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SF短編小説 「アドリア海のタコ」


アドリア海のアンコーナの広がる青と緑の海の中、チョビ髭をたくわえ、紫色の柔らかい肌を持つタコ、ポルゥーポは毎日をのんびりと過ごしていました。彼の心の中には、ずっと遠くの太平洋、特に東京湾への憧れが宿っていました。彼が東京湾に強く憧れていたのには、特別な理由がありました。

それは、アドリア海の住民たちの間には、遠く離れた東京湾についての興味深い噂が流れていたのです。それは、東京湾は、進んでいる大都市なのに海が汚れているというものだった。この噂を聞く度に、ポルゥーポは不思議な興味を持った。

彼にとって、汚れた海というものは想像もつかない存在で、どんな風に進んでいる都市と海が共存しているのか、実際に目で見て感じたいと思っていました。そのため、ポルゥーポは東京湾を訪れることで、自分の知らない世界やアドリア海での生活に新しい意味を見つけることができるのではないかと期待していました。

そして、ある晴れた穏やかな日、アンコーナ港は何やら騒がしくなっていました。水面の反射で太陽の光がきらきらと輝きにあふれていた。何だろうと好奇心に駆られたポルゥーポがニュースの海藻紙をチェックすると、驚くべきニュースが飛び込んできました。

東京湾からの観光客、タコのタコさんが、巨大で美しいザトウクジラに乗ってやってきたとのこと。その瞬間、ポルゥーポの瞳は夢見るようにキラキラと輝き、8本の足がウネウネと動きはじめました。

「これは僕の夢に一歩近づけるチャンスだ!」と叫びながら、ポルゥーポは決意を持って、タコさんに会いに行くべく、水中の都市から港へ墨を吐きながら元気よく泳ぎ出しました。

港に足を踏み入れると、水面が大きく揺れる中、雄大なザトウクジラが力強く泳いでいました。その背中には、オレンジ色の足をくるくると広げて、風を受けて景色を楽しむタコのタコさんが居心地よさそうに座っていました。

ポルゥーポの心臓はドキドキと高鳴り、彼の中に溢れる興奮と期待が一気に爆発した。

「タコさん!」と声を張り上げました。

「僕はポルゥーポ。東京湾って、どんなところなんですか!?」

タコさんがゆっくりとザトウクジラから滑り降りてきて、ポルゥーポの方へと近寄ってきました。ポルゥーポは少し緊張しながらも、目の前に迫るタコさんの姿に見入っていました。

「タコさん、東京湾について聞きたいんだけど、東京湾が本当に汚れているっていう話は本当なの?」ポルゥーポは真剣な眼差しで問いかけました。

タコさんは少し考え込みながら、「うーん、東京湾は進んでいる街の海だから、時々汚れることもあるよ。でも、それが逆に東京湾の魅力とも言えるんだ。人々の生活と海が密接に結びついている証拠だからね」と優しく説明しました。

ポルゥーポの目には冒険の光が宿っていました。
「タコさん、観光の最後に、僕も東京湾まで連れてってもらえませんか?」彼は顔を赤くして少し恥ずかしそうに、しかし確かな意志を持ってその願いを伝えました。

タコさんはポルゥーポの真剣な瞳を見つめ、しばらく言葉を失っていました。出会ってからの短い時間で、この地元のタコがこんな大きなお願いをするとは思ってもみませんでした。

「ポルゥーポ...」タコさんは少し考え込みました。

「君の気持ち、よくわかるよ。でも、こんなに急なお願いに答えるのは難しい」

彼は深く息を吸い込み、続けました。

「帰る日まで、ちょっと待ってもらえるかな?それまでにどうするか、考えさせて欲しいんだ」

ポルゥーポの目には少しのがっかりが浮かんだが、彼は頷きました。

「分かりました、タコさん。待ってますからね!」

数日後。

アドリア海アンコーナの海が金色の夕日に染まり始める中、タコさんはザトウクジラの背に戻っていました。彼はこの数日間でアンコーナの美しい海底やカラフルな魚たちとの出会いを楽しんでいました。その一方で、アンコーナの海の透明感や豊かな生態系が、都会の東京湾とはまた違った美しさを持っていることを実感していました。

ポルゥーポは、タコさんの表情からその満足感を感じ取り、ゆらゆらと足が動いていました。
「アンコーナの海を気に入ってくれたみたいですね」と彼はちょっと得意げに言いました。

タコさんは笑顔で「そうだよ。君の故郷は本当に魅力的な場所だね」と答えました。
そして、深呼吸をして、「さて、初日の話だけど、君を東京湾へ連れて行ってあげるよ。ただ、覚えておいて。君の故郷のこの美しさを忘れないでね」と柔らかな声で言いました。

ポルゥーポの目がキラキラと輝き始めました。彼の足がピクピクと動き出し、瞳は涙ぐんでいました。
「本当に!? タコさん、ありがとう!」と声を震わせながら叫びました。そして、水中をくるくると回転するようにして、水泡をたくさん放って舞い上がるように泳ぎ出しました。

そして、アドリア海の星空の下、ザトウクジラはゆっくりと海面を滑るように動き出しました。ポルゥーポはわくわくしながらタコさんの横に立ち、遠くの東京湾への旅路を想像していました。

しかし、その心の中には、アドリア海アンコーナの海への愛情が深く刻まれていました。






時間を割いてくれて、ありがとうございました。

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