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短編小説 「夢の中のウサギ」2


起き上がった私は、ベッドからゆっくりと立ち上がり、足を床につけた。身体はまだ夢の余韻に包まれているような感覚があったが、私は部屋を横切り洗面所へ向かった。洗面台の鏡に映る自分の姿は、まだ少し眠そうで、夢から覚めたばかりの顔だった。蛇口をひねると、冷たい水がサーッと流れ出した。手の平で水をすくって顔に向けてゆっくりと水をかけた。

夢の中のウサギのことが頭から離れず、ウサギはなんだったのかと考えながら顔を洗った。

水を手のひらですくい、顔に向けて静かに水をかける。その冷たさが私の頬を撫でるたび、夢の中でウサギがした不思議な質問が思い起こされた。

「なにゆえに私の世界にいるのだ?」というウサギの言葉。

水を顔に何度もかける間も、私の頭はその夢とウサギの言葉の意味をめぐって彷徨っていた。夢の中のウサギは、現実の私に何かを伝えようとしているのか、それとも単なる夢の産物なのか。洗面所の鏡に映る私の目は、まだ少し迷いを含んでいた。

顔を洗い終えてタオルで水滴を拭い取りながら、私は夢の中のウサギに思いを馳せた。その不思議な出会いに、心のどこかで惹かれていた。もう一度、あの夢を見たいという願望が心の中で強くなっていった。

そんな思いを抱えながら、私は再びベッドに向かった。ベッドに横になり、毛布にくるまって枕に頭を沈め、あの不思議なウサギの世界へと戻れることを願いながら、静かに眠りについた。

周りの静けさと、ベッドの温かさが、私を再び夢の深淵へと誘い込んでいく。意識は徐々に遠のき、再びあの奇妙な夢の世界へと落ちていった。

再び夢の世界に入ると、今度はすこし異なる光景が私の目の前に広がっていた。野球帽を被った茶色い毛のウサギと一緒に、小さなテーブルを囲んでいた。ウサギは人間のように椅子に座り、リラックスした様子で野球帽を少し斜めにかぶっていた。

私たちは何も言わずに、ただ静かにテーブルに並べられた鶏肉のソテーや赤ワインを眺めていた。ウサギはときどき私を見ては微笑み、何か話しかけようとするかのようなそぶりを見せる。

この夢の世界は、前回のウサギとの出会いとは全く異なり、もっと穏やかで親しみやすい雰囲気があった。

すると、ウサギが口を開いて話し始めた。

「僕は内野の上の方から野球を観るのが好きなんだが、君はどこから観るのが好きかな?」彼の質問は友好的で、興味を持って私に向けられていた。

「野球はテレビでしか観たことないです」と答えた。

私の言葉は簡潔だったが、ウサギはそれを聞いて優しく微笑んだ。

ウサギはマウンド柄のナプキンで口を拭いた後、イスから降りた。彼は私に向かって手を差し伸べ「こちらへ」と言った。その手は温かく、夢の中のこの不思議な出会いに更なる期待を抱かせた。

ウサギの案内で、私たちはテーブルを離れ、丘へと進んでいった。彼の手の温もりが、この夢の世界での安心感を増していた。




時間を割いてくれて、ありがとうございました。
月へ行きます。

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