【借りものたちのメッセージ】第6編　『新しいフリで』　(No.0251)

2023年2月11日 00:58

　曲を歌い終えたギンは足元のドリンクをグビリと飲んだ。
缶を傾け口に流し込みながら目線を周りに泳がす。
周りは誰も立ち止まって歌を聴いていない。
まあ、いつものことである。
だが、周りに立ち止まるものはいないが、そのさらに外側にはさっきと違って
立ち止まるものが数名見える。

止まってスマホをいじるもの。
止まって私と同じように缶のドリンクを飲む者もいる。
そして何よりも例の牛丼屋の前に伸びるムカデ男たち。

連中の顔がこちらに向けられている。

うん、わるくない。
よし、このまま行こうか。
ギンは缶を置き、ギターをかき鳴らした。

ｼﾞｬﾗﾗﾗｧﾝ

えー、みんな忘れちゃいましたね　　ｼﾞｬﾝｼﾞｬﾝ
何年も前のことなんかもう知らね、ってな感じでしょうか
まあ仕方ありません、そんなこともありますよ　ええ
色々ありますからね　まあそういうもんです
時代の移り変わりっていうものがあります

とりわけ今はとっても早い　とにかくなんでもサッサと進んでしまいますね
私なんかも　もうこの歳ですから　全然ついて行けません
そういうもんです　ええ

でもね
いくら時代だ何だと言ったってね、変わらないものもあるもんです
いくら変化だどうだと言ったってね、変えちゃならないものあります
それはそうですね、誰が何と言おうともそういうもんです
ええ　ｼﾞｬﾝｼﾞｬﾝ

この国は季節がコロコロと変わりますね、まあ忙しいもんです
最近じゃあ毎月のように何がしかのイベントがあって、その都度スーパーやら
店先に季節ごとの食べ物が並んだりしますね
食べ物には「旬」てものがありますから別に不思議ではないんですが
それにしてもコロコロと変わります

何だかそうなるとご飯一つ食べるのにも落ち着きゃしません
急かされてるみたいで何だか疲れますね
身体の健康を考えて食べ物を選ぼうとしたって、こうセカセカしちゃ
かえって健康に悪そうです
やれ新商品だ、やれ新フレーバーだ、やれ新色だ、やれ流行りだ新生活だって

ペースってもんがありますからね
それは一人一人違うんですから、好みだって違うし
合う合わないってもんがありますね　ｼﾞｬﾝｼﾞｬﾝ

そういう一人一人の気持ちってもんがね、どうにも蔑ろにされて
勝手にこさえられたペースにですね、こう無理矢理に乗せられてしまうようなね、
そんな強引な感じがするんですよ、ええ

何だかね、どんぶり勘定ってか、十把一絡げって感じがして、何だかとっても
嫌ですねぇ