見出し画像

書籍『ケルトの白馬』

ローズマリー・サトクリフ (著) 灰島かり (翻訳)
出版社 ほるぷ出版‏
発売日 2020/1/17
単行本 173ページ




目次
第一章 夢の白馬
第二章 大広間でのけんか
第三章 証人の話
第四章 婿選びの儀式
第五章 南の驚異
第六章 征服者と征服された者
第七章 囚われの冬
第八章 取り引き
第九章 鷹のもの、神のもの、そして地上の人間のもの
第十章 長の使命
第十一章 深まる孤独
第十二章 北へ向かう者たちの歌
第十三章 太陽の馬、月の馬


内容解説

 イギリス、バークシャーの緑なす丘陵地帯には、巨大な白馬の地上絵がある。古代ケルト人が描いた地上絵は、力強く美しく、悠久の時を超えて命の輝きを放つ。なぜ、どのようにして、この「アフィントンの白馬」は描かれたのか。イギリス児童文学の異才サトクリフが、今はもう忘れられた豊かな物語を紡ぐ。

公式サイトより


実際の「アフィントンの白馬」


レビュー
 
作者ローズマリー・サトクリフは本書「はじめに」にて、

 アフィントンの白馬は生きて動いています。その姿は力強く美しく、奇跡のようです。
 これほど魅力的なものには、背景に何か物語があったにちがいないと、わたしはいつも思っていました。忘れられた豊かな物語、それを語ることができたらどんなにいいでしょう。それがある日のこと、T.C.レスブリッジという人の書いた『魔女ウィッチズ』という本を読んでいたら、面白いことがわかりました。初期鉄器時代のこと、イーストアングリア地方には「イケニ族」という名前の偉大な部族がおりましたが、そこからある一団が、アフィントンの白馬のある丘陵地帯に移住したらしいのです。しかし彼らはやがて、南からやってきた侵入者に追いはらわれ、その地から姿を消します。これを読んだとき、わたしのなかで物語が息づきはじめました
 そしてできあがったのが、この『ケルトの白馬』です。
 レスブリッジ氏は、追いはらわれたイケニ族は後にスコットランドのアーガイル地方やキンタイア地方に移住し、エピディ族と呼ばれるようになったのだと考えています(「イケニ」も「エピディ」も「馬の部族」という意味です)。これが真実だとすると、『ケルトの白馬』の主人公ルブリンの一族は無事北の草原にたどりついたことになり、わたしの物語はある意味では、ハッピーエンドということになります。

と語っていますけれども、たったひとつの地上絵と、その地上絵のある地方にまつわる若干の考古学的知見を偶然得たことにより、一編の忘れがたい物語を紡ぎ出してしまうとは、まさに作家(物語る人)であるなと思います。

 またサトクリフは「友情」や「自然」描写の名手でありますけれども、本作も心に残る描写が多数ありました。
 しかしながら最も私の心をとらえたのは

 ルブリンは、嘲笑ちょうしょうまとになった。攻撃の先頭に立つのは、いつもブラッチとコフィル。ふたりは自分たちが理解できないものはばかにすることにしていた。ばかにしていないと、逆におびやかされる気がするからだろう。

という一文でした。
 その鋭い指摘は積年の疑問を、僅か数秒にて「氷解」へと導いてくれたのです。
 
 『ケルトの白馬』。
 サトクリフの疾走する創造力を感じる力強い、物語。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?