現代詩

〈虚構について〉

どこかの
知らない
だれかのために
生きるということが
可能なのは
人間の文化の
厚みゆえだ

だがAのために
あるいは
Bのために
生きると
もしくは
生きられると
決意するためには

短くはない
熟慮
がいる

着せて
着せられ

食べさせ
食べさせられ

心地よく
住まわせ
住まわせられる

生み
生ませて

育て
ときに
育てられる

具体的な
生涯

ああ
一切が
過ぎていく


謳った

敬愛する
詩人Dの

大いなる
美しい
嘘に
酔う


この
人生の
卑小な
秘密を
口にしない
ことが

せめてもの

われわれの
巧まざる
抵抗なのだ


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