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亜済公
2020年7月22日 14:49
「……そうね。今でも覚えてる。毎週土曜日に学校で配られた、チョコレートの味。砂がたくさん混ざっていて、チョコがすっかり溶けた後、吐き出さなければならなかった。それでも、美味しかったのよ。とっても甘かった。私達が食べたことのない味。夢の味。これが勝利の味だって、いつも先生は仰ってたわ。それで私達、一生懸命頑張れたのよ。その頃は、誰も彼もが貧しかった。 私達が通ったのは、町の隅っこにある、外国人
2020年5月3日 14:46
《――二月十四日午後七時頃、東京第三区の一軒家にて、男性の遺体が発見された。死因は胸部の圧迫による窒息死と考えられ、警察は原因の究明を急いでいる。関係者の証言によると、男性の部屋には複数体のロボットが置かれ、その殆どが性処理用の女性型だったという。 二月十五日 朝刊》 道行く人の首筋に、水滴が浮かんで光っている。僕は鞄をぶら下げて、目の前に広がる街並みをボウッと眺めた。人波はうねり、赤、青、黄
2020年4月17日 20:58
異常気象は、時と共に異常ではなくなった。真夏に雪が降る日は珍しくなく、とんでもなく暑い冬もまた同様に、私達の生活を彩る一部となる。下手な条例も奇態な若者文化も、いつしか「当然のもの」として、社会に浸透し拡散した。 先日メッセージをくださった方の要望に応えて、私が子供の頃の話をしよう。まだ雪は冬にしか降らず、虚構が現実と重なり始めたばかりの時勢。私はうら若き少女だった。ボウッと生きて、ボウッと時