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子供に魔法をかけられて。


0.プロローグ

「ばいばーい」満面の笑みとともに手を振る彼女。
思い出すたび、しあわせの魔法にかけられたような気持ちになる。

子供って好き?
私には分からなかった。
甥っ子や姪っ子はいるものの、ほとんど会うことがなかった。
他に子供に接する機会なんてないし、日常において見かけたところで特別な感情もない。それはただ経験がないからなのかもしれないけれど。

会社の先輩には双子の子供がいる。二人とも女の子。そして先輩はひとり親。
ただでさえ大変なのに、なぜか多くの試練が訪れる。例えば子供がもらってきた病気が家族みんなにうつったり、子供が大怪我で松葉杖をついたり。
試練が訪れると、どうしても仕事に影響してしまう。
「仕事と家庭を両立なんて無理」
そう言ってしまえば楽だけど、絶対に言わないし諦めない人だった。

1.先輩からの依頼

ある時、そんな先輩からの依頼で、子供たちの遊び相手になることになった。
先輩は最近引越し、退去手続きのために住んでいた物件で立ち会いをする必要があった。その手続きには1時間以上かかるため、子供を連れて行くとぐずってしまう。両親もどうしても都合がつかないこともあり、私に声がかかった。

先にも書いた通り、子供は双子の8歳の女の子たち。私とは3年前に初めて会い、去年も所用で会社に連れてきた時に、少しお話ししたりした。
そして今回が3回目。
私のことを彼女たちが覚えているか分からないけれど、私にはそれぞれの個性が印象的だった。仮に上の子を「まおちゃん」、下の子を「みくちゃん」としておく。
前回の印象では、まおちゃんはしっかりもの。お絵描きをして遊んだとき、「これかける?」とミッキーの絵を見せると、忠実にその絵を書いていた。一方のみくちゃんは最初はそれっぽく書いていたものの、途中からアレンジが加わり自らの世界観を存分に発揮した作品に仕上げていた。
コミュニケーション面では、みくちゃんは人見知りをするようなところはなく、物おじしない性格。
一方のまおちゃんはあまり目を合わせてくれず、人見知りなのかコミュニケーションが少し取りづらい印象だった。(後日先輩からまおちゃんが「少し緊張した」と言っていたことを教えてくれた)

あれから1年弱。それぞれどのように成長しているか楽しみだった。

2.子供たちとのコミュニケーションの取り方

先に述べたように、私は子供と遊ぶような機会はほとんどなかった。それゆえ、子供とのコミュニケーションの取り方がわからない。そのため色々な想像を働かせ、自分なりにどのように接すれば良いのかを考え準備した。
その結果、子供たちとのコミュニケーションを取るにあたり、事前に自分に言い聞かせたのは次の4点。

1.大きな声で話す
普段の私の声は小さいと言われており、子供にしてみたら話しずらさが倍増する
不審な人・変な人・近寄りがたい人。そんな気持ちにさせてはいけない

2.感情やリアクションを大きく取る
普段は「すごーい」「上手だね」といった感情を声に出さなかったり、出しても小さかったりしてしまう。自分の心を開き、信頼してもらえるようにする

3.常に口角を上げる
表情は常に優しく、話しかけやすい雰囲気を出すために口角を常に挙げた表情を保つ。人はどうしても気を抜くと口角が下がってしまう。不機嫌そうな怖い表情は、子供にとっては近づきがたい人になってしまう。

4.全力で遊ぶ
とにかく子供は元気で、気を抜くと圧倒されてしまう。こちらも全力で応えて、全力で楽しい時間をつくる

なかでも「4.全力で遊ぶ」を最も大切にした。
プライベートで全力を出すことはスポーツをする時くらいで慣れていない。なのでとにかく自分の持てる力を出し切ることを意識した。
自分の殻を破る。
そうすればきっと仲良くなれて、きっと楽しい時間をつくることができるはず、きっと。

子供に不慣れながらも、こんなことを考えていた。

3.純度100%の楽しみ

とにかくその日が楽しみだった。2023年で最も楽しみにしていたイベントといっても過言ではないくらい。
どうしたら楽しんでくれるかなと色々と想像し、どうしたら喜んでくれるかなと考えて準備した。
日にちが近づくにつれて、その気持ちは増す一方。
私の場合、こういう時は多少なりとも不安がつきまとうものだけど、今回に限ってはそんなことは一切なし。
混じり気のない、純度100%の楽しみだった。

