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#文学フリマ東京

【わたしのお肉、食べる?】ここは薄昏いから【百合新刊試し読み】

【わたしのお肉、食べる?】ここは薄昏いから【百合新刊試し読み】

 〝正しい〟は、いつも私を安心させてくれる。
 背筋を伸ばして座ること。宿題はきちんとやってくること。約束を守ること。困っている人がいたら、手を差し伸べること。そういった教えに従っていると、私は〝いい子〟なんだと思えて安心できる。価値があるんだって、自分を認めることができる。あの人とは違って、私は間違ったことはしない。お母さんに心配をかけたくないから。

「ほら、食べなよ」

 だから、私は今こう

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【眷属にしていいよ】ストロベリーフィールド【BL新刊試し読み】

【眷属にしていいよ】ストロベリーフィールド【BL新刊試し読み】

 冷蔵庫の中の血液パックは、とうに尽き果てていた。
 おれはと言うと、馬乗りになっておれを見下ろす男の、月明かりに照らされた青白い頬を見ている。直毛の黒髪が闇夜にきらめいて、時折銀色のようにも見えた。おれを押さえつけるか細い腕はわずかに震えていて、少し長い前髪の隙間からのぞく黒い瞳は、怯えを帯びながらも、時折懸命に瞬いてこちらを見つめている。

「眷属にしていいよ」

 震える唇が、小さく言葉を紡

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【新刊ためしよみ】しゃーでんふろりで【悪魔ロリと死にかけ作家の百合】

【新刊ためしよみ】しゃーでんふろりで【悪魔ロリと死にかけ作家の百合】

 いちばんやさしい地獄にいこうね。
 私が小指を差し出すと、天使みたいな顔した少女が、悪魔みたいに微笑んだ。

 少女が私の元へやってきたのは、死のにおいがしたかららしい。
 「それって、クサいってこと?」と尋ねると、「そういうことじゃないんですよね」とぴしゃりと跳ね返された。

「死が近づいた人間からは、熟れた果実のような香りがしますから」

 ソーダ味のアイスキャンディーを小さな舌でチロチロと

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【新刊試し読み】トレモロ・イド

【新刊試し読み】トレモロ・イド

11月23日(火祝)に開催される第33回文学フリマ東京にて頒布予定の新刊「ちかくてとおい」に寄稿した短編「トレモロ・イド」の冒頭試し読みです。

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 あの子の髪を結ってみたかった。
 教室の窓側、一番後ろ。秋風が通り過ぎて、俯いた彼女の白い頬をカーテンがそっと包んだ。黒檀の髪をかき上げて、シャープペンシルをしきりにノートに走らせている。
 校則をきっちり守った膝下のスカート丈

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【新刊試し読み】宇宙猫はラーメンの夢を見る

【新刊試し読み】宇宙猫はラーメンの夢を見る

11月23日(火祝)に開催される第33回文学フリマ東京にて頒布予定の新刊「ちかくてとおい」に寄稿した短編「宇宙猫はラーメンの夢を見る」の冒頭試し読みです。

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「それでは祈りましょう。ニャーメン」
 それはもうアーメンなんよ、と心の中で突っ込みを入れながらもラーメンをすする。湯気で眼鏡が曇るので、一旦外してTシャツの裾でレンズを拭って、再びかけ直す。
 目の前のモニタには、9

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