をすれば良いでしょう。
言い換えれば、接続詞 AS は、ゆるやかに時間的に結ばれた関係をそれとなく演出する役割と見る習慣をつけるべきで、辞書から無理に役割を選んであてはめようとすると、逆に理解を妨げるので要注意です。
よって、冒頭の英文の訳例は次のようになります。前半と後半の事実関係を、それとなく関連付けながら並べるということになります。
For two years, Britain had been battling alone against Hitler’s Germany as Churchill did all he could to bring America into the war.
2年にわたり、英国はヒトラー率いるドイツに対し孤軍奮闘していて、チャーチル首相は米国を戦争に引き込もうと全力を尽くした。
他の文例とその訳例は通りです。
As business leaders in Japan face greater pressure to raise wages in an inflationary environment, they are becoming more vocal about the need to pay employees based on merit.
日本のビジネスリーダーたちの間では、インフレ環境のもとで賃上げ圧力が強まる中、成果主義で従業員に賃金を支払うべきだという意見が勢いを増している。
Japan’s low birthrate and ageing population pose an urgent risk to society, the country’s prime minister, Fumio Kishida, has said, as he pledged to address the issue by establishing a new government agency.
岸田文雄首相は少子高齢化は社会のリスクとなる緊急事態だと述べ、この問題に新しい政府機関の設立で対処する方針を表明した。
こうした 接続詞 AS は、特にニュースのリード(導入部)で登場することが多いです。なぜなら記者は、そこでなるべく色々な要素をバランスよく取り込み、ニュースの全体像のイメージ喚起を図ろうとするからです。
こうして 接続詞 AS の煩わしさから解放されれば、ニュースの読解もスムーズになるでしょう。そしてさらに、こうした接続詞 AS を積極的に使った英文ライティングに、ご自分でも挑戦してみると良いでしょう。
(主宰講師・飯竹恒一)
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