4.迎えたその日

やってきたその日はクリスマスイブだった。
いつもなら一人で過ごす、いつもと変わらない日常。世間のクリスマスムードを楽しみはするものの、行事に参加することはない。
子供の時に感じたサンタさんの不思議。
おもちゃ売り場で流れていた『ラストクリスマス』
今でも毎年のように頭の中で再生され、センチメンタルな感情に浸る。
飴のように甘く、溶けかけた雪だるまのように切ない思い出を回想する。

キーンと冷たい空気が張りつめた朝。冷たいけれど痛くはなく、むしろ心地いいくらい。
だって今日は楽しみにしていた日なんだから。
とっておきの真っ赤なクリスマスソックスを履いてるんだから。
モチベーションならサンタクロースに負けないんだから。

電車に乗って最寄り駅まで移動する。電車に乗っている最中は、「これから本当に会えるのだろうか」という感じで実感がわいてこなかった。そこでSNSで到着予定時刻を先輩に伝えると、駅まで迎えにきてくれると返信があった。
本当に本当なんだなと思った。

5.再会のとき

降りた駅は市内でも高級住宅街として有名な場所で、小高い場所にあり坂道も多い。休日の早朝ということもあり、車や人通りは少なく、駅前には小さなロータリーがあるくらいで落ち着いた印象。
まだ先輩は来ていないようなので、駅前をゆっくり散策しつつ到着を待った。

駅前には観光名所案内の看板が立っていたので眺めてみる。長年立っているため、ところどころ錆びていて読めなくなっている。しかしおおよそみた感じでは、神社仏閣がほとんどだった。気軽に散歩するような距離ではなく、しっかりと時間をとって回りたいようなものだった。

しばらくして遠くに先輩の姿を発見した。相変わらずおしゃれな先輩は、ロングコートを羽織っていて一目で分かってしまう。
先輩一人で迎えに来てくれると思っていたけれど、両手に小さな子供を連れていた。まおちゃんとみくちゃんだ。二人ともお揃いの装い。しかしその表情は少し強張っていて、先輩にすがるような感じがあった。「こんにちはー」と声をかけるも連れない感じがした。

2人は事前に私のことをなんて呼ぶのか決めているようで、「なんて呼ぶって決めたんだっけ?」とお母さんに質問されるもなかなか教えてくれない。そのうち自然と呼んでくれるのかなと思い、追求することはしなかった。

6.おしゃれな新居

自宅は駅からすぐそばだった。管理人さんが常駐していて安心で、さらに防犯上分かりにくい構造になっている。高級住宅街とあってさすがだった。
エレベーターを上がり、通路から外を見るといつくかの街のシンボルが見られた。建物自体が高い場所にあるため、雑踏や喧騒といったものとは無縁な環境だ。

家につき扉を開けて中に入るといい香りが漂ってきた。その香りは芳醇な赤ぶどうのよう。フランスの小さな村で、大きな木桶に入れられた、たくさんのもぎたての赤ぶどう。その赤ぶどうを2人の少女が、素足で足踏みしているときに漂うような芳香だった。
そんな戯言はさておき、実際それは赤ワインをイメージしたリードディフューザーだった。

少女たちは玄関から一斉に室内へと駆け出す。玄関には1足の小さなスリッパが残されていた。どうやらどちらかが履かずに行ってしまったらしい。すると先輩は「スリッパ忘れてるー」と声をかけるとみくちゃんが玄関に戻って履き直した。なんだか彼女らしくて微笑ましかった。

子供たちはリビングの3人掛けのソファーに座り、テレビをつける。慣れた手つきでお気に入りのアニメを選んで再生していた。70インチもあろうかという大きなテレビ。ちょっとしたシアタールームかと思うような大きさだ。

先輩の家は中古物件をオーダーでリノベーションしていて、至るところにこだわりがある。一番こだわりは、とにかくものを置かないこと。そのため一見して収納には見えない収納があちこちにある。
そして、置かなければいけない家電はデザイン性が高く、”魅せる家電”といったようだった。聞いたところ「ホテルのような家」をイメージしているということだった。
こういった家に住むことで、子供たちもそのセンスが自然と身につくのだろうと思う。

