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恋愛短編小説 「社長と僕」


長い一日が終わり、僕、ミナモは椅子に沈み込んだ。疲労感が全身を包み込み、瞼は自然と閉じた。しかし、目を閉じても、頭の中には仕事の山が積み上がっていく。僕は悲しみに身を任せることなく、深呼吸をし、自分を奮い立たせようとした。

「ミナモ君、大丈夫?」突然、心地良い声が耳に入ってきた。

目を開けると、僕の前にはユキノ社長が立っていた。彼女の美しい顔は心配そうな表情を浮かべていた。

「はい、大丈夫です…ただ少し疲れただけです」僕は強く頷き、彼女に向かって微笑みかけた。彼女はほっとしたような表情を浮かべ、ゆっくりと僕のデスクを離れて行った。

彼女が立ち去る、その後ろ姿に思わず目を奪われた。彼女のスーツ姿はいつもと変わらず、いつものように締まった雰囲気を纏っていた。それでも、今は何故かその姿が僕の心を揺さぶった。彼女がドアを閉めてからも、僕の視線はずっとそのドアに向けられていた。

その日から、僕の中で何かが変わった。それまでの無気力や絶望感が消え、新たな希望が心の中に灯った。僕は自分自身を見つめ直し、変わることを決心した。僕はユキノ社長と付き合う決心を固めた。そのためにはまず、自分自身を変えなければならないと思った。

そんな思いを胸に秘めて、僕は新たな一日を迎えた。その日から僕は、毎日の生活に小さな変化を加え始めた。朝のランニング、健康的な朝食、そして仕事でもミスを減らすために徹底的にチェックを行うようにした。これらはすべて、ユキノ社長と近づくための一歩だった。

数週間後、僕の努力は少しずつ実を結び始めたある日、社長室から呼び出された。

僕が社長室に足を踏み入れると、夕方のオレンジ色の光が窓ガラスに反射し、社長室全体を柔らかく照らしていた。その中でユキノ社長は窓際に立っていて、僕を見つめていた。

「ミナモ君、最近、変わったね」彼女の声は普段よりも柔らかく、心地よい響きを持っていた。

「そうですか?」僕は彼女の視線をしっかりと受け止めながら、尋ねた。

「うん、何か…違う。以前よりも活気があるし、何よりも仕事がきちんとできている」と彼女が言った時、僕の心は跳ね上がった。

表情には出さず、微笑んだ。「まあ、ただ、頑張ってるだけですから」

彼女が笑顔で頷き、視線を街に戻したとき、僕は何か重要な一歩を踏み出したような気がした。僕の変化を彼女が認めてくれたその一瞬は、今までの努力が報われたと感じさせてくれた。

帰ろうとした社長室のドアの前で、僕は深呼吸をした。それが勇気をくれた。それから、僕は再び息を吹き返し、振り向いて言った。

「ユキノ社長、僕と一緒に食事でもどうですか?」僕は震える声で尋ねた。

彼女は少し驚いたような顔をした。でも、その驚きはすぐに優しさへと変わった。社長室に浮かんだその微笑みは、僕の心に深く刻まれた。

「いいわよ、ミナモ君」と彼女が答えると、僕の心は浮き立った。あの日の僕の一歩が、僕たちの新たな関係の始まりとなった瞬間だった。




時間を割いてくれて、ありがとうございました。

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