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SF短編小説 「火星タコの友達」


火星の砂漠を、オックンは自らの長い触手を使ってゆっくりと、慎重に這い回っていた。周りの赤い砂と彼の体の色はほとんど変わらないため、彼が動く姿は、まるで砂漠自体が生きているかのように見えた。他の生命体と遭遇することはほとんどなく、もし遭遇してもオックンはただ静かにその場を離れていった。

彼は常にひとりでいることを好み、その静かな時間を使って、自分の寝床にするのにちょうどよい柔らかさの岩を探すのに没頭していた。彼が岩を探す姿はまるで宝探しをしている子供のように、岩を一つ一つ丁寧に触っては、その質感を確かめ、柔らかさを試していた。ほとんどの岩は彼の基準に合わず、そっと元の場所に戻すが、時には小さな喜びを見つけることもあった。

その日も、オックンは岩を求めて砂漠を這っていた。ふと目を上げると、遠くに不思議な点滅を見つけた。「あれは一体何だろう?」とつぶやいた。一歩一歩、彼はその不思議な光へ近づいていった。砂を蹴散らしながら、息を切らして、触手は震えていた。そして、ついに光の源泉へ到達した瞬間、オックンは息を呑んだ。

目の前には、彼がこれまで想像もしなかった複雑な形をした機械が静かにそびえ立っていた。それは地球から送られた火星探査機で、オックンはその複雑な形に一時も動かずに立ち尽くしていた。探査機が火星の荒野で働く姿を、オックンは間近で観察していた。器具が伸び縮みし、岩や土をひっかき集めるたびに、彼の目は輝いた。

好奇心が彼をそこに縛りつけ、太陽が地平線に沈むまで、彼はその場を離れようとしなかった。オックンには、この機械が何を目指しているのか、なぜこの赤い惑星に来たのか考えていた。しかし、何か大きな計画の一部であることだけは、彼の直感が教えていた。

次の日も、オックンは引き寄せられるように探査機のもとへ戻ってきた。彼は慎重にその周りをうろつき、探査機がどのように動いているのかを学ぼうとしていた。探査機が一つ一つの岩を丁寧に採取するのを見ているうちに、彼はふと、自分も同じように岩を探していることに気づいた。その瞬間、オックンは自分と探査機との間に、奇妙な共通点に親近感を覚えはじめた。探査機の間には、もしかすると共通の目的があるのではないかと、オックンは思いを巡らせた。

日が落ち、火星の空が星々で満たされるたび、オックンは探査機の側で時間を過ごすようになった。彼はその機械の動きをじっくり観察し、その存在に徐々に慣れ、最終的には、地球からの遥かな訪問者を新しい友と見なすようになった。

しかし、ある日のこと、探査機が突然、静まり返った。オックンはその場に立ち尽くし、何が起きたのかを理解しようとしたが、探査機が静止したままであることだけが彼には明らかだった。彼は何時間も動かずにそこに座り、何かが変わるのを待ったが、探査機はピクリともしなかった。

その日、オックンは探査機の側に自分の寝床を設け、そこで夜を過ごすようになった。だが、長い間じっとして、何かが変わるのを待ったが、探査機は再び動くことはなかった。

そして夜空に輝く星々を眺めるたび、彼は地球という遠い星を思い浮かべ、いつか自分の存在が誰かに認識されることを夢見た。





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