7.ママのお出掛け

子供たちがテレビを見ている間に、先輩は朝食の準備をする。彼女たちは起きて間もないようで、まだ朝食を食べていないらしい。お迎えの時の少しアンニュイな感じはこのせいもあったのかもしれない。
先輩はカプセルコーヒーをいれつつ、手際よく子供たちのパンを焼いたりして準備。朝食を終えると早々に、先輩は出かけて行った、ロボット掃除機をつけて。
この時、少し不安だったことがある。それは彼女たちが「ママ行かないで」などといったらどうしようかということだ。それはただお母さんが恋しいからというわけではなく、不審な人と家で過ごすのは怖いという感情が含まれているからだ。そうならないように、出会いからこの時間までの約30分間でマイナスに振らないよう、少しでもプラスの方向に振っておかなければならないと考えて話したりしていた。
結果として悪い方向には行かなかったようで胸をなでおろした。おそらく事前に先輩がちゃんと彼女たちにちゃんとお話ししてくれていたのだと思う。さすが先輩だと思った。
そんな私の不安などお構いなしに、ロボット掃除機にスリッパを載せて遊ぶ二人。二人ならなんでもへっちゃらか。不安なんて一掃され、笑ってしまった。

8.3人でいざマリオカート

先輩から事前にきいていたのは、二人は私と一緒にゲームをするつもりだということ。彼女たちは、スイッチが好きらしい。最近は「太鼓の達人」をよくやるみたいだけど、太鼓の達人は2人用だからということで、「マリオカート」にしてくれた。3人で楽しめるようにと選んでくれる優しさが嬉しい。

いざ始めると、持ち主だけあって彼女たちは上手。とくにまおちゃんはグランプリレース全てで1位をとる完全優勝。みくちゃんは、まおちゃんほどではなかったけど、やっぱり上手だった。
一方、私はニンテンドー64以来のマリオカートで、数十年ぶり。さすがに最初のグランプリレースではフラフラ走行していた。しかし、走るごとに感覚を取り戻していき「高速ドリフト走行」まで思い出した。
かつてのマリオカートグランプリレーサーである私は、高速ドリフトを駆使しで彼女たちをあと一歩というところまで追い詰めた。しかし逃げ切られてしまった。
オーマイグッドネス!

舞台はチームバトルへと移る。
チームバトルは3人で協力し合って、相手のチームを負かすゲーム。キャラクターには風船が3つついていて、こうらやバナナの皮などを駆使して相手の風船を割る。
私は拾ったこうらを敵に投げるものの当たらない。逆に敵には当てられる。あっという間に最後の風船だけになってしまう。とっても難しい。
不甲斐ない私にみくちゃんから檄が飛ぶ

「マリオ全然拾ってない!ちゃんとやって!」

「拾ってない?」

私の頭の中はクエスチョンとなった。どうやら私はゲームのルールを間違えていたらしい。こうらを敵に当てる「風船割り」ゲームだと思い、一生懸命投げていたのだが、実は「コイン集め」ゲームで、道に落ちているコインをたくさん拾ったチームが勝ちだったらしい。
敵にこうらを当てても、敵がコインを落とすだけで、道に落ちているコインを拾わないと勝つことができない。
マンマミーア!マリオ痛恨のミス。

「そうなの?!ごめんねー!」
私が足を引っ張る結果となり、チームは敗北となった。

9.3人でいざマリオパーティー

次はソフトを変えて「マリオパーティ」
これは色々なミニゲームができるもので、4人対戦もできる。また気を遣って、みんなで楽しめるものにしてくれた。
キャラクターは3人そろってプリンセスにした。私がデイジー姫を選んだときは2人に「えー!」って言われたけど「いいじゃーん」って気にしない。NPCにドンキーコングを選び3人+NPC1人でゲーム開始。
たくさんのゲームが詰まっていて、3人で一生懸命ゲームして楽しんだ。特に次の2つでは大盛り上がりだった。

