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〈月食〉

大山を
背景にして
焼き付けられた

銀色の
すすきの群落
の上に

橙(だいだい)のような月が
ゆっくりと昇ってくる

遮るもののない
西の空を

何故か
のほほんと
完結した球体として

その姿が
わたしときみの
空にある限り

一晩また一晩の
孤独な弧を描く

その運命(さだめ)を

憂うこともなく
嘆くこともない

おお
見よ

向こう側から
覗く
非情な目に

裸身の
年増の影のような

われらの神の
艶姿が

くっきりと
映っている

午前3時
を過ぎて
眠れない

すべての 
恋人たちの

白い
きなりの

柔らかな
その足裏を

温めたい
頬擦りしたい

野兎のような
奔放な性に
目覚め

銀河の
ほとりに
自生する

金属的に
輝く
すすきの
群落を

跳ね越え

いま
まさに
欠けていく

あの月まで

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