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短編小説 「本屋のレジ打ち」


「いらっしゃいませ」と私はいつものように温かい笑顔でお客様を迎え入れる。この小さな本屋でレジのアルバイトをしている私にとって、一日一日は新しい発見と、お客様一人ひとりの背後にある物語を想像する楽しい時間だ。

午後、一人の中年の男性がレジに並んだ。彼の手には「株式投資入門」のタイトルが並んだ本が三冊も。じっくりと選んだ末の選択なのか。彼がそれらをレジに持ってくると、私は内心で小さな物語を紡ぎ始める。

「この人、一体どんな思いで株式投資に手を出そうとしているんだろう。ただ単に収入を増やしたいのか、それとももっと大きな夢があるのかな?安定した収入を求めてのことか、それともリスクを恐れずに大きな飛躍を夢見ているのか。不労所得でゆったりとした生活を望んでいるのか、あるいは、この不確実な時代に対する、一つの挑戦なのかな?」

私はレジを打ちながら、そっと彼の表情をうかがう。真剣な眼差しは、これからの挑戦に対する決意のようにも見える。もしかしたら、彼にとっての株式投資は、ただの金銭的な目標ではなく、人生の新たな章を開く一歩なのかもしれない。

そんな風にお客様の持つ本一冊一冊から、その人の生きざまや夢、時には秘めた悩みまでを想像するのは、このアルバイトの何気ないけれど、とても特別な喜びなのだ。

それから数時間後、店内は静かな読書の時間に包まれていた。そんな中、一人の若い女性が静かに足音を響かせながら、一冊の本を手に取りレジに向かってきた。それは、華やかな表紙が目を引く、受賞が決まったばかりの小説だった。

「この本、美しくて重厚な話なんだろうな。きっと、今は読むタイミングじゃないけど、いつか読むその瞬間を夢見ているんだ」私はそんな想いを馳せながら、彼女の購入を手伝う。それは、ただの積読ではなく、将来の自分への約束のようなものかもしれない。

日が暮れかけた頃、再び足音が聞こえてきた。今度は一人の男性が「片付けの魔法」みたいな本を数冊、抱えてレジへと進んでくる。

「片付けについて学ぶのは第一歩だよね。でも、大切なのはその知識を実践に移すこと。きっと多くの人が、読むことで満足してしまうんだろうな。だけど、この本が彼にとって、部屋を新たな気持ちで整えるきっかけになればいいな」そんな願いを込めて、私は彼の購入を手伝った。

一日の終わりに、この小さな本屋でのアルバイトは私にとって、ただの仕事以上の意味を持っている。お客様が選ぶ一冊一冊の本を通じて、彼らの生活や心情、時には夢や悩みを垣間見ることができる。それは、知らない誰かの人生の一部に、ほんの少しでも触れることができる、かけがえのない体験なのだ。

「いらっしゃいませ、次のお客様どうぞ」





時間を割いてくれてありがとうございました。

本屋で買う納豆味のうまい棒が好きです😊
なぜか納豆味は本屋でしか見かけないんですよね。

みなさんの好きなうまい棒はなんですか?教えてください🙇

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