1.この島に集まれゲーム
色々な模様の描かれた7マスの島。指定された島以外は沈没してしまうので、すぐに移動しなければならない。最後まで残った1人が勝ち。島が沈んでしまう怖さと瞬発力が試される。
このゲームの盛り上がりポイントは、他のプレイヤーの邪魔をすることができること。キャラクターはジャンプして他のプレイヤーの上からドスンとして踏み潰すことができる。潰されると元に戻るまで時間が掛かるため、結果として島と一緒に沈んでしまう。潰されそうになったら逃げるor真上に飛んできた相手に対してカウンターでジャンプすると飛ばすことができる。
二人とも「潰さないで~」と言いつつも相手を潰していたりして、キャッキャしていた。また、島が沈没してしまう怖さは相当なもののようで、特にみくちゃんは沈没しそうになると「キャー」と叫んでいた。みんなで笑った。

2.ラジコン風船割りゲーム
フロントに剣山、リアには風船が取り付けられた車のラジコン。それを操作して相手のラジコン風船を割り、最後まで生き残った人の勝ち。
盛り上がりのポイントは、操作の難しさ。ラジコンの操作方法が直感では難しく、前後で前進と後退はいいけど、左右でその場で右回りや左回りする。プレイステーションであった「バイオハザード」の操作方法。
その独特な操作に、思いもよらない方へ動いてしまい、逃げるつもりが相手に割ってくださいと言わんばかりに風船を差し出してしまったりする。しかも風船が割れるというのもやっぱり怖い。なぜか2人で共闘して1人を端に追い込んたりする場面も。(端にはトゲトゲが張り巡らされている)2人がにらみ合ってる隙にもう1人が襲ってきたりとハチャメチャ。みんなで笑った。

10.4人でお昼ご飯へレッツゴー

3人でゲームに夢中になっているところへ「ただいまー」とお母さんが帰ってきた。問題なく手続きは済んだらしい。
時間がお昼近くになってきたこともあり、みんなでお昼を食べに行くことになった。行くのはマクドナルド。
その前に、引っ越しで使ったダンボールの後片付け。使用済みのダンボールを開いて潰してまとめる。すると空っぽのダンボールをみくちゃんがかぶって隠れる。まおちゃんがダンボールの上を開けてみくちゃんを見つける。一見虚無とも言える遊びを二人で楽しむ様子は微笑ましいものだった。

みんなで協力してダンボールをまとめる。まとめて縛ったら、いよいよ出発!お揃いの上着を着て、元気よく玄関を飛び出していった。

マクドナルドまでは歩いて10分ほどの道のり。大人なら何のこともなく行ってしまう距離。でも子供たちは違った。
歩道は綺麗に整備されていて、レンガのような模様になっていた。同じレンガでも横向きに配置された、ほかとは違うレンガが等間隔に並んでいた。それに気付いた子供たちは、同じ向きのレンガだけを、足跡のようにはまるよう、横向きになって踏んでいた。等間隔ではあるけれど、間隔が短くて普通に歩くより時間が掛かってしまう。二人のかにさんは一生懸命になって踏み続けた。
大人なら見過ごしてしまうような普通の道。でも歩く人が違うとこんなにも楽しい道になる。
わずかな時間の出来事だけど、胸に刻まれた出来事だった。

11.まおちゃんの不安

マクドナルドはグラタンコロッケバーガー、通称グラコロの季節。お店の外壁にかかげられた垂れ幕には、湯気を上げたあつあつのグラコロが揺れていた。
いつもなら子供たちはハッピーセットにするみたいで、実際にみくちゃんはハッピーセットを選んでいた。でもまおちゃんはグラコロがいいらしい。お母さんに何度も「本当にグラコロでいいの?食べられる?」と確認されてたけど、頑なに食べるとうなずく彼女。そこまで言うならと、まおちゃんはグラコロにした。私たちも同じくグラコロ。タッチパネルで注文して番号札をもち、2階の窓際のテーブルへついた。

4人掛けのテーブルに子供たちとお母さん。私は少し遠慮して隣のテーブルへ座った。普通なら4人掛けのテーブルに4人で座ってもいいと思う。しかし、まおちゃんが普段なら食べないグラコロを注文したことに、感じることがあった。それはまおちゃんが、私が同じ食卓を囲むことに抵抗をしているんじゃないかということ。普段なら3人で食事をするのに、私という人物が普段の安心感・安堵感を奪うんじゃないかという不安を感じているように見えた。ここは少し距離を置いたほうがいいと考えた。

