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(非公式)『運命戦線リデルライト』第一話「キミだけのチカラ」

(非公式)『運命戦線リデルライト』第一話「キミだけのチカラ」

     〇

 小さい頃、本屋さんで占いの本を買ってもらった。
 手相だとか血液型とか、今に思えば他愛のない話だけれど。
 その頃のわたしには、何だか素敵に思えたのだ。
 運勢を――あるいは「運命」を占いましょう、と本は語る。
 赤い糸で結ばれた、顔も知らない誰かとか。
 幸せを約束された未来とか。
 けれど、本は一つだけ嘘をついていたのだ。
 運命は、もっと残酷なものだって。
 教えてくれれば

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短編小説 「足と仮面」 高校生のための小説甲子園落選作

短編小説 「足と仮面」 高校生のための小説甲子園落選作

 写真機の入った愛用の鞄が、妙に重たく感じられた。被写体にふさわしい風景が、どこにも見当たらないせいだった。
 暗い空がビルの明かりに照らされて、霞んだような色をしている。月は遠く、建設中のデパートの影に隠れながら、こちらをじっと見下ろしていた。
 繁華街は騒がしく、抱き合った男女だとか酔っ払った集団だとかが、地面へ深くめり込んでいる。両脇に長く連なった、楽器屋、質屋、あるいは雑多な飲食店。それら

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短編小説「ある模範委員の回想」全文

短編小説「ある模範委員の回想」全文

「……そうね。今でも覚えてる。毎週土曜日に学校で配られた、チョコレートの味。砂がたくさん混ざっていて、チョコがすっかり溶けた後、吐き出さなければならなかった。それでも、美味しかったのよ。とっても甘かった。私達が食べたことのない味。夢の味。これが勝利の味だって、いつも先生は仰ってたわ。それで私達、一生懸命頑張れたのよ。その頃は、誰も彼もが貧しかった。
 私達が通ったのは、町の隅っこにある、外国人

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小説「倫理回路」第一話(全三話)

小説「倫理回路」第一話(全三話)

《――二月十四日午後七時頃、東京第三区の一軒家にて、男性の遺体が発見された。死因は胸部の圧迫による窒息死と考えられ、警察は原因の究明を急いでいる。関係者の証言によると、男性の部屋には複数体のロボットが置かれ、その殆どが性処理用の女性型だったという。 二月十五日 朝刊》

 道行く人の首筋に、水滴が浮かんで光っている。僕は鞄をぶら下げて、目の前に広がる街並みをボウッと眺めた。人波はうねり、赤、青、黄

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近未来人工人格百合SF小説 「人工人格」

近未来人工人格百合SF小説 「人工人格」

 異常気象は、時と共に異常ではなくなった。真夏に雪が降る日は珍しくなく、とんでもなく暑い冬もまた同様に、私達の生活を彩る一部となる。下手な条例も奇態な若者文化も、いつしか「当然のもの」として、社会に浸透し拡散した。
 先日メッセージをくださった方の要望に応えて、私が子供の頃の話をしよう。まだ雪は冬にしか降らず、虚構が現実と重なり始めたばかりの時勢。私はうら若き少女だった。ボウッと生きて、ボウッと時

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