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書籍『ベトナム凛と 大石芳野写真集』


大石 芳野 (著)
出版社 講談社‏
発売日 2000/10/1
単行本 298ページ





レビュー

 私の写真は、芸術作品ではありません。
 自分の作品を撮ろうとも思っていない。
 私は知りたいのです。そして知り得たことを伝えたい。
 そのためにカメラがあるんです。

『サライ』 2023年4月号 より

 大好き&尊敬する写真家、大石芳野さんの言葉です。

 本書表紙の一枚は、突然のスコールの降り注ぐ中、お互いに全く知らない者同士で偶然にすれ違った農村の女性を、そのすれ違いざまに1枚、カメラを目に当てることも無く撮影したものであるとのこと。

本書表紙

 初めてこの写真に出会ったとき、そのような情報は全く知らず、私の脳裏に浮かんだのは、「もし自分が写真家であったなら、このような笑顔を向けてもらえる人間だろうか?」という疑問と、「芳野さんの笑顔も写っている……」という感覚でした。
 芳野さんがこの写真を撮影なさった瞬間の笑顔は、当然残ってはいませんし、決して目で見ることは出来ません。しかし、芳野さんの笑顔もはっきりと見えるのです。2人のすれ違う姿までが、見えるのです。
 雨の音が、匂いが、そして一瞬の感情までもが、まるで自分が経験したかのようにリアルな記憶の感触を、残します……

 見れば見る程素敵で、撮影時の情報を知った後には更に好きになり、人生で最も好きな、そして最も大切な、宝物の一枚となりました。
 
 写真として記憶に残る一枚ではなく、体験として感情に焼き付く、一枚。



『サライ』 2023年4月号 より


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