マクドナルドのクルーの方が、商品をテーブルまで届けてくれた。その方は60代くらいのおばちゃんで、私のことを「お父さん」と呼んだ。少し変な空気が流れたので私は「今日はパパ代理だからねー」と言っておいた。その時「傍から見れば、休日にマクドナルドでお昼を食べる幸せそうな家族に見える。幸せな家族っていうのはこういうものなのかな」と考えさせられた。

子供たちはハンバーガーやポテトをおいしそうに食べていた。
まおちゃんは慣れないグラコロを一生懸命食べていた。でも途中からグラコロの中身のグラタンだけほじって食べだした。口に合わなかったのかな。
結局食べきれずに残してしまい、お母さんに叱られたけど、私がいる状況がそうさせたんじゃないかなと申し訳なく思った。

みんな食べ終わってから、上がった親指の数を当てるゲーム「いっせっせー」をやった。最初はみくちゃんとお母さんと私の3人でやったが、途中からまおちゃんも参戦。まおちゃんは初めてやるようで、お母さんがルールを説明するものの「分からない」と言っていた。これも駄々をこねているような感じだった。まおちゃんは、なかなか手強いかも。

12.帰り道を楽しむ

片づけをして、お店を後に。
帰り道は下り坂になっていて、最初は歩道脇にある低い敷居のブロックの上を歩いていた二人。しかし進むうちに段々と高くなっていき、行き止まりになるころには、飛び降りるのが怖いくらいの高さになっていた。みくちゃんのワキを両手で支えて下ろしてあげた。なんの抵抗もなく受け入れてくれたのが嬉しかった。まおちゃんはお母さんに下ろしてもらってた。

道の途中、花壇に土をはうように生える、とげとげサボテンが植わっていた。
「サボテンあるよー」というと、まおちゃんが駆けてきて、痛くないよう上着の袖を人差し指に巻きつけて恐るおそる触っていた。かわいい。
私は道端に生える草花が好きで少し詳しい。いつか子供にお話しすることがあるだろうと考えていた。今回はそんな時だったかもしれない。しかし季節柄、花はおろか雑草すら生えておらず、枯れたものか、もしくは冬の形態であるロゼットになったものばかり。せめて猫じゃらしでもあればなぁと残念だった。

13.さらに仲良くなれるゲーム

家に帰り私はカバンから、持参したアナログなゲームを取り出した。それは「スティッキー」。ドイツ製のテーブルゲームで、ルールは至って簡単。割り箸のような色のついた木の棒の束を、木製の輪っかで束ねて捻り垂直に立てる。その束を倒さないように、一本ずつ棒を抜いていくというゲーム。
棒には3色あって、それぞれ太さが違う。サイコロで出た色と同じ色の棒を抜く。太い青色の棒は3点で、細い黄色の棒は1点、その中間の太さの赤色の棒は2点。
子供から大人まで楽しめるゲーム。
最初は二人とも恐る恐る抜いていたけど、得点が貯まるのが嬉しいのか、私が抜いている最中にもサイコロを振って、早く抜きたいと言わんばかり。そして抜いた棒の点数を一生懸命に計算していた。
最初のゲームではみくちゃんが倒してしまい負け。追加ルールで「倒した人がモノマネ」をして、他の人が当てることになった。
みくちゃんはモグラのモノマネだった。するとまおちゃんが「私も」といってモノマネをしだした、負けていないのに。
まおちゃんのモノマネは「大の字になって眠る」というもの。何かなと二人で考えたけどなかなか難しい。もしかしてと思い、こう答えた。「カビゴン?」「せいかーい!」
ポケモンとは思わなかったので分からなかった。そして次のゲームからは「負けた人がポケモンのモノマネをする」に変わった。二人はモノマネを正解しても「えー、違うよ、こうだよ」と相手のポケモンのモノマネを訂正しあったりした。
お気づきの方もいるかもしれないけど、私はモノマネがかなり苦手。体で大きな表現をしなければならないし、誰にも正解してもらえず滑るようなことになったら目も当てられない。
しかしついに私が倒してしまい、モノマネをすることになった。私は頭の中で繰り返した「ここで恥ずかしがったらダメ。今こそ殻を破る時!」すぐに気持ちは固まり、思い切ってモノマネをした。私のモノマネを一人が正解すると、もう一人が「私もそう思った!」とさらに白熱。大盛りあがりで3人で楽しんだ。
なぜか同じ色が立て続けに出たり、最後の3本になるまで倒れなかったりと白熱。さらに得点計算にも熱中。
こんな日が来ることを夢見て、ずっと昔に購入したゲーム「スティッキー」。報われたスティッキー。みんなで盛り上がることができて良かった。
終盤は飽きてきたのか、抜いた棒をソファーの隙間に挟みだしたので終了。シンプルだけど楽しかった。

