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春のうたを口ずさんで。

その足音は、突然聞こえてくる。

少し前まで、まだ暖房を入れなくちゃ耐えられないほどだったのに。

どこもかしこも桜を連想させる商品ばかりが並ぶ。

あぁ、もうすぐ春だ。

街がピンク色に染まりつつある今日この頃。
僕は昨日見た夢を思い出していた。

母に手を引かれて歩いた、小学校までの桜の道。懐かしい。そういえば、隣に住んでた幼馴染は東の都へ行ったそうな。いつも一緒に学校に通ってたよなぁ。

その桜の道の中には、街のみんなが大切にしていた1番大きな桜の木があった。僕も大好きだったし、毎年写真を撮っては、SNSにあげていた。でも、3年前原因不明の火災によって焼けてしまい、時が止まったように黒く染まった桜がとても痛ましかった。そして、その次の年には、道路を広げる工事を理由に切られてしまった。

広くなった道を通るたびに思い出してしまうのに、あの桜を思い出すのは周りでは僕くらいだ。

春には満開の桜を咲かせ、夏には緑の爽やかな葉をつけて実をつける。そのあと、少し赤みを帯びた葉が落ち始めて秋に気づき、完全に何もなくなった枝を見ると冬が来たと思う。

あの桜を見るたびに季節を感じていたのに、僕の刻も桜と同じように止まってしまったようだ。

どうして。どうして。

なんだかシコリが取れないような、少し不快で複雑な感情と、この切なくも淡い季節の足音に、なんと名前をつけようか。

そうだ、君の名前は"春のうた"。

誰かには愛を囁き、また誰かには喜びを運んで。そして人々の別れと出会いを見守る。それは天使ようで悪魔のような淡く柔らかい姿で。

街を桃色に染めながら、明日はどこへ春を告げに行くのだろう。

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