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9歳のサバイバル生活

9歳のわたしは、エサを探すノラ猫のようだった。

どうやったら食べ物にありつけるだろう。ちょっと汚いことぐらい、平気でする。笑われたって、好奇な目をむけられたっていい。

朝は冷凍庫をあさり、ラップに包まれた6枚切りの食パン半分を凍ったままかじる。昼は、学校の給食。男子に負けずにおかわりをする。夜はない日もあった。継母からのお仕置きとして。困ったわたしの顔をみたいイタズラとして。

母と義兄が「外で夜ごはんを食べてくる」といい、自宅に取りのこされる日もあった。

冷蔵庫をあされば食べ物があったかもしれないが、勝手に食べて怒られる想像がついたので、バレにくい「乾燥パスタ」を数本かじった。砕いたデュラム小麦が、奥歯にくっつく。

こんな生活だったので、健康診断の結果が悪いくらいには影響は出ていたが、殴られて青タンができたり、物が飛んできたり、包丁をむけられることに比べれば、大したことではない。

開封後に長時間放置して「モワモワした球体」が浮かんでいる爽健美茶を飲まされたこと。新幹線の発車5分前に買い物にいかされ、置きざりにされるかもしれない恐怖から慌てるわたしをみて、継母と義兄がニタニタと笑っていたこと。大学病院に通っていたとき、継母と義兄は車なのに、わたしだけ電車とバスだったことも。

休日は、かならず友人の家に出かけた。

「お菓子を出してくれる友達の家」を何件か把握しておき、ローテーションしながら遊ぶ約束をする。怪しまれないよう、なるべく長く付き合ってもらえるようにするために。面白いのは、家の経済的状況によって出てくるお菓子がちがうこと。余裕があるお宅は、出てくるものにも余裕がある。

ただ、友人宅に頼れるのは、土曜と日曜のみ。ほかの5日間は、自分でどうにかするしかない。

学校の校庭に生えている桑の実は、毛虫のような見た目に反して、紫色に熟れているとブルーベリーに似た甘さがある。赤く未熟な状態でも歯応えと酸味があり、結構いける。ただ、腹持ちが悪い。シーズン外は収穫できないし「少しずつ計画的に食べよう」とは考えずに食べつくすものだから、なくなってしまう。

手段がなくなると、継母や父の財布から、食費にあてるためにお金をくすねた。

数十円の小銭からはじまり、500円、1000円とふえた。5000円札までいったときは「お金をとっただろう」と疑われてしまった。大人は、財布から5000円がなくなくなれば気がつくらしい。

しかし、友人の家で出てくるお菓子も、くすねたお金で買うチープな駄菓子にも飽きる。極端に甘いか、味が濃いスナックばかり。ご飯にスープ、肉や魚も食べたい。

そこで、学校の給食。わたしのオアシスだった。おかわりできるものは、何でもする。コッペパン、あまり好きではないぬるい牛乳、不人気のABCスープ。苦手な人が多い、豆ご飯。みんな、残してくれてありがとうございます。

希少価値の高い食べものを奪いあう「おかわり大戦争」にも、男子にまじって参加する。夏場のアイスクリームの競争率は高い。ジャンケンタイムがはじまる。勝ち残ったものだけが、貴重なおかわりをもらえる。

アイスクリームを手にできたのは、2回。カップは結露でふやけて柔らかくなり、握力に負けたアイスクリームが、ぐにゃっとカップの縁からはみ出していた。


給食の後片づけは、率先してやった。

コッペパンや揚げパンは、保存食に適していない。コッペパンはパサついて、大きいので口にもポケットにも入れにくい。揚げパンは、油がしみ込んだパンと、きな粉と砂糖のコーティングを喉から手がでるほど味わいたかったが、グッと堪えた。口や手にきな粉や砂糖がつく。服も汚れてしまうから、ポケットにも入れられない。

今思えば、ビニール袋でも用意しておけばよかった。小学4年生、頭が足りないぞ。

いっぽうロールパンは、コッペパンにも、揚げパンにもない「いいとこ取りの食料」だ。小さく、水気をふくんでいて、頬張りやすい。圧縮すればギュッと固まる。ポケットにも入れやすい。きな粉や砂糖もないので、服も汚れない。

しかも、圧縮したロールパンは意外と美味しい。幼いころから、パンを小さくして食べる癖があった。ひと口大にちぎって、手のひらをあわせてギューっと圧縮すると、少し硬いソフトクッキーのようになる。小麦粉の甘さが凝縮される。ロールパンも、同じく。

くすねたお金が少なくなり、駄菓子にも飽きて、ロールパンのストックもないときは、お肉屋さんへ行った。

自宅をでて、15分ほど歩いて住宅街をぬけると商店街がある。むかいには大きな公園があり、首が痛くなりそうな急な坂道と接していた。その坂を登りきると、小学校がある。

商店街のちょうど中間地点に、お肉屋さんがあった。揚げたてのハムカツと、コロッケを食べられるお店だった。

お気に入りは、ひとつ54円のハムカツ。お肉屋のおじさんが3枚重ねたロースハムを、小麦粉をといた白い液体にくぐらせ、パン粉をつけ、油のプールの中にダイブさせる。数分およげば、できあがり。

おじさんは「ケチャップとマスタード、好きなだけつけていいよ」と言いながら、あげたてのハムカツを紙にはさんで渡してくれた。紙が油をすい、指先まで滲みだしてくる。

お店の脇には、セルフサービス用にケチャップとマスタードのボトルが置いてあった。マスタードの美味しさはわからなかったので、ケチャップだけつけた。

お店の前にあるベンチに座る。油にひたり、少し柔らかくなったハムのジャンキーな味わい。衣のしっとりさと、サクッとした食感のハーモニー。そして、おじさんの何気ない「ケチャップとマスタード、好きなだけつけていいよ」のひと言。サバイバル生活のあいまの、ほんのわずかな休息。

ハムカツとおじさんのひと言も、私のオアシスになった。


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