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快復するための処方箋

向かいの敷地で精一杯咲いていたひまわりが枯れて、こうべを垂れている。

それを見て、ひとつの短歌が浮かぶ。
笹井宏之さんの一首。


ひまわりの死んでいるのを抱きおこす
季節をひとつ弔うように

『えーえんとくちから』より


季節をひとつ弔う、という言葉が好き。
静かで、ああ夏も終わるんだと思う。
その途端、枯れてるだけのひまわりが季節を弔うように見えて、もうそうとしか思えなくなる。



最近読んだ本は3冊。
ひとつめはハートに関する本。


ハートという図像をさまざまな観点から考察した一冊。とくに文学との繋がりが面白かった。
中世から、愛する人に心臓を捧げる物語はあったこと。心臓だけ別に埋葬する文化も。
ハプスブルク家の心臓やショパンの心臓も教会に収められているらしい。(知らなかった)

『オズの魔法使い』に登場するライオンや、ブリキの木こりも心臓(勇気と愛) を取り戻したいと思っていたり、『不思議の国のアリス』にもハートの女王が出てきたり…

一番面白かったのは、魂をもたない水の精霊「ウンディーネ」が人間に愛されて魂を得るはなし。アンデルセンの『人魚姫』は、これにもとづいて創作されたらしい。
『人魚姫』のもとになる物語があったなんて!
人魚姫は、ディズニー映画のリトル・マーメイド(アリエル)が有名だけど、その大元に「愛する人に心臓を捧げる」古典の変遷があったとは。
心臓が愛と同一視されていたからこそ、ハートの形は生まれたのかも。


2冊めは、『こころの処方箋』



手元にあるのは単行本で、なんと70刷の本。
臨床心理学を専門とする著者の、心にまつわるはなし。どれも興味深く読めた。
人の心がいかにわからないかや、心の鉱脈について。章題だけでも読みごたえがある。
「昔はよかった」とは進歩についてゆけぬ人の言葉である、とか。なるほど…
固まりがちな思考や無意識な決めつけを解きほぐして、新たな視座を得られそう。

3冊めは小説。


本屋大賞候補になったときから気になっていた。
表紙のカバさんが可愛い。
触った部分を治してくれる伝説をもつアニマルライド、リカバリー・カバヒコの物語。

近隣のマンションの住人がその伝説を聞きつけて、いろんな箇所を治しにやってくる。
頭や口、耳や足。
最後に、どうやってカバヒコの伝説が生まれたかが明らかになる。

快復する過程もだけど、伝説の由来も素敵だった。
短編集のようでもあって、読みやすいから一気に読めてしまう。小学生の男の子から50代の大人まで、いろんな世代が登場するのもよかった。


8月も下旬に差しかかって、夏の疲れがでてくる頃だと思う。
快復するための処方箋に、読んだり書いたりしていきたい。



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