スティッキーで遊んでいる途中、お母さんは買い物へ。また3人だけで遊ぶことになった。

14.子供たちはポケモン大好き

次に遊んだのは私のスイッチ。彼女たちはポケモンが好きということを聞いていたので、事前に購入してある程度すすめて知識をためておいた。
最初はポケモン図鑑を見せてあげようと、スイッチを携帯モードで二人に見せた。
最新作であるポケモンSVの御三家ポケモンの一匹であるニャオハは知っていたけど、その最終進化系であるマスカーニャは知らなかったようで、見せるとビックリしていた。

「可愛かったのに、こんなのになるの?」

知らない人に説明するとニャオハとはネコのようなポケモンで、顔に大きな葉っぱの模様があるポケモン。ネコだけあって小さくてかわいい。
そのニャオハが最終進化ではマジシャンポケモンのマスカーニャになる。マスカーニャはマスカレードの仮面とマントをつけていて、しかも2本足で立つ。顔に多少ニャオハの面影があるけど、不気味である。そのため、子供たちにとってはショックだったようだ。
そんなことはあっても二人はポケモンに夢中で、私が持つ小さな画面を一生懸命に覗き込んでいた。さすがに3人で見続けるのは大変だったので、途中からTVモードに切り替えることにした。

15.2人がなかよしな理由

私のスイッチをドックにセットして、大きなモニターに映し出す。
最初に、倒したポケモンを簡単に捕まえることができるレイドバトルをやってみせると、目をキラキラと輝かせて見ていた。そして次は彼女たちにコントローラーを渡し、操作を任せることにした。
空まで突き抜ける光が見えるところにレイドバトルがてきる祠がある。2人にはそこを目指してもらいレイドバトルしてもらった。オープンワールドなので、フィールド上には色々なポケモンがいる。ぶつかると通常バトルが始まる。
途中から彼女たちの中で「2回戦ったら交代する」というルールができていた。見えないところからポケモンが出てきてぶつかってしまうと「今の見えなかったからもう1回」とか言い合っていた。
二人の仲がいいのは、こういうところなんだと思う。お互いが思いやりの気持ちを持っていて、お互いが楽しめるようにしているから。これもお母さんの教えなんだろうな。

ゲームをしているとお母さんから連絡が入った。どうやら車の駐車場トラブルに巻き込まれたらしい。心配はないみたいだけど、帰りが遅くなるということ。子供たちに伝えると「うん」というあっさりした答え。ポケモンに夢中のようだ。

二人は雑魚ポケモンであろうと全力で戦う。ギャラドスのはかいこうせん、ウィンディのかえんほうしゃ。二人の容赦ない攻撃に、パルデア地方のポケモンたちはおののいていた。

16.一生懸命遊んだあかし

お母さんが帰ってきた。
トラブルに巻き込まれたものの、ケガなどではなかったのが不幸中の幸いだった。ただ完全に解決したわけではなく、明日以降も引き続き対応しなければならないのが気の毒だ。
少しポケモンに飽きてきたみくちゃんが、お母さんに駆けよる。でもまおちゃんはポケモンに夢中。
お母さんの提案で、夕食もごちそうになることになった。
みくちゃんはお母さんの手伝いをする。今日の夕食はお鍋だ。
実家からもらった立派な白菜を切ったり、つくねをこねたり。みくちゃんは、色々なことに興味を持つ、好奇心旺盛な子。

料理が進み、夕食の準備が整ってきた。
ポケモンもちょうどキリのいいところだったので、「今日はここまでね」とまおちゃんに伝え、コントローラーを預かった。受け取ったコントローラーをみると十字キーに汗がついていた。

「小さな手で一生懸命ゲームしていたんだな」
その健気で純粋でひたむきな彼女に胸を打たれた。

17.食卓を囲むということ

4人で食卓を囲む。芯から暖まりそうな湯気のたちのぼる鍋。味のしみ込んだ白菜はもちろんおいしかったが、薄くスライスされたニンジンがよかった。聞くと薄くスライスすることで味が染みこみやすくなるし、子供たちも食べやすくなる。こういった工夫をすることができるのは、さすが料理上手だと思う。
子供たちはおいしいお鍋をたくさん食べる。つくねもおいしいね。そんな様子を見て、微笑むお母さんが何気なく口にした一言
「みーちゃん…」
子供への愛しみに満ちた言葉だった。

私もおいしいお鍋に箸がすすみそうになった。しかし自制した。子供たちにはたくさん食べてほしいのはもちろん、おそらく残りを明日のお弁当にするだろうから。いらない気遣いをするのがいかにも自分らしい。

普段なんて1人で食べることが当たり前で、鍋を誰かと食べることなんてまずない。
だれかと一緒に食べること。
だれかと食卓を囲むこと。
こんな幸せなひとときに感謝しなくちゃ。

18.食後もまだまだヒートアップ

食後、大人はゆっくりとお酒を傾けるが、子供たちは元気いっぱい遊ぶ。
次はサーキュレーターに風船を浮かべる遊び。風向きと跳ね返りとがうまく調和し、風船が宙に浮いたままになるポジションを発見した子供たち。風船は2つあって、一つが浮かんでいるところへ、もう1つを浮かべようとすると風船同士がぶつかり合って弾き飛ばされてしまう。その様子を見て大笑い。2人のパワーは見てるこちらまで笑わせる。

暑くなってきたところで、今日のデザート。今日はハーゲンダッツのアイス。リビングの机で2人仲良く。食べながら遊ぼうとするので、私は監視役として一緒に座る。
「机にこぼしちゃだめだよ~。こぼしたらモノマネだよ~」
注意しているそばから、みくちゃんが机にアイスをこぼしてしまう。
そしてここからモノマネ合戦が始まった。当然私も巻き込まれ、苦し紛れにコイキングのモノマネをした。その様子を先輩に見られ笑われる。でもやってる本人は必死。(早く当ててほしい)
まおちゃんから「今日出てきた?」と聞かれ「進化したのが出てきたよ」と伝えるも分からない様子。(恥ずかしいから早く当ててほしい)
必死でコイキングの必殺技「飛び跳ねる」をし続けた。(しかし攻撃力は0)

19.弾ける笑顔

夜が深くなってくる。それでも子供たちは相変わらず元気いっぱい。ソファーに寝転がり、背もたれに足をかけて腹筋運動10回!お母さんのお古のスマホでその様子をお互いに録画し、再生して大笑い。そのスマホを借りて、私が二人の楽しい様子を撮影。
何かの技に挑戦するみくちゃんを撮っていたが、技に失敗!するとまおちゃんが画面端から出てきて、胸の前で両手でバツをつくり「できませんでしたー!」と弾けるような笑顔をスマホに向ける。
最高に楽しいな。

20.さよならの前にプレゼント

さよならの時間が近づいてくる。お別れする前に、用意しておいたプレゼントがあるので渡そうと思っていた。しかし今日はクリスマスイブ。子供たちにとってのビックイベントであり、最大級の喜びを迎えてほしい。
そんな日に私がプレゼントを渡すのは、サンタさんのプレゼントの喜びを薄めてしまうのではないかと思い、先輩に相談した。すると「気にせず今、直接渡してほしい」ということだった。そこで私は2人にプレゼントを渡した。ミッキーのシルエットの描かれた袋をそれぞれ渡す。中に入っているのは「タオルハンカチ2枚」1枚はプリンセス柄で、もう1枚は二人のイニシャル「M」の入ったミニー柄。早速お母さんと3人で子供部屋のハンカチ入れにしまってくれた。

21.魔法が解ける時間

お母さんから子供たちにお風呂に入るよう告げられる。
しかし、すぐにストップがかかる。どうやらお風呂に入るときは脱衣所で脱ぐわけではないみたい。「危うく犯罪者にするところだった」と笑う先輩。私に仕掛けられた罠だった。

いよいよ本当にさよならの時間。
プレゼント袋についていた布ひもを片手に、玄関までお見送り。二人して布ひもを手すりに通してゴシゴシお掃除しながら。
靴を履き「ばいばい、また遊ぼうねー」と声を残し、玄関を出る。

「ばいばーい」

振り返ると満面の笑みとともに、手を振る彼女がいた。

夜は更け、魔法は解けていった。

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