星崎梢

人生で初めて『書く』を実行しようと思って始めた短編小説用アカウント 基本的に小説と詩ら…

星崎梢

人生で初めて『書く』を実行しようと思って始めた短編小説用アカウント 基本的に小説と詩らしきものを投稿していきます

最近の記事

ラムネ 【シロクマ文芸部】

ラムネの音がなる。 からり、 からり、 からりん、 しゅわり。 ラムネの瓶を傾けて中のビー玉をころり、ころりとまわす。 まだ半分しか飲んでいない青い液体から小さな泡が粒のようになにもないところから発生し、表面にたどり着いてまた消える。 納涼のために来た川の上に立った店で、僕は鮎を頬張りながら、ラムネの瓶をまわす。 からり、からり、くるり、ころり。 木造の床と流れ行く風が心地いい。 平日に休みをとってきたから、客も少ない。 外に拓けて見える景色は大きな川とその向こうに広がる

    • たんたんたん 【詩小説】

      淡々タン…と 語るあなたの目は何処を見る ここを見ずに 過去を見て 夢を見ずに 闇を見る 淡々たん…と 語るあなたの目の前の カフェラテが冷めゆくことにも あなたは気付かないまま きっと何かを負った人はそうなのだろう 私の母もそうだった 目の前の人間が見えず 娘が見えず 慰めが見えず 自分の痛みしか見えない あなたもそうだった 私もそうだった 君の優しさに触れて私は気付く 私は苦しみをなかなか語らない でも私は学んだ 苦しみを 淡々とではなく 支離滅裂と 没入し めちゃ

      • 化学反応 【超短編】

        私は浮遊する小さな小さな物体。 きっと、誰も私の存在に気付かない。 私は双子と共に、あちらこちらへと飛び回って、悠々自適に暮らしていた。 空が青い日も自由に飛び回り、風が吹けば吹き飛ばされたりしながら。 道端に咲く小さな花の葉から、街路樹のプラタナスの葉から、様々な植物の葉から仲間が生まれてきては、手を繋いで一緒に遊ぶの。 私たちはきっとずっと友達だよねなんて言って。 でも、急に人間に吸い込まれている仲間を見たりもして、センチメンタルになる。 私もそのうちどこかに吸収され、

        • マリッジブルーズ 【2】

          祖母の芳江には孫寧々は姫に見えた。 姫にしか見えなかった。 なんて贅沢なんだろう、と今の若い子達を見ていて思う。 サクサクサクと、築四十年にもなろうかという自宅のキッチンで、きゅうりを刻みながら思う。 服はファッションの流行りが変われば捨て、綺麗な家に住んで、ときめくような機械を手に持って。 どこにでも行けて。何者にでもなれて。 本当はそんなに煌めいたものでもないと、違うというかもしれないけれど、自分の小さい頃と比べるとそう見える。 なんて贅沢なんだろう。 なんて便利なん

        ラムネ 【シロクマ文芸部】

          アートの受信機 【短編】

          「何あれ、気持ち悪っ」 茉耶は木製の駅舎の前に飾ってあるオブジェを見ながら、つい口に出して言ってしまっていた。 ー あ、こんなこと言っちゃいけない。『表現』なんだから。 茉耶がそんなことを思うのには、親友の理佐の存在が大きかった。芸術高校を出、自分にはアートは追求できないと思って、茉耶と同じ一般的な文系学部で大学に入った後も、それでも彼女なりのアートを作り続ける彼女の作品がよぎったからだ。 念の為いうと、理佐の作品に対して、茉耶は嫌悪感を感じるほどのことはあまりない。あ

          アートの受信機 【短編】

          マリッジブルーズ 【1】

          「なんでそうなるのよ!」 そう言って寧々は婚約者のユウタに結婚情報誌を投げつけた。 ぶぁっさと音を立てながら、分厚い雑誌はユウタの膝のあたりをかすめてフローリングに落ちる。 候補の結婚式場にふせんがされた雑誌はゴミのように床にぐしゃりと広がった。その広がりように、寧々はぐしゃりと潰された自分の夢のようだと思った。 「落ち着けよ…」 寧々が潰されたと感じるその夢を気怠げに持ち上げながらユウタは言う。正直疲弊していた。 結婚の話になってから、もともとわがままだった寧々は一層

          マリッジブルーズ 【1】

          リプレイ【1250文字】

          ずん、 と落ち込んだ気分をしたまま、私は何日分もの未整理を抱えたキャメルのカバンを提げて、扉を出ようとする。 あっ、待って、 マスクがいるかもしれない。 まだ感染症下の影響がうっすらと名残を残す社会には、『どこにでも入れるフリーパス』として、マスクは手に持っておいた方がいい。 私はもう一度廊下から玄関にたどり着き、 あ、待って、と再度止まる。 ガス、全部止まってるよね、とそそくさとキッチンに戻り、いち、に、さん、全部縦向き、大丈夫、 とまた廊下から玄関に戻ろうとする。

          リプレイ【1250文字】

          運動会なんて嫌いだ 【ショート】

          僕は運動会が大嫌いだ。 走るのが遅いとか、集団行動が嫌いとか、そんなことじゃないんだ。 僕はわからない。 なんで僕に「死ね」とかいう佐々木や、 僕のものをとって面白がる金井や、 一度だけだけども僕をトイレに閉じ込めて楽しんでた横井なんかと同じチームで『仲良く』『協力』しなきゃいけないのか。 僕にとって有利なゲームで、僕が選ぶ仲間たちで、チームを組んであいつらを倒すならいい。 なんで、僕はあんな鬱陶しいやつらと一緒に『優勝めざそー!』とかいった綺麗事をやらなきゃいけないんだ

          運動会なんて嫌いだ 【ショート】

          赤い傘 【シロクマ文芸部】

          赤い傘を差していたあの人。 時代遅れの赤い蛇の目を差し、場末のスナックのような赤い紅を差し、頬にヒステリックな頬紅を差していたあの人。 赤いサテンのドレスを異様に愛し、愛する男に会いに行っていたあの人。 私の目に赤く、醜く、どす黒く変色した血のように、 恐ろしいものを抱えて見えたあの人。 何か言葉にできぬものを抱えて、幼い私にそれを隠そうともせず、 精神のヤミを教えてくれたあの人。 逃げられないほどに目の前で、私を母親にした私の母親。 「すごい傘もってるね」 というあなたの

          赤い傘 【シロクマ文芸部】

          奇岩シューズ【毎週ショートショートnote】

          「俺、奇岩って嫌いなんっすよね」 「はあ」 「だって意味わかんなくないっすか。 岩って、なんでも不思議な形してると思うんっすよ」 「ふん」 「そんならなんだって奇岩じゃないっすか」 「へえ」 山頂への途中の休憩地。 登山客たちの中から、何故か話しかけられた僕は、絡まれてしまったと後悔していた。 この山の頂からはいわゆる「奇岩」が見えるらしい。そんな山をこれから登るのに、何を奇岩について文句言ってんだ、この人は、と僕は思う。まあ、ついさっきまでの道は急だったから、

          奇岩シューズ【毎週ショートショートnote】

          祈願上手【毎週ショートショートnote】

          「ああ、神様………   ………   ………わかりません」 キヨカは一人、学校の教会の会衆席の最前列に座って、頭を下げ、目を閉じ、祈っていた。 朝のミサでも真面目に祈ったことなんかほとんどなかったのに。 でも、今は祈ってた。 いや、祈りたかった。 何もかもがうまくいかなくて、どうしようもなくて、 誰もいもしない放課後の教会堂に立ち寄って、 誰かが、いや、神様が、助けてくれないかと、 祈ろうとしたのに、 祈れなかった。 嫌だった。 あれもこれも全て。 でも、いざ何かが変

          祈願上手【毎週ショートショートnote】

          金魚鉢 【シロクマ文芸部】

          金魚鉢にうつる自分の顔に驚く。 そこにうつる私の顔は大人の顔だった。 何故、この鉢の金魚を飼い始めた頃の自分の顔が映るはずだと思っていたのか。私はもう大人なのに、あの頃に急に戻りたくなってしまっていたのか。 もう一度金魚鉢にうっすらとうつる自分の顔を見る。初めてこの鉢のくろちゃんを飼い始めた頃とは違う顔。同じ目だけども、違う顔。いつのまにか私は化粧をし、睫毛を長く見せ、瞼にきらめくマイカを乗せるようになった。あの頃の幼い顔でも素顔の私でもない。くろちゃんと出会った頃の私とはか

          金魚鉢 【シロクマ文芸部】

          山岳カルマ【毎週ショートショートnote】

          私は貪欲な海の底だった。 冷たく、暗く、濡れた場所にいて、上から幾度となく何かが降って、降りてきては私の上に積もっていく。 私はこの降りて来たものが羨ましくなった。 この冷たく、暗く、濡れた場所から抜け出して、 きっといつか上を目指したいと思った。 この舞い降りてくるカケラたちがどこから来るのか、その世界を見てみたいと思った。 何万年もかけて、私海の底から上を目指した。 周りの土地を巻き込んで、私は盛り上がった。 盛り上がった私は、水から顔を出し、空気に触れ、更に褶曲したり

          山岳カルマ【毎週ショートショートnote】

          文学トリマー【毎週ショートショートnote】

          「ホノカってさあ、言葉が綺麗だよね」 「そう?」 もの書きを目指している私からしたら、読書会で出会ったユリに言われるのは嬉しい。でも嬉しいと同時に、内心これで正しいのだろうかと悩む。 「ホノカはもの書いて生きたいんだもんね。すごいなあ。たくさん読んでるもんね」 「うん、そうだね」 私は綺麗な言葉の本が好きで、歌詞が好きで、詩が好きで、気付けば書く人間になりたいと思っていた。 なのにいざ言葉が綺麗と言われて不安になるのは、私の言葉が所詮読んできた綺麗な言葉たちのコラージュ

          文学トリマー【毎週ショートショートnote】

          When I was your moon 【ショート恋愛小説】

          私が月だった頃の話。 「今日、あの曲がり角に出来たお店に行こうよ」 そういうあなたに、私は「うん」と頷く。 きっと私の目はきらめいて、あなたは私の目を一目見れば、あなたに恋していると悟る。 大学で出会ったあなたには、夢があって、目的があって、エネルギッシュに仕事をして、恰好よかった。私はあなたの夢のはしくれと出会って、何度もあなたに出会ううちに、あなたと恋に落ちた。 あなたは私の手を握り、私はあなたに笑い返して、曲がり角に出来た新しいお店でコーヒーを頼む。私はあなたを見つ

          When I was your moon 【ショート恋